「優しい患者さん」の本当の姿
看護師になる前の私は、優しい患者さんほど安心できる存在だと思っていました。
ナースコールは少ない。
文句も言わない。
治療にも協力的。
「こういう患者さんなら大丈夫。」
そんなふうに考えていました。
でも、その考えは現場に出てすぐに変わりました。
ある患者さんは、「大丈夫です」が口癖でした。
私 「痛みはありませんか?」
患者さん「大丈夫です。」
私 「苦しくないですか?」
患者さん「大丈夫です。」
私 「何か困っている事はありませんか?」
患者さん「忙しいでしょうから、大丈夫ですよ。」
いつも笑顔で答えてくれる、本当に優しい患者さんでした。
新人な私はその言葉を、そのまま受け取っていました。
でも翌日、その患者さんは夜ほとんど眠れていなかったことを知りました。
痛みもあった。
トイレに行くのも大変だった。
それでも、私たちに迷惑をかけたくなくて我慢していたのです。
それから私は、少しずつ気づくようになりました。
優しい患者さんほど、我慢してしまうこと。
痛くても言わない。
苦しくても言わない。
ナースコールを押すことさえ遠慮してしまうこと。
一方で、何度もナースコールを押す患者さんには、それぞれ理由がありました。
痛み。
息苦しさ。
不安。
誰かに話を聞いてほしい気持ち。
「また呼ばれた。」
そう思ってしまいそうになることもありました。
でも、それは看護師を頼ってくれている証でもあったのです。
それ以来、私は「大丈夫です」という言葉を、そのまま信じなくなりました。
表情はどうだろう。
食事は食べられているかな。
歩き方はいつもと同じかな。
言葉よりも、その人全体を見るようになりました。
そして、この経験は患者さんだけではありませんでした。
後輩を指導する立場になってから、同じことを何度も経験しました。
「大丈夫です。」
「できます。」
「質問ありません。」
そう笑顔で答える後輩ほど、一人で抱え込み、あとになって涙を流したり、自信をなくしたりしていました。
反対に、
「ここが分かりません。」
「もう一度教えてください。」
と言える後輩のほうが、少しずつ成長していく姿もたくさん見てきました。
患者さんも。
後輩も。
優しい人ほど、自分より周りを優先してしまいます。
迷惑をかけたくない。
期待に応えたい。
心配をかけたくない。
だから、「大丈夫です。」と言ってしまう。
看護師になって初めて知りました。
「大丈夫」と言える人ほど、本当は大丈夫じゃないことがある。
だから私は、今でも「大丈夫です」という言葉だけでは終わりません。
「本当に大丈夫?」
もう一度だけ、相手の表情を見ながら聞くようにしています。
患者さんにも。
そして後輩にも。
「『大丈夫』という言葉を、一番うのみにしてはいけない相手がいる。私は看護師になって、それが本当に優しい人なのだと知りました。」
ではまた★
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