【ビジ哲】ニーチェ編 #5 「組織のルール」は誰のためにあるのか?
── ルールに従うことと、ルールに縛られることは、違う。
■ 「それが会社のルールだから」

コンサルタントとして、ある中堅企業の改革プロジェクトに入ったとき、こんなことがあった。
現場のリーダーが、業務の非効率を指摘した。
「この承認フロー、5段階もあるんですけど、実質2段階で済みますよね」
上司の答えはこうだった。
「それが会社のルールだから」
なぜそのルールがあるのか、誰も知らなかった。
いつ作られたのかも、わからなかった。
でも誰も疑わなかった。
ルールはいつの間にか、目的ではなく、目的そのものになっていた。
■ 対話:恵美と玲子、そしてニーチェとマルクス

👩🎓 恵美「うちの会社にも、なんで存在するのかわからないルールがいくつかあって。聞いても『昔からそうだから』って言われるだけで。おかしいと思いながらも、従ってます」
👩🏫 玲子「そのルール、誰が得してると思う?」
👩🎓 恵美「え……考えたことなかったです。誰が、得してるんですかね」
玲子は静かに微笑んだ。
部屋の片隅に、琥珀色の光——ニーチェ。
そして今日は、別の気配。重く、鋭く、社会の構造を見透かすような存在感。
👩🎓 恵美「この方は……?」
👩🏫 玲子「マルクス。カール・マルクス。19世紀のドイツの哲学者で経済学者。資本主義の構造を分析した人よ」
💡 マルクス「恵美よ、良い問いだ。ルールとは、中立ではない。どんな組織のルールも、誰かの利益を守るために作られている。支配する階級の思想が、その時代の支配的思想になる——これは組織の中でも同じだ」
👩🎓 恵美「じゃあ、会社のルールって……経営層のためにある、ってことですか?」
💡 マルクス「すべてがそうとは言わない。しかし、そう問うことをやめた瞬間に、あなたはその構造の一部になる」
ニーチェが口を開いた。
💡 ニーチェ「マルクスは構造を暴いた。それは重要だ。しかし私はこう問う——その構造に気づいたあなたは、次に何をするのか。告発するだけでは、奴隷のままだ」
👩🎓 恵美「奴隷……」
💡 ニーチェ「ルールを疑うことは、出発点に過ぎない。その先に、自分の価値観で動く力が必要だ。それが『奴隷道徳』から抜け出すということだ」
恵美は、しばらく黙っていた。
何かが、ゆっくりと動き始めていた。
■ マルクスが見た「支配の構造」
マルクスはこう言った。
「支配する階級の思想が、その時代の支配的思想になる」
これは国家や社会だけの話ではない。
組織の中でも、同じ構造が働いている。
会社のルールや文化は、多くの場合、それを作った人たちの価値観や利益を反映している。
長時間労働を美徳とする文化。
報告・連絡・相談を絶対視する文化。
失敗を責める文化。
これらは「会社全体のため」という言葉で語られる。
でも実際には、誰かの都合や、ある時代の必要性から生まれたものだ。
マルクスの視点は、私たちに問いを与える。
「このルールは、誰のためにあるのか」
その問いを持つだけで、見える景色が変わる。
■ ニーチェの「奴隷道徳」

ニーチェは、人間の道徳を二種類に分けた。
主人道徳——強者が自ら価値を創り出す。「これが良い」と自分で決める。
奴隷道徳——弱者が強者への恨みから価値を作る。「あれが悪い」と他者を否定することで、自分を正当化する。
組織の中の「奴隷道徳」は、こんな形で現れる。
「あの部署のやり方は間違っている」
「うちの会社のやり方が唯一正しい」
「ルールを破った人が悪い」
誰かを否定することで、自分の立場を守る。
変化を嫌い、現状を「正しい」と言い続ける。
ニーチェが求めたのは、その逆だ。
他者を否定するのではなく、自分が「良い」と思う価値を自ら創り出すこと。
ルールを疑うことは、反乱ではない。
自分の価値観で動くための、出発点だ。
■ コンサルの現場で見てきたこと

組織改革のプロジェクトで、必ずぶつかる壁がある。
「なぜそのルールがあるのか」を聞いたとき、誰も答えられない、という壁だ。
面白いのは、そういうルールほど、強固に守られていることだ。
理由がわからないから、疑えない。
疑えないから、変えられない。
変えられないから、非効率が続く。
でも、ひとりの若手が「これ、なんのためにあるんですか」と聞いた瞬間、部屋の空気が変わることがある。
その問いは、脅威ではない。
組織を良くしようとする、最もシンプルな行動だ。
マルクスが言うように、構造を疑うことは重要だ。
でもニーチェが言うように、疑うだけでは足りない。
「では自分たちはどうするか」という創造的な問いに、進まなければならない。
■ マネージャーへの3つの問い
① あなたのチームに「なぜあるのかわからないルール」はあるか。それは誰のためにあるか?
② 部下が「このルールおかしくないですか」と言ったとき、あなたはどう反応してきたか?
③ あなた自身は、組織のルールを「与えられるもの」として受け取っているか、それとも「問い直せるもの」として扱っているか?
■ まとめ
マルクスは「支配する者の思想が、支配的思想になる」と見抜いた。組織のルールも例外ではない
「このルールは誰のためにあるのか」と問うことが、思考の出発点になる
ニーチェは「奴隷道徳」を超え、自ら価値を創る「主人道徳」を求めた
ルールを疑うことは反乱ではなく、自分の価値観で動くための第一歩だ
疑うだけでなく、「では自分たちはどうするか」という創造的な問いに進むことが重要だ
■ 次回予告

👩🎓 恵美「ルールを疑うって、なんか怖いですけど、やってみたい気もしてきました」
👩🏫 玲子「その感覚、大事にして。次は、もう少し大きな話をしましょう。『成長』って、何だと思う?」
👩🎓 恵美「成長……数字を出すこと、とか?」
👩🏫 玲子「それだけじゃないかもしれない。ヘーゲルとニーチェが、その答えを持っているわ」
次回は ニーチェ編 #6「『成長』とはいったい何なのか——弁証法と超克」。
■ ビジ哲からのお断り
「強くなる」「自分の価値観で動く」——このシリーズで使うそんな言葉は、個人の努力だけで実現できるものではない場合があります。構造そのものが個人の意志を阻む環境は、実際に存在します。
上司が空気を支配している。声を上げれば潰される。構造そのものが、個人の意志を阻んでいる——そういう環境は、実際に存在します。「畜群から抜け出せ」と言うことが、そういった構造の問題を個人に押しつけることになってはいけない、と思っています。
ビジ哲は哲学研究ではなく、哲学をレンズとしてビジネスの現実を考えるコンテンツです。構造を変えることは個人だけではできないこともある。
哲学の概念に触れることで、自分の仕事や組織を「少し違う角度から見る」きっかけになれば——それがビジ哲の目的です。
→ ビジ哲は哲学研究ではない——それでも哲学をビジネスに持ち込む理由
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