【ちょっと昔の世界一周】 #32 《旅の魔力》
さんさんと降り注ぐ太陽。
その陽を受けて輝く海面。
砂浜にはパラソル・ベンチが並び、水着姿で横になりサングラス越しに仲間と会話をする。
絵に描いたようなバカンスの世界が広がっている。
その光景を見ながら、いつも通りのヨレヨレのTシャツにズボン、だいぶ土や泥で汚れてきたサンダル履きで手拭いを頭に巻いた私は歩いていく。
サンマリノを後にし近郊の街【リミニ】に一泊することに決め、街をふらついていた。
*****
サンマリノでの滞在は金銭的にはとても厳しかったが、居心地は良かった。
顔見知り?もでき、とても気持ちよく過ごすことができた。
とはいえ、旅はまだ始まったばかり。
少しでも財布に余裕を持たせておくためにも移動を決めた。
着いた時と同じバス停まで歩いて行きバスを待つ。
それほど人が動かない時間なのであろうか。
私の他にバスを待つ人はいない。
【Rimini】と書かれた標識の下でしばらく待っているとバスがやって来た。
それほど混んでいないバスに乗り込み席に着く。
バスだけでなく移動は何回もしてきたのだが、席に着いて今までいた場所から離れていく時の感覚は何とも言えない気持ちになる。
落ち着いた場所を離れる寂しさ、新しい場所はどうなるかという不安。
こういった負の感情もあれば、その場所での楽しかったことや新しい場所では何が待っているかという期待。
この二種類の感情が入り混じる。
これを感じることが【旅】のような気がしてくる。
だとしたら私は旅の持つ魅力・魔力にだいぶ侵されているのだろう。
流れる景色を見ながら、次の予定を考えた。
本来ならば、サンマリノの次はイタリアの中でも最も興味のあったローマへ向かう。
そのはずだったのだが、ボローニャからサンマリノに行った時に感じた『リミニも良さそう』という気持ちが強くなっている。
何が。と言われると答えられないが、特に急ぐ用事もない。
せっかくなのでリミニに泊まってみようと思い、バスに揺られていた。
*****
ボローニャから来た時と同じで、バスは駅前に到着する。
そのまま駅のインフォメーションへ行き、宿を調べる。
数ヶ所、手頃な金額の宿が見つかり、地図に目印をつけてもらい歩き出す。
運良く、一番近くの宿が一番安かったので行ってみると、部屋も空いているし状態もいい。
スムーズに進み、リミニに着いて三十分も経たずに宿が決まる。
サンマリノでの三時間に及ぶ宿探しからすると天国である。
荷物を下ろし、いつもの散歩スタイルで外に出る。
といっても、リミニという街について何も知らない私にとって、観光というよりは完全な散歩である。
行く当てもなく歩き回り、リミニという街を見たがどうやらここはリゾートと言える雰囲気が漂っていた。
気持ちのいい海風を感じながら海沿いの道を歩くと、見るからに高級ですと分かるホテルが並んでいる。
これは私には縁がないと思い砂浜にでも行こうかと進んで行くと、受付がある。
入場料が書かれており、金かかるのか!?と思って話を聞くと、ホテルのプライベートビーチが並んでいるので宿泊者は料金に含まれている。それ以外の人は利用料を払ってということらしい。
まぎれもないリゾートである。
そこまでしてビーチに行く理由もない私は、ゆっくりとその場を離れていった。
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リゾートは正直合わないだろう。
しかし、今までの旅で学んだことがある。
それは、、、
人間だけでなく、街にも表と裏の顔がある!
煌びやかな街の風景もあるが、必ずそれを支える街の暮らしがあることを感じていた。
これほどのリゾート感があるリミニだからこそ、その反対である日常も面白いであろう。
この考えでリミニの街を歩く。
すると、予想は当たった。
バカンス気分漂うビーチから離れ、人だかりのあまりない方へ来てみるとリミニに住んでいる人たちの空間を見つける。
観光客が来ない場所というわけではないが、スーパーマーケットとは違い、いかにもヨーロッパという雰囲気の食料品や日用品を売る店が並んでいる。
その間に地元の人たちが雑談しているカフェ。
この場所は観光スポットというわけではないだろう。
それでも、こういう雰囲気の場所を見ることは楽しい。
特に何か用があるわけではないが、ゆったりと歩いて行くと、一箇所だけ人だかりができている。
どうやらカフェのようだが、店の前の歩道いっぱいに広がる人たちは一点を見つめている、
気になって私も覗いてみると、皆の視線はカフェの中にあるテレビのようだ。
不思議なものでテレビはついているが店は準備中なのか電気も消え、歩道にいる人たちに見えやすい位置に移動してあるようだ。
多分店の主人という感じの人もカウンター越しにテレビを見ている。
そこではサッカーの試合が行われていた。
画面上の得点横の国旗を見ると、イタリアと韓国の試合のようだ。
見物客の一人が私に気づき、ここ空いてるよ!と手招きをしてくれる。
ありがたく受け入れ、「サッカー、イタリア?」と聞いてみる。
皆が教えてくれたが、どうやら北京五輪のサッカーの予選リーグらしい。
そういえば、オリンピックが行われていた。と思い出す。
ネット屋に行った際にオリンピックのニュースは見かけていたが、全くといっていいほど興味がなく日付も忘れていた。
試合を見ている周囲のイタリア人。
彼らはそこにやってきたアジア人である私を韓国人と思っていたようだが、日本人だよ。と伝えせっかくならイタリアをみんなと応援しようと決めた。
最終的に試合はイタリアの圧勝。
実力的に危なげない試合運びで勝ち点を手にした。
試合後には一緒に応援した人たちとハイタッチを交わし、カフェ(バーなのかもしれない)の主人がみんなにビールを振る舞ってくれて楽しい時間を過ごせた。
唯一焦ったのは、イタリアが先制した後に韓国側がイエローカードになるファウルをした時。
先制し盛り上がった後のファウルなので、数人が私の方に鋭い視線を向ける。
近くにいた人たちと共に「JAPAN、JAPAN」と言って事なきを得た。
帰り道に冷静に考えてみると、万が一韓国が勝っていた場合、日本だ韓国だ関係なしにどう見てもアジア人の私があの場所にいたのは気まずかったかもしれない。
結果、楽しい時間を過ごすことができ、夜は夜でのんびりとした海沿いをぶらつきなんちゃってのリゾート気分を味わう。
何気なく訪れたリミニだったが、イタリアに来て一番ゆっくりと過ごすことができた。
これまでの経験があるからこその過ごし方だったのかもしれない。
旅の魔力は少しずつ、だが確実に私に染み込んできているようだ。

