経済書(15) 21世紀を動かす思想 その3 未来を創造する
これまで紹介してきた樋口恭介氏の新書「21世紀を動かす思想」の3番目のテーマは「SFプロトタイピング」を中心とした人類の未来を描く手法です。
シナリオ・プランニング
「未来を描く手法」として、始めに紹介されているのは「シナリオ・プランニング」です。
シナリオ・プランニングはロイヤル・ダッチ・シェル(Shell)の事例が最も有名で、教科書的とされています。
1970年代:オイルショックを予見したシナリオ
シェルのシナリオチーム(ピエール・ワックら)は、「OPECが価格を引き上げる未来」をシナリオ化しました。実際にオイルショックが発生した際、シェルは競合他社よりも迅速に対応することに成功したそうです。
ワックは、シナリオ・プランニングを単なる予測技法ではなく、「経営者の認識を変革する(Changing the Mindset of Managers)」ためのプロセスとして捉え、シナリオが意思決定に影響を与えるためには、それが単なる分析結果ではなく、経営者の心に響く「記憶に残る物語」として提示されなければならないと強調しました。
私自身はシナリオ・プランニングと言えば、A.T.カーニーの印象が強く、いくつかの中長期技術戦略策定を依頼した記憶があります。
彼らのシナリオ・プランニングの手法と、それに基づく最新の業界予測と経営アジェンダは事業戦略部門の方には参考になると思います。
また、業界動向や経営戦略ではなく、日本の未来(事業環境)を予測するという点ではジャーナリストで人口減少対策総合研究所理事長の河合雅司氏が書かれた「未来の年表シリーズ」が示唆に富み、とても参考になります。
最後にAGI時代を踏まえた最新の未来シナリオの中では、マッキンゼー出身でソフトバンク社長室長等を経て独立され、東京都顧問・内閣府CIO補佐官をされている安川 新一郎氏の「未来思考2045」が秀逸です。
サブタイトルの「危機と分断、そしてAIは世界をどのように変えるのか?」帯の「予測で止まるな。思考せよ」はまさに本書の内容を的確に表しています。興味のある方はぜひご一読ください。
スペキュラティブデザイン
つぎに本書では「未来を描く手法」として「スペキュラティブ(思索する)デザイン」という手法が紹介されています。私は寡聞にしてこの手法・ワードを知らなかったのですが、ロイヤル・カレッジ・オブ・アートのデザイン・インタラクティブ学科で教鞭をとっていたDunne & Rabyというお二人が 2013年に書かれた「Speculative Everything」がスペキュラティブデザインの決定版なんだそうです。
「デザインは問題解決だけでなく、問いを生むためにある」
「可能な未来(possible futures)」を可視化し、社会の前提を揺さぶる
デザインを「批評の道具」として使うという立場を明確化
"United Micro Kingdoms"(Webで公開中)ではイギリスを4つの未来社会に分割し、 政治・技術・価値観の異なる世界をデザインで提示
ということのようです。この手法については私自身、さらに深掘りしてみたいと思います。
SFプロトタイピング
さて、最後に未来を描く3番目の手法としてSFプロトタイピングが挙げられています。
MS Copilotに代表事例を聞いてみたら、以下のような一覧表を作ってくれました。皆さんも企業CMや企業紹介ビデオで一度は見たことがあるのではないでしょうか?

また、個別企業からではなく、SF的な手法でAGIが創り出す未来の日常を描いた本「AI2041」をお勧めしたいと思います。
この本の著者はGoogleや百度の重役経験もある中国のSF作家チェン チウファン(陳楸帆)氏と台湾出身のグーグル中国元社長、人工知能学者のカイフ・リー(李開復)氏です。シリコンバレー発ではなく、中華系ビジョナリーの勢いと想像力を感じさせる一冊です。
3つの未来探索手法の特徴
本書「21世紀を動かす思想」では、未来を創造する・描く手法として、これら3つの探索手法が紹介されていましたが、それぞれの特徴や違いはどこにあるのでしょう?
さっそく、この3つの手法の違いについて、MS Copilotに聞いてみました。

この比較表からまとめてみると、要するに
シナリオ・プランニングは「戦略的未来思考」
スペキュラティブデザインは「批評的未来思考」
SFプロトタイピングは「物語的未来思考」
と捉えるとわかりやすいようです。
未来リテラシーの育て方
さて、本書「21世紀を動かす思想」では、これまでの3つのテーマ(加速主義、プルラリティ、未来探索手法)に続いて、第4部「未来はどうしたら選べるのか」へと続きます。
これまでのCopilotの回答では、以下のビジネス書評サイトからの引用が多く、確かに(私の駄文より)わかりやすくまとめられていました。
本書評サイトの紹介とともに、第4部の示唆はこちらから引用させて頂きます。
徳本昌大の起業家・経営者のためのビジネス書評ブログ!
第4部ではここまでの三つの思想を交差させ、議論を深めます。
①《加速主義》暴走しがちなテクノロジーに、私たちはどう方向を与えうるのか。
②《プルラリティ》その方向は誰が、どのような正当性のもとで決めるのか。
③《未来を描く》そもそも「ありうる未来」を想像する力を、私たちはどのように育てていけるのか。
この三層の問いが重なり合う地点にこそ、本書の醍醐味があります。 ここで重要なのは、テクノロジーを「勝手に進むもの」として眺めないことです。技術の加速そのものは止められなくても、どの方向へ社会実装され、誰の利益や価値観に沿って制度化されるかは、まだ、決まりきっていないのです。
本書が促すのは、「不確実性=脅威」という単線の解釈から、「不確実性=設計余地」という複線の解釈へ視点を切り替えることです。
*《 》は筆者(nobu-san)追記
樋口恭介氏が書かれた別の書籍タイトルに
『未来は予測するものではなく創造するものである』
という本がありますが、まさに核心を突いています。
人類は未来を予測して(憂いて)悲観的になり過ぎたり、現実を無視して楽観的になるのではなく、自ら未来を創造する力と知能を持っているのだということを全人類がしっかりと自覚をもって、今日と明日を生きていくべきだという強いメッセージを本書から受け取りました。
