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「瞬くとき」第1話

あらすじ

ー「待ってろよ、俺の運命の人」
交通事故で一命を取り留めた青木 瞬あおき しゅんは、昏睡状態から目覚めると「赤い糸」が見えるようになっていた。
これまで一度も恋愛をしたことがない瞬。生死を彷徨い「このままでは絶対に後悔する」と一念発起。「赤い糸」の先にいるはずの「運命の人」を探し始める。
そう簡単には見つからない「運命の人」に想いを募らせる瞬だが、ついに赤い糸が「繋がった」その人を前に、運命が転がり始める…。

【補足】
しゅんM(モノローグ)
しゅんN(ナレーション)

本文

国道沿い・コンビニ前・外(昼)
3月下旬の日差しを受け、アスファルトがギラついている。
青木 瞬あおき しゅん(17)、2Lの水が入ったペットボトルを片手に、コンビニ前に座っている。
ジーンズのポケットから取り出したスマートフォンの画面を見る、瞬。
画面には、ロリ顔(かなり加工されている)で巨乳の女性の写真が表示されている。
瞬「あーだりぃ、全然見つかんないし…こんなはずじゃなかったんだけど」


ー遡ること約2ヶ月前ー

青木家・瞬の部屋(朝)
机の上に置かれたスマホのアラームが鳴り続けている。
ベッドの上、掛け布団の中にすっぽりと丸まって寝ている、瞬。
母・青木 秋江あおき あきえ(45)の甲高く突き上げるような声が階段の下から聞こえる。
秋江「あんた!今日も遅刻するつもり?」
意識はあるが目が開かない、瞬。
秋江「出席日数やばいんじゃないの!?」
瞬「!!」
秋江の一声で完全に開いた瞬の両目。
続いて布団を跳ね除け飛び起きる、瞬。

同・玄関・外(朝)
玄関から飛び出してくる、瞬。
秋江の声が後を追う。
秋江「ちょっと、あんまり急いで事故なんか起こさないでよ!」
瞬、秋江には返事を返さず、マウンテンバイクに飛び乗り勢いよくペダルを漕ぎ始める。
そんな瞬を心配そうに見送る秋江。
秋江「まったく、もう!…」

交通量の多い交差点・外(朝)
路側をマウンテンバイクで走行している学ラン姿の瞬。
瞬「やべぇ、遅刻ギリギリじゃん」
息を上げ、マウンテンバイクを必死で立ち漕ぐ。
瞬「はぁ、はぁ」
目先の横断歩道、青信号が点滅している。
瞬M(間に合うか…いや、間に合わせる!)
さらにマウンテンバイクのスピードを上げる瞬、横断歩道に差しかかる。
キーーーーーッ!!!! ドン!!!
トラックのブレーキ音に続いて鈍い衝撃音が響く。

瞬、アスファルトの上でうつ伏せに倒れている。
横断歩道上で停車しているトラックの前方には、前輪部分が90度に折れ曲がったマウンテンバイクが転がっている。
瞬の顔には擦り傷があり、鼻血も出ているが、他に大きな外傷は見当たらない。
瞬、意識が朦朧とし、虚な目をしている。
通行人らしき女性が話しかけてくるが、声が出せない瞬。
強烈な痛みに体は動かず、遠くに聞こえる救急車の音と野次馬たちを横目に瞬の意識が途切れる。

ー約1ヶ月後ー

総合病院・集中治療室(ICU)・中

ベッドには、目を閉じ眠っているかのような瞬がいる。
顔にはうっすらと髭が生え、髪もボサボサで後頭部には寝癖が張り付いている。
ベッドの近くで担当看護師が点滴の交換をしている。
いきなり目を開け、飛び起きる瞬。
瞬「!!」
筋力が低下している瞬、自分の体を支えられず、すぐベッドに横たわる。
担当看護師、一連の動きに驚き、声をかける。
担当看護師「青木さん、分かりますか?」
瞬は目を開けたまま、少し間を置いて声を発する。
瞬「…俺、まだ死ねないんです」
瞬の口内は乾いていて、絞り出した声は掠れている。
唾液を必死に飲み込もうとする瞬。
担当看護師は振り返り、新人看護師に告げる。
担当看護師「磯山先生に意識戻ったって報告して!」
新人看護師「はい!」

同・集中治療室(ICU)・中
瞬の両親(青木 秋江・青木 俊雄あおき としお(50))、磯山いそやま医師(47)、担当看護師 がベッドの横に立っている。
リクライニングベッドの上に座って磯山医師の話を聞く瞬。
磯山「青山くんは、事故について覚えてる?」
瞬「…はい、なんとなく」
磯山「通学途中、トラックとぶつかる大きな事故で、命を落としていてもおかしくなかったんだ。幸い、危険な状況は回避できたんだけど、頭の打ちどころが悪くて1ヶ月ほど昏睡状態だったんだよ」
磯山医師の話に軽く頷く瞬、どこか現実味のない様子。
秋江「磯山先生!本当にありがとうございました!」
磯山医師に向かい、秋江と俊雄が同時に頭を下げる。
磯山「いやぁ、瞬くんが頑張って何とか持ち堪えてくれました。早速、筋力を取り戻すために明日からリハビリを開始しましょう」
冷静に話をする磯山。
涙ぐんで喜ぶ両親と磯山医師のやり取りを横目に、瞬は左手小指に巻き付いた赤い糸を見ている。
瞬の左小指に巻き付いた赤い糸、3cmくらいから先はスッと消えて見えないが、ちゃんとどこかに繋がっているようだ。

同・集中治療室(ICU)・中(夕)
病室のベッドの上、座って左小指の赤い糸を見ている瞬。
瞬M(なんだろう、この赤い糸。さっき取ろうと引っ張ったけど取れないし、引っ張ると小指が締め付けられて痛い)

(回想)同・集中治療室・中(ICU)
病室のベッドに座る瞬。
その横で荷物の整理をしながら話をする秋江。
秋江「一時はどうなることかと思ったけど、ほんと良かったわー。磯山先生も看護師さんも良くしてくださって…。元気になっても、もう無茶しないでよ。あんた危機管理能力ゼロなんだから…」
唐突に秋江に話しかける、瞬。
瞬「母さん、この赤い糸取ってくれる?」
秋江、差し出された瞬の左小指を目を細めながら注視する。
母「何のこと?」
瞬「え?だからこれだよ。引っ張っても取れなくて…」
瞬は左小指を右手で指差し、秋江に見せる。
指示された瞬の左小指と瞬の顔を交互に見て、心配そうに顔を歪める秋江。
隣の患者の点滴を交換しながら話を聞いていた担当看護師、秋江と瞬に向かい話をする。
担当看護師「まだ意識が回復したばかりではっきりしない時もあるかもしれませんね。今日の検査でも特に異常はなかったので、症状が続くようなら、磯山先生に診てもらいましょう」
秋江「はい、くれぐれもよろしくお願いします」
秋江、担当看護師に軽く会釈し、無言で瞬に視線を送る。
2人の様子を傍目に見ながら、左手小指を見つめる瞬。
(回想終わり)

同・集中治療室(ICU)・中(夕)
瞬「病人扱いされた…まぁ病人なんだけど」
病室内を見渡す瞬。
瞬M(左小指の赤い糸、俺だけにしか見えてないみたい…。もしや幻覚?でも、この赤い糸って俺だけに巻き付いてるわけじゃないんだよな…。全員ってわけじゃないけど、この病室にも赤い糸が付いてる人いるし。さっき挨拶に来た、夜勤担当の看護師と当直の先生の指にも赤い糸が付いてて、しかも2人の糸が繋がってたけど…)

(回想)同・集中治療室(ICU)・中(夕)
当直医師の夕回診に付き添う夜勤担当看護師。
当直医師と夜勤担当看護師が瞬のベッド横に立つ。
当直医師、瞬の集中治療チャートに目を通している。
当直医師「青木くん、目が覚めてから特に変わったことはないかな?痛みを感じたり、気分が悪いとか」
瞬「はい…特には」
瞬M(赤い糸が見えるなんて、言わない方がいいよな…)
当直医師「覚醒して間もないし、どんな小さいことでもいいから何でも教えてね」
頷く瞬。医師は指示書に何か書き込んでいる。
瞬「…あの…」
当直医師「ん?何か気になることがある?」
瞬は一瞬戸惑いながらも勢いよく質問する。
瞬「…看護師さんと先生って、結婚してます?」
当直医師「え?…僕たち?」
当直医師は、夜勤看護師と当直医師とを交互に指で指す。
大きく頷く瞬。
当直医師と夜勤担当看護師、互いに見つめあい少し間を置いて照れ笑いする。
担当看護師、思い出したように焦りながら、
担当看護師「し、してないですよ!」
と言い、周囲を気にしている。
当直医師と夜勤担当看護師の左小指の赤い糸をじっと見る瞬。
確かに繋がっている両者の赤い糸。
質問した後、反応のない瞬の挙動を見守る当直医師と夜勤担当看護師。
瞬は、試しに繋がっている赤い糸に向かって手刀を食らわせてみるが、虚しく空を切る。
夜勤担当看護師「うわ!なに?」
瞬「いや…虫が、いたんで」
夜勤担当看護師「え!うそ!どこどこ?」
俊敏な動きでベッドの周りを見回す夜勤担当看護師。
瞬M(あの赤い糸、やっぱり俺以外には見えてないんだ…しかも、自分の以外は見えても触れないみたい…)
1人考えている様子の瞬。
(回想終わり)

ー1週間後ー

同・正面玄関・外(朝)

病院の自動ドアから、瞬と両親が並んで出てくる。
少し後に、担当看護師の姿が見え、振り向く青木家一同。
秋江「長い間、本当にお世話になりました!磯山先生にも、どうぞよろしくお伝えください」
担当看護師「はい。青木さんも無理せず、お大事にしてくださいね」
軽く会釈し、微笑む担当看護師を背に歩き出す青木家一同。
瞬N(幸い、外傷後の後遺症もなく、目覚めて1週間後には無事退院となった)

青木家・瞬の部屋(夜)
自室の机に座り、書類を見ている瞬。
瞬N(が、遅刻と欠席が重なって出席日数がピンチの中、あの事故が決定打となり、俺は留年することになってしまった)
瞬「2回も高二やんのか…」
机の上、顎の下で手を組む瞬。
瞬M(いやいや!それは置いといて、人間っていつ死ぬかわかんないんだよ…今回は奇跡的に回復したけど、明日は当たり前には来ないんだよ…)
ため息をつき、頭を抱える瞬。
瞬M(今死んだら、後悔することって何だろ。やっぱり、愛とか恋とかのアレやコレやだろうなぁ…。絶対、後悔するよなぁ…)
しばらく考えた後、鼻息を荒く吐き、決意を込めた表情を浮かべる、瞬。


公立高校・2年B組教室・中
昼休み中、窓際の自席に座り、教室内を見回す瞬。
楽しそうに男女で会話する数組のクラスメイト。
瞬M(どいつもこいつも、俺が生死を彷徨っている間にくっついてイチャコラしやがって)
友人の中野なかの(17)が、瞬の前の席に座り、ニヤつきながら最近できた彼女の話をしている。
中野「でさぁ、部活の遠征先でたまたま出会った子なんだけどさ、俺より小さいのに卓球が上手いんだよ。そんでさぁ…」
久々に通学してきた瞬に、話が止まらない中野。
中野の話を無表情で聞き流す瞬、心中は穏やかではない。
瞬M(中野にまで彼女ができただとぉ???)
そこへ、中学から一緒に進学してきた理香子りかこ(17)が話しかけてくる。
理香子「瞬さぁ、入院してちょっとカッコ良くなったんじゃない?なんかこう、シュッとしたというか」
ジェスチャーを交えて話す理香子。
瞬「そう?」
中野「ただ、やつれただけじゃね?」
間髪入れずに中野の野次が飛ぶ。
中野を一瞥したあと、理香子をマジマジと見る瞬。
瞬M(理香子は巨乳でサバサバ系女子だ。俺の好みっちゃあ好みの部類だけど…とりあえず、理香子に告白してみるのは…アリか…)
瞬の視線に疑問を投げる理香子。
理香子「何?どうしたの?」
瞬「いや、別に…」
理香子から目を逸らす瞬。

同・土手沿い(夕)
放課後、途中まで一緒に帰る瞬と理香子。
理香子は徒歩の瞬に合わせて自転車を押しながら歩く。
理香子「…ねぇ…留年決定したって、ほんと?」
瞬「は?誰から聞いたんだよ」
立ち止まる瞬。
理香子「えー、もう学年中噂になってるよー」
沈黙する瞬。舌打ちが肯定の意を示す。
ちょっと気まずくて苦笑いをする理香子。
歩き出す瞬。それに続く理香子。
瞬「なあ」
理香子「ん?」
瞬「俺と、付き合ってくんない?」
理香子「…はぁ?なにそれ急に」
瞬「いや、久々に見たお前、可愛いなって…」
理香子「…まだ頭、元に戻ってないの?」
瞬「ってお前っ。コンプラ引っかかるぞ」
理香子「瞬だって、私のことお前って呼ぶじゃん」
瞬「それとこれとは…ってか今更?」
遠ざかる2人の楽しそうな声。

青木家・瞬の部屋(夜)
椅子に座り、スマホを見ている瞬。
突然大きなため息をつき、椅子に反り返る瞬。
瞬「はぁー…そっこー断られた…」
瞬M(そう簡単じゃねーよなぁ)
両手の指を組んで手のひらを天井に向けて腕を伸ばす。
部屋の照明にちらつく左小指の赤い糸。
閃いた瞬は勢いよく起立する。
瞬M(そうだ!これだ!)
ニヤッと笑う瞬の顔の前、左小指の赤い糸にピントが合う。


国道・海岸沿い(朝)
太陽でギラつく海を真横に国道を自転車(ママチャリ)で突っ走る瞬。
瞬M「待ってろよ!俺の運命の人!」


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