ゲーム理論で防犯を考える
選択肢を“選べる力”が身を守る
ゲーム理論って何?
「ゲーム理論」と聞くと、ちょっと難しそうに感じるかもしれません。でも実は、相手の行動を予測して、自分が損をしない最善の一手を選ぶのに役立つ考え方なんです。
映画『ビューティフル・マインド』で知られる数学者ジョン・ナッシュは、この理論を発展させたことでノーベル経済学賞を受賞しました。もともとは経済や軍事の分野で使われていましたが、今ではビジネスや交渉、教育、防犯、さらには護身術の世界にも応用されています。

簡単に言えば、「状況に応じて損を最小限に抑えるためのフレームワーク」。それがゲーム理論です。
僕自身も起業してからこの理論の面白さに気づきました。興味がある方は、本やネットで詳しく調べてみてください。
防犯は「何をするか」より「どう選ぶか」
日本では、子ども向けの防犯教育として「イカのおすし」(いかない・のらない・おおごえを出す・すぐ逃げる・しらせる)など、覚えやすいフレーズが使われています。これはとても大切な内容ですし、僕もその意義はしっかり認めています。

ただ、武道や格闘技を学び、警察官の経験をしてきた立場から見ると、「逃げることが必ずしも正解ではない状況」もあると感じています。
アメリカの防犯モデルには「Run(逃げる)」「Hide(隠れる)」「Fight(戦う)」という3つの選択肢がありますが、どれを選ぶかは状況次第です。問題は、どうやって選ぶかを教えてもらえないこと。そこで、ゲーム理論的な思考が必要になります。

Run・Hide・Fight をゲーム理論で考える
ゲーム理論の基本は、「状況」「相手」「自分」の3つの要素を分析し、最も損をしない行動を選ぶこと。Run・Hide・Fightは順番ではなく、あくまで“選択肢”です。
たとえば以下のように考えられます。
• 自分が子どもで、相手が大人。周囲に人がいる → Run
• 密室で逃げ場がない。相手が探している → Hide
• 相手が迫ってきて、逃げられない → Fight
この中で「戦える準備がある人」は、実は戦わずに済む可能性が高い。なぜなら、相手に「反撃されるかもしれない」と思わせるだけで、抑止力になるからです。これはゲーム理論でいう「ナッシュ均衡」に近い状態。互いに最適な選択をした結果、無駄な衝突を避けることができます。
「戦う準備」=護身術や武道・格闘技
武道や格闘技は、基本的に「どう戦うか」を教えてくれます。でも実は、「戦うかどうか」を判断する力までカバーしているわけではありません。
だからこそ大切なのは、戦えるスキル(実行力)と、選べる思考(判断力)の両方です。
対象によって選択肢が変わる
防犯教育の最適解は、教える対象によって変わります。
• 子どもであれば、「逃げる」が最優先
• 警察官や警備員は「逃げる」ことが許されない
• 一般市民でも、家族が一緒にいるかどうかで選択が変わる
こうした違いに対応するためには、柔軟で応用のきくフレームが必要です。それが、ゲーム理論です。
実戦的訓練としての「ポジティブリスト vs ネガティブリスト」
最近、菊野克紀先生とお話しする機会があり、先生から非常に示唆に富むアイデアをいただきました。

それが「ポジティブリスト vs ネガティブリスト」という、より現実に近い護身訓練形式です。
• 守る側(市民・警備員・警察官役):やっていいことだけが決まっている(=ポジティブリスト)
• 攻める側(犯人役):やってはいけないこと以外は基本的に自由(=ネガティブリスト)
この構図は、実際の現場と極めて近いものです。守る側は法的・倫理的な制約を受け、攻撃側は自由に動いてくる。この非対称性こそが現実であり、訓練でも再現するべきです。
この考えを実際に試すため、僕は2025年7月に開催予定の大会で、このルールによるテストマッチに出場します。

法的リスクを抑えながら、どう動くか、どう選ぶか。現代社会における“戦う選択肢”の意味を、実地で確かめてくるつもりです。
戦わないために「戦う」という選択肢を
日本では「戦う」という選択肢が、最初から除外されがちです。
でも本当は、選択肢を持った上で「戦わない」という判断ができること。これこそが一番安全で理性的な対応です。
選べない人にこそ、判断はできません。判断できない人は、流されてしまいます。
防犯に正解はない。だから“考える力”が必要
防犯には唯一の正解はありません。重要なのは、「その時その場で最も適切な選択ができるかどうか」です。
催涙スプレーなどの防犯グッズも、ゲーム理論の視点から意味づけを整理することができます。
また、水平思考や垂直思考など、さまざまな発想の枠組みを活用することで、防犯の手段や戦略はさらに広がっていきます。
まとめ:選べる力を、身につけよう
防犯において最も重要なのは「最適な選択」ができること。
• ゲーム理論は、判断力を支える考え方
• 武道・格闘技・護身術は、その判断を実行する力
この2つが組み合わさることで、「戦わなくて済む力」が身につきます。
僕はそう考えます。
次回予告
次回は、「ポジティブリスト vs ネガティブリスト」の訓練形式について、より詳しく解説し、社会的な活用や教育現場への応用について紹介する予定です。
引き続き、ご期待ください。
補足:ポジティブリストとネガティブリストの違い
• ポジティブリスト:やっていいことだけが定められ、それ以外は禁止される
• ネガティブリスト:やってはいけないことだけが定められ、それ以外は原則自由
アメリカ軍ではネガティブリスト方式が使われることが多く、法的リスクへの備えとして軍の弁護士(ミリタリーローヤー)を同行させる場合もあります。
株式会社MI8では、防犯や護身術、安全教育に関する講演・セミナー・ワークショップなどのご依頼も受け付けています。
学校や地域団体、企業・自治体での安全対策に関心がある方は、お気軽にご相談ください。
槌 大介(つち だいすけ)
株式会社MI8 代表取締役
名古屋市出身。
現在は「武道・格闘技を社会に役立てる」ことをテーマに活動中。
• パラエストラ東京/誰ツヨDOJOy 所属
• こどもヒーロー空手教室 指導員
• 赤坂中ノ町・新四町会・広報部・副部長
【株式会社MI8】
https://mi8.tokyo
【赤坂中ノ町・新四町会】
https://www.akasaka-naka4.com
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