【心の居場所まとめ④】紹介小説第3話「素敵な居場所」
「万尋!私分かったの!」
185ハウスのドアを開けながら、走ってきた勢いそのままに声を張り上げた。
と、そこには万尋の他に見慣れない男性の後ろ姿が。
え?お客さん?
今めっちゃ大声出しちゃった。
「乃亜先生、久しぶり」
乃亜…先生……?
振り返る男性。
その人は……。
「岩井先生!」
私が以前アルバイトしていた学習塾の塾長先生だった。
どうしてここに?
「乃亜先生がフリースクールを始めるって聞いたからさ、久しぶりに会いたくなって来たんだよ」
笑顔で私の方へ近づいて来る。
「あ、いえ……まだ決めていないんですけど……」
万尋だなぁ?
他に誰も知っているはずがない。
万尋をキッと睨むと、万尋はとぼけたように視線を逸らした。
「え、そうなの?」
「あの……なぜそれを……?」
「ああ、万尋君がウチの塾に来てね……」
万尋はフリースクールを開くに当たって、どのようなことが必要なのかを聞きに行ったらしい。
「フリースクールは専門外だけど全く知らないわけでもないからね。もちろん調べながらだけど。二時間位かなぁ。万尋君と話をしていたよ」
始めは私がアルバイトをしていた塾だと万尋は知らなかったらしい。話が弾むうちに私の名前が出てきて、さらに話が弾み……という感じだった、とのこと。
「乃亜先生がその気なら、私もできる限り応援するよ」
「でも、競合相手になるんじゃ……」
「ウチは夕方以降が勝負の学習塾だ。フリースクールとは活動時間違うからね。もしウチの塾がダメになったらこちらにお世話になろうかな」
岩井先生が高らかに笑う様子をポカンと見ていた。
展開が意外過ぎてついていけない。
まさか万尋がフリースクールのことを聞きに岩井先生の塾に突撃するなんて。
「乃亜先生はコミュニケーション能力が高い。指導力よりもそういう力こそ必要だと思っている。フリースクールならなおさらだ」
私が?コミュ力高い?
さっき風船の女の子に何も言えずにいた私が?
「いえ、私は人と話すことはそんなに……」
岩井先生は首を横に振った。
「違うよ。乃亜先生。コミュニケーション能力は人を思う力だ。人に寄り添う心だ」
寄り添う心……。
紫陽花さんの記事が脳裏に浮かぶ。
書道教室を27年されている紫陽花さん。
生徒さんのことを語る言葉一つ一つに愛情を感じる。
ずっと寄り添っていたからこその言葉たち。
※黙って聞くこと
※その人を肯定すること
※ちょっとした背中押し
今、この三つのすごさが分かった気がする。
どれも、寄り添う心がないとできないことだ。
黙って聞くこと。
相手の気持ちを知るための沈黙。
その人を肯定すること。
相手の気持ちを理解してそれを伝えること。
ちょっとした背中押し。
虎吉さんも『ちょっとだけ後押し』と言われていた。
『ちょっと』の加減も相手を理解していないと難しいかもしれない。押しすぎたり、足りなかったり。
しゃべるだけがコミュニケーションじゃない。
しゃべらないことが大事なコミニケーションになることがある。
しゃべる必要がないコミュニケーションも。
しゃべらないで行うコミュニケーションだってある。
yumiパンダさんの記事が思い浮かぶ。
コミュニケーションはしゃべって意思疎通を図るだけじゃない。
「コミュニケーションは先ずは自分から心を開くこと」
“のぞいてみようボランティアグループ「ホーピング」について①”より
20年以上ボランティアグループで活動されているyumiパンダさんの記事が教えてくれる。
コミュニケーションの大切さ。
でもコミュニケーションは必ずしも言葉だけではないこと。
話したい、わかりたいと思う気持ち。
多分、その根底にあるのは、相手のことを考えて、最善を尽くそうとすること……なのかもしれないけど、ちょっと違うような……。
あっ!
「そうか!それが『寄り添う』ってそういうことですね!」
そうだ!寄り添うってそういうことだ。
あなたのことが知りたい
あなたのことがわかりたい。
それが寄り添うことなんだ。
そしてそれがコミュニケーションの根底だ。
「え…?ん?……そうだな。フリースクールだと、親御さんとのコミュニケーションが塾よりもさらに大切になってくるんじゃないかな」
私の反応に少し戸惑いながら話す岩井先生。
「それは、親御さんも不安になっている…ということですか?」
今まで黙って聞いていた万尋が口を開いた。
「そうだね。親御さんの多くは、子供が不登校になると落ち込んだり、悔やんだりしているからね」
だからカオラさんも活動されているんだ。
自分の生きる力を削ってまでその場にしがみつく必要はない。
学校などの社会的枠組みも、新学期や新年度などの時間的区切りも、大人の都合で作られた枠組み。それに子供が縛られる必要はない。
確かにその通りだと思った。
今、世の中は少しずつ変わろうとしている。
新しい枠組み……それもちょっと違う。
『枠組み』がない『枠組み』ができる時なのかもしれない。
親御さんが『以前からの枠組み』という呪縛から苦しみを感じているのなら、同じ気持ちを抱いている方々の交流ってすごく大事だ。
自分の心の中を再認識する場に是非なって欲しい
それこそ私たちが目指す居場所!
「万尋!喫茶店でそういう場ができるよね?」
驚いた表情の万尋。
「……そういう場所?」
私は万尋と岩井先生に、私が駅前で考えていた時に気付いたこと、今考えていたことを伝えると、二人は目を合わせて笑い出した。
なんで笑っているの?
「私おかしなこと言った?」
「あはは。違う違う。さっき岩井先生とさ、『乃亜は絶対に何かの結論を引っ提げて現れるよね』って話してたから」
なんでこの二人、私をダシにして仲良くなってるの?
「私のことで勝手に想像して二人で勝手に盛り上がってたの?」
輪をかけて笑う二人。
二人の笑顔がなぜか……たまらなく嬉しい。
「で?『そういう場所』って?」
笑いから脱出した万尋の問いかけに、カオラさんの記事、そしてみけにゃんさんの記事を示した。
「喫茶店で親御さんの交流の場を作るの!ほら、見て」
「ね?まさにこれだと思わない?」
みけにゃんさんは休職中の方、復職中の方向けのカフェをされている。
不登校生徒の親御さんと同じような心の不安定さを抱えているに違いない。
私、みけにゃんさんの気持ちすごくわかる。
多分私も同じような思いを抱いてきた。
みんなと一緒にいて遊んでいるんだけど、どこかで線を引いている自分がいた。
友達といても疲れて、早く帰りたい気持ちに駆られたりした。
あの時、私がすべてを捨てて逃げ出したのも、その場に適応できなかったからだろう。
居場所に悩んだから、居場所を作りたいと思っている自分がいる。
もしかしたらみけにゃんさんも同じ気持ちなのかもしれない。
「なるほど!こうやって年に何度とかイベントを開くのもいいな」
「でしょ?もちろんカフェがあるだけで居場所になるけど、フリースクールをするならそういうフォーラムもありだよね」
「話が弾んでるところ悪いが、そろそろ生徒が来るから帰るよ。乃亜先生の元気な顔も見れたし」
岩井先生が立ち上がった。
「先生、今日はありがとうございました」
万尋も立ち上がり頭を深々と下げる。私も同調するように頭を下げた。
「いやいや、あまり参考にならなくてごめんね。ところで万尋君はどうして喫茶店をしようと思ったの?」
岩井先生の問いかけに、万尋は一つの記事を見せた。
「これです。pekomoguさんのこの記事を見たときに決めたんです」
素敵!
お客様一人ひとりのことを考えて、心を寄せて。
自分から何かを発するわけでもない。
でも、その場所が一人ひとりの居場所になり、喫茶店でくつろぐことで、
『よし、やるか』みたいな、これからの一歩を踏み出す、ほんのちょっとの後押しを実践されているような気がする。
声をかけて伝わる気持ち。
言葉がなくても伝わる気持ち。
なんか……すごいな。
心の居場所は自分で作ります。
紫陽花さんも、yumiパンダさんも、カオラさんも、みけにゃんさんも、そしてpekomoguさんも、誰かの居場所を作り、それが自分の居場所にもなっているんだ。
ほんとに素敵!
「だから俺、畑も借りようと思うんです。自分で栽培して、そこで収穫したものをお客様に提供しようと」
万尋の言葉に、岩井先生は優しく微笑んだ。
「喫茶店、開店する時教えてね。第一号のお客さんになりたいから」
「はい、必ず」
岩井先生は笑顔でうなずきドアを開ける。
「そうそう、乃亜先生。まだ決めてないかもしれないけど、良かったらうちの塾で働かない?何かのヒントになるかも」
「え、でも……」
「いきなり言われても決められないよね。返事は後でいいから」
小さく手を振って、岩井先生はドアの向こうへ去っていった。
あとがき
1話2000字程度って言ってたのに、大幅にオーバーしちゃいましたぁ💦
ここまで読んで頂いてありがとうございます。
今回は、実際に活動されていらっしゃる方々の記事を中心に紹介させて頂きました。
皆さんの記事に共感し、感銘を受けました。
私も早く形にしよう!などと思いながら書いていたら長くなっちゃいまして……。
今回のトップ画像は、前回の紹介小説【心の居場所まとめ③】紹介小説第2話「心の居場所がある場所」でご紹介させて頂いたblancheさんの画像をお借りしました。
喫茶店イメージにピッタリの画像ありがとうございます!
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