【漫画】無色の牢獄|第5話前編|エッセイ

私が物心つく前から、家には古い机がありました。
父が知人からもらってきたもので、当時は父の仕事道具などがおかれており、 側面には、私の世代では放送されていない幼児番組や、少女アニメのシールが大量に貼られていました。

後になって、長女が笑いながら教えてくれたのですが 「お母さんにダメって言われても、シール貼りまくったんよね」と言っており 、姉たちが小学生になるずっと前から、その古い机は家にあったのです。

ある日、姉たちの勉強机をホームセンターに買いに行きました。
小学校入学シーズンの少し前になると 2階には特設コーナーが作られ、見たこともない数の勉強机がずらりと並ぶのです。
その光景は当時の私にとってまるで、アミューズメントパークに来たかのようにドキドキ、ワクワクしました。

姉たちは、「どれにする?」
「こっちはこんなところに電気がついてるよ」
「引き出しの中、こんな風になってる!」
「この椅子凄い!クルクル回るし高さも変えられる!」
とても楽しそうに、自分だけの机を選んでいて、 私はその姿を、ただじっと見つめるだけでしたが
『私だって小学生になったら、あんな風に買ってもらえるんだもん』
『私の時はどれを買ってもらおう』
『楽しみだなぁ』
そう思って、小学生になる日を心待ちにしていました。

やがて私が幼稚園の年長になり、小学校の準備が始まります。
周りでもランドセルの話題が出始める時期。
でも、母から机を買いに行く話はされませんでした。
『お母さん忘れてるのかな?』
『机も買ってもらわなきゃ』
そう思って私は母に尋ねました。
「お母さん、ゆりの机いつ買いに行くの?」と。
すると母は、怒るわけでも、申し訳なさそうにするわけでもありません。 ただキョトンとして、あの古い机を指さすのです。
「何言ってるの?」
「ゆりの机、あるじゃない?」
「ほら」


『え……?』
言葉が、出ませんでした。

唖然としながらも、必死に母に訴えました。
「え、机買いに行かないの?私もお姉ちゃんたちみたいに、新しいのが欲しい」と
しかし、母の返事は
「なんで買いに行くの?家にあるじゃない」 と。
私が「違うよ、私だけの机を買いに行きたいの」
いくら訴えても、母から返ってくるのは同じ言葉でした。
「これがゆりだけの机よ。よかったわね」と。
母は本気で、
『机があるのになぜ買う必要があるの?』
と思っているのです。

「お姉ちゃんたちみたいに買ってほしい」と訴えても、「何言ってるの、この子」という顔をされるだけ。 話がまったく通じません。
当時の幼い私には、この状況をうまく言葉にする術がありませんでした。
でも、今なら分かります。
『じゃあなんで、この古い机はずっと家にあったのに、お姉ちゃんたちには新しい机を買ったの?』
今なら、そうはっきりと言い返せます。
でも当時の私は、母にそう聞き返すことはできませんでした。

もし、ホームセンターで楽しそうに机を選ぶ姉たちの姿を見ていなければ。
姉たちの部屋に、ピカピカの新しい机が並んでいなければ。
私はこの古いお下がりの机でも、
「自分だけの机ができた」
と、純粋に喜べたはずなのです。
結局私は姉たちのように机を買ってもらうことはできませんでした。
姉たちの部屋には、ピカピカの新しい勉強机。
私にあてがわれたのは、ずっと家にあったあの古い机です。

毎日、嫌でも姉たちの新しい机が目に入ります。
私は自分の古い机の前に座り、長女が貼った古いシールを、指で一枚一枚剥がし始めました。
何年も前に貼られたシールは、ひどく頑固。
無理に剥がそうとすると、爪の間に刺さるのです。
爪の間から血が滲んでも、私は大量のシールを剥がし続けました。

古いシールを剥がす作業は大変で…
表面の絵柄が破れ、下地の白い紙やベタベタした粘着質だけが残っていくのです。
それでも剥がすことをやめずに指先から血を流しながら、必死にシールを剥がし続けたのは、少しでも「私だけの新しい机」に近づけたかったのだと思います。

今なら分かります。 母が私にだけ机を買ってくれなかった理由が。
そして、どれだけ私が「買ってほしい」と訴えても、家族の誰一人として「ゆりにも買ってあげなよ」と言わなかった理由が。
この家では、それが当たり前だったから。
『またゆりがわがままを言っている』
その程度にしか、思われていなかったのでしょう。
毎日、姉たちのピカピカの机が目に入る。
そして自分の部屋に戻ると、ベタベタになった古い机が待っているのです。
『なんで私だけ、買ってもらえないんだろう』
当時の私は理由もわからず、分かりたくなく、
ただ、目の前にある古いシールを剥がし続けました。
本当の理由に気づいてしまったら。
私だけが大切にされていないと、はっきり認めてしまったら。
この家で、生きていけなくなると思ったから。
だから、姉たちと同じような扱いをされなくても私は平気なフリをするしかありませんでした。
📚続きはこちら👈5話エッセイ後編はこちら
📖1話漫画はこちら👈初めから見るにはこちら
📖5話漫画はこちら👈️このエッセイの漫画を見るにはこちら🌱
いいなと思ったら応援しよう!
ろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます! ![ゆり|毒親育ちの実話エッセイ漫画[無色の牢獄]〜それでも母が好きでした。](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/280023715/profile_d46c56b01c9b4acfedf8adb7bfa740b1.png?width=60)