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看護の仕事はAIに奪われる?

この記事は、冊子「AIがひらく看護管理の未来〜人間にしかできない仕事をするために〜」(2025年2月発行)の内容を投稿記事の形にしたものです。


「ホワイトカラー」の仕事が奪われる

近年、生成AIの急速な進化により、人間の仕事が奪われるのではないかという議論が注目を集めています。ChatGPTなどの高度な生成AIが登場するまでは、AIが奪う仕事は単純作業や機械的なルーチン業務に限られると考えられてきました。しかし、ChatGPTやその他の生成AIツールの登場により、今度は知能労働やデスクワークが代替される可能性が高まっています。

これまでの記事で述べてきたように、生成AIは膨大なデータを元に、文章作成、デザイン提案、顧客からの問い合わせ対応、プログラミング補助、さらには戦略的な分析までもこなす能力を持っています。例えば、法律文書のドラフト作成やマーケティング資料の生成など、かつては高度な専門知識を要する仕事であったものが、AIを活用することで短時間で完成するようになりつつあります。

看護職の仕事とAI

一方で、AIが人間の仕事を完全に奪うわけではありません。現時点の対話型生成AIの大きな欠点の一つに、「無関心」が挙げられます。AI自身に意思や感情はないので、「知りたい」「わかりたい」と思って、対象に向き合って話を聴く姿勢を持っていないのです。対話型生成AIの「それらしい」言葉を紡いでいくという性質が、個別的な対応が求められる場面ではマイナスに作用します。すなわち相手の個別的な事情や思いに寄り添い、丁寧に話を聴いて掘り下げていくというところは、AIが進化しても難しい領域であり、看護職(人間)が今後も専門性を発揮し続ける分野だと言えるのではないでしょうか。

また、AIは(今のところ)「意思・欲求」を持つこともできません。規範を持つことはできますが、「○○したい」「こうなりたい」という思いは持てないのです。一般的な規範や文脈はAIも理解することができ、それに沿った回答を返してくれますが、「こうしたい」という欲求に基づいて意思決定を引き受けることはできません。そのため、質問の内容が難しくなればなるほど、AIの答えはどんどん両論併記になり、選択をこちらに丸投げしてきます。多少偏りがあったり、感情に振り回されたりしてしまったとしても、方針を示して、覚悟を決めることは、人間にしかできないことなのです。

さらに、AIが生成する情報が正しいかどうかを判断し、どのようにその情報を活用するか意思決定することも、人間でなくてはできないことです。対話型生成AIの精度は、その登場からたった2年程度の間に飛躍的に高まってきており、調べればすぐにわかる明確な誤りを提示してくる頻度はかなり減りました。しかし、真に警戒すべきは、偏った視点の情報を提供してきたときです。AI自体は意思や思想を持つわけではありませんが、人間の書いた文章から学習するため、すでに人間社会に存在する誤情報や偏見、ステレオタイプなどを学習し、偏った視点からの情報ばかりを提供するようになってしまう危険性があるのです。その偏りを人間側が見抜けなくなり、全面的に信頼して深く活用されるようになったとき、さらに既存の誤情報や偏見などが強化されてしまう可能性があります。それを防ぐためには、AIに全幅の信頼を置くのではなく、数ある対話相手の一人(一つ)として捉え、AIから出てきた回答から何を採用して使用するかを判断し、意思決定をし、責任を取るということをこそ、人間が担っていかなければなりません。

そもそもAIは、「主体」として存在することができません。人間は、自分の感情を駆使して、感じて、考えます。相手が期待通りの状態になれば喜んで、期待通りにならなかったら悲しみます。時にやり過ぎたり、躊躇したり、失敗して反省したりもします。好きになる、嫌いになる、好かれたがる、愛されたがる、こういう感情や欲求はAIにはありません。そんな人間臭さの中に、その人の「主体」があり、それが看護の現場に彩りを与えているのではないでしょうか。こうした人間臭さを、対話型生成AIで再現することは、少なくともしばらくの間は難しいでしょう。

医療の現場の「ラストワンメートル」を担う看護職

物流業界に「ラストワンマイル」という言葉があります。どんなに物流をシステム化しても、配送拠点から各家庭の玄関までの部分は人が運ぶしかありません。段差や狭い通路などもあるため、台車さえ使えず配送員の体力に依存しているところも少なくないのです。そのため、人が介在しなければ一人ひとりの手元に物を届けるというサービスは成り立ちません。

医療も同様です。様々な治療法・検査法、機械やAIが進化したとしても、一人ひとりの話を聴き出し、身体診察をし、細い血管にルートを取り、傷ついた皮膚のケアをするといった、一番患者さんに近いところの仕事のほとんどは、人間にしかできないのです。まさに「ラストワンメートル」の世界と言えるでしょう。

特に看護師は、患者さんのベッドサイドで仕事をする、まさに医療業界の「ラストワンメートル」を担う存在です。今後は、診断技術や検査技術はAIによってどんどん進化していくことが考えられます。看護記録やサマリーのたたき台の作成、会議資料・議事録の作成といった、正しく論理的な文章を書くということも、AIにそのほとんどを任せることになるかもしれません。しかし、ベッドサイドにおける「ちょっと様子がおかしい」「病衣の下の肌の色がちょっと気になる」「食事の後、この持参薬をちゃんと服用してもらう」といった、ラストワンメートルで行っているアセスメントや業務は、看護師のものであり続けると考えられます。

また、たとえ今後、そのような患者さんのちょっとした異変に気づいたり、ちょっとした支援ができるようなインターフェースがAIに搭載されたとしても、「主体」として相手を理解し、倫理観や感性にもとづいて最終的な判断を行い、その結果に責任を持つのはやはり人間です。何より患者自身が、主体をもっている人間とやり取りして理解されたいと願っているのではないでしょうか。

AIがどんどん発展していく時代だからこそ、看護職は「ラストワンメートル」を担う誇りと喜びを胸に抱き、アセスメントの力や感性を磨いていくことがますます必要になるのではないかと思います。


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