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BizDev公開日誌#3 暗黙知を「事業の武器」に変えるには何が必要か



「暗黙知を切り出す」と言うのは簡単ですが、自分の市場価値を構成してきたノウハウをAIに移植する行為に対して、多少の抵抗を覚える人もいるかも知れません。

BizDev公開日誌 #3では、#1・#2の議論を踏まえ、事業開発の視点から「AIで事業をどう設計するか」を議論した内容をシェアさせていただきます。


#1・#2の振り返りと、今回の視点

#1では、マーケティング事業をAIで変革するとき、「成果のレバーを引くのは結局どこなのか」を議論しました。AIの出力は平均に収斂すること。Human in the loop(人間がプロセスに介在する仕組み)には、「入る価値がある人間」だけが入るべきなのではないかということ。

#2)では、広告運用のAIエージェントを実際に構築した市岡が、AIが「平均点」を超えられない壁の正体を現場目線で共有しました。その正体は、ベテラン運用者だけが持つ暗黙知。暗黙知は「定性的なもの」ではなく、判断の分岐点として構造化できる。これが#2の重要なテーマでした。

今回は、同様のテーマをマーケティングではなく、事業開発の文脈で考えてみたいと思います。

現場の「AIをどう使うか」ではなく、事業開発(BizDev)の視点から「AIで事業をどう設計するか」 という視点で、チームの議論を通じてどり着いた問いは、暗黙知を「事業の武器」に変えるには、何が必要か。 ということでした。


まず「誰の暗黙知か」を仕分ける

世の中のAI事業開発を俯瞰すると、業種問わずに業務に埋もれている暗黙知を言語化・構造化し、AIが扱える形に変換するということをやっています。ただし、その暗黙知は誰のものか? は業種によって大きく異なります。

社内の経理処理や人事オペレーションに閉じた暗黙知なら、SaaSで自社解決すればいい。外部の支援企業に頼む必要はありません。

一方で、支援企業の側に暗黙知が蓄積される構造の産業があります。複数のクライアント、業種、市場を横断で見てきたからこそ見えるパターン。「この業種ではこの訴求軸が効きやすい」「この構成パターンはCVR(コンバージョン率)に寄与する傾向がある」。こうしたパターン認識は、1社だけでは見えません。複数社を横断したからこそ蓄積される暗黙知です。

#2で市岡が報告した例もこれに当たります。ベテラン運用者の「この時期は競合が入札を強めるから2週間待て」という判断。複数案件を長年担当してきたからこそ持てる知見です。マーケティング支援は、明確にこの構造に当てはまります。この暗黙知をAIが活用できる形に構造化し、事業の武器に変えること。それが私たちのBizDevの核心的なテーマです。



「切り出す」ことへの抵抗と、それでもやる理由

チームの議論でリアルに出た話題があります。

AI×事業開発をやるということは、これまで個人のスキルや市場価値として「持っていた」ノウハウを、AIが扱える形に切り出すことに他なりません。外部のマーケターと話すと、この行為への抵抗感は根強い。「自分のノウハウを全部言語化したら、自分の価値がなくなるのでは?」。そんな不安です。

心情的にはよくわかります。しかし、チームの結論はシンプルでした。やらない理由はない。

AIモデルの進化は待ってくれません。自分が言語化しなくても、いずれ汎用AIが同等の品質を出せるようになる可能性が高い。であれば、先に自分の手で構造化した方が、その上に積み上げるものが大きくなる

切り出したから価値がなくなるのではありません。切り出した上で「次にどう進化させるか」を考える側に回ることで、むしろ価値は上がる。蓄積すべきは答えそのものではなく、**「問いを立てる力」**です。正解がない世界で筋の良い仮説を立て、検証し、修正するプロセス。CEOの田部も「仕事はAIに、問いは人に」で、まさにこの方向性を論じています。


マーケ領域のBizDev、5つの要点

この前提を踏まえて、チームの議論から抽出した、マーケ事業をAIでエンパワメントする際のBizDevとしての要点を5つにまとめます。

1. 「AIで何ができるか」ではなく「事業として勝ち続けられる構造は何か」を問う

ツールの性能は半年で陳腐化します。バナーを自動生成できること自体は、もう差別化になりません。重要なのは、AIを使ったプロセス全体の設計と、それを事業として回し続ける仕組みの構築です。

田部はAI時代の意思決定革命で、企業の競争力が「作業量」から「意思決定の質」に不可逆にシフトしていると指摘しています。ツールの性能ではなく、何に賭けるかの判断が事業の生死を分ける。

例えば、私たちのチームでは、AIでのバナー制作において、プロセスを「who-what(誰に・何を伝えるか)決定 → 構成案作成 → デザイン化」と分解し、各ステップにAIを組み込んでいます。この取り組みもAIツールの導入ではなく、プロセスそのものを再設計することが出発点でした。


2. 「属人性を残すべきポイント」と「AIでレバレッジできるポイント」を見極める

#2で、その「暗黙知を取り込む」具体例として、ベテラン運用者の判断の分岐点を言語化するプロセスをご紹介しましたが、これは市岡が実際に広告運用を回す中で直面した壁を乗り越える中でたどり着いた発見でした。

この例のように、属人性を残し暗黙知を残すべきポイントを見極めるには非常に泥臭く BizDev自身がその業務を徹底的にやり込むことが必要です。バナーのAI化をやるなら、BizDevがバナーを作りまくる。LPのAI化なら、BizDevがLP制作のプロセスに没入する。

机上で「ここはAI化できそうだ」と設計しても、現場の解像度がないとズレます。実際に手を動かして初めて見えてくるものがあります。「ここは専門家の方が明らかに質が高い工程」と「ここはAIで多様性を機械的に担保した方が成果が出る工程」。その仕分けは、没入なしにはできません。

非常に原理主義的アプローチですが、事業部長の真鍋がノバセルのAI活用事例を具体公開した記事でも書いている通り、アウトプット品質が顧客価値になる領域では、没入しないBizDevに設計はできない と考えています。


3. 非言語領域を「言語化できる部分」と「できない部分」に分解

「クリエイティブは感性だからAIに任せられない」は思考停止です。ブランドガイドライン、NGワード、フォーマット規則など、実は言語化できる部分も多い。一方で、「この表現がターゲットの感情に響くか」はまだ人間の仕事です。

この境界を明確にすることが、AIと人間の役割分担の出発点です。#2で市岡が示した「流派が違うのは判断の分岐点が違うだけ」という整理は、この分解作業の好例です。BizDevの仕事は境界線を引くだけではありません。言語化困難だった領域を、少しずつ言語化可能な側に引き込んでいくことです。


4. 「適応速度」で勝負 ── データの蓄積より、立ち上がりの速さ

マーケ領域でAIを使う事業の競争優位は、汎用データの量ではありません。新しい案件の最適化にどれだけ速く到達できるか ── この「適応速度」こそが、個社エッジケースだらけのマーケ領域で真に価値を持つ能力です。

過去の修正ログや成功パターンを構造化し、新規案件の立ち上がりを「週単位」から「日単位」に圧縮する。これは汎用モデルの進化では解決されない、運用上の資産です。

ここで顧客体験の話とも接続します。クライアントから見れば、初回の提案や対応のが爆速であるという体験自体が価値になり、速さ自体が顧客体験の質 になります。「効率化」と「顧客体験の向上」は別の目標に見えますが、適応速度という軸で見ると同じことを指しています。


5. 「業務プロセスそのもの」がプロダクトだと自覚する

私たちが事業開発として整備しているのは、AIアプリではありません。業務プロセスそのものです。

本当に価値があるのは、ツールのUIでも個別のAIモデルでもありません。プロセスの分解と設計です。各ステップでどこにAIを噛ませ、どこに人間のチェックポイントを置くか。この設計の巧拙が、アウトプットの品質と速度を決めます。

そして、このプロセスを複数の案件で回すと、型そのものが磨かれていきます。どんなブリーフ構造がよい構成案につながるか。どのチェックを入れると手戻りが減るか。案件を重ねる中で構造的に見えてきます。

アプリは陳腐化しますが、AIを組み込んで自律進化する業務プロセスの設計知見は案件を重ねるほど厚みを増す。この知見こそが、私たちが足元で構築している最も重要な資産です。


AI時代のビジネスパーソンに起きている地殻変動

ここまではBizDevとしての事業設計の話でした。最後に、チームの議論で何度も立ち返った、もう少し大きなテーマについて触れます。

「スキルを切り出す勇気」がキャリアを分ける

前述の「暗黙知の切り出し」は、組織の話であると同時に、個人のキャリアの話でもあります。

自分のスキルをAIに移植しない人は、3年後に追いつかれたとき何も残りません。先に構造化して、その先に進む人だけがAIと共に成長できます。

これを市場価値の毀損と捉えるか、次のステージへの切符と捉えるか。ここで分岐が起きます。チームの楠も自身のnoteで「不確実性の中で行動し続けるマインド」について書いていますが、暗黙知の切り出しも勇気を持って先鞭をつけ、自身をアップデートしていく覚悟が必要です。

少数精鋭が大組織に勝つ局面が増える

AIによって個人の生産性が跳ね上がると、これまで以上に 組織の大きさ自体がハンデになる局面が出てくる可能性もあります。チームの規模で肥大化したコミュニケーションコストがせっかく上がった生産性を下げるリスクがあるからです。

大規模な営業組織では、まだチームの規模が効きます。しかし、クオリティ勝負の事業開発では、少数精鋭×AIが圧倒的に有利です。これは私たちが日々実感し信じていることでもあります。


まだ答えの出ていない問い

#1・#2に引き続き、議論の途中にある問いを共有します。

問い1:AI時代の事業開発組織の最適サイズは?

強い人材が2人いれば、10人のチームより成果が出る局面がある。一方で事業をスケールさせるには組織が必要です。少数精鋭とスケーラビリティのトレードオフをどう解くか。AI時代のマネジメント論の核心だと感じています。

問い2:「プロセス設計の知見」は本当に持続的な競争優位になるのか?

業務プロセスの型が資産だと書きました。しかし、AIモデル自体が「良いプロセス」を提案できるようになったらどうなるか。この優位性は維持されるのか。

問い3:暗黙知の切り出しを「拒否する組織」は淘汰されるのか、それとも別の道があるのか?

暗黙知を切り出さない企業が、AIの波の中で生き残るシナリオはあるのか。「職人の世界」として抱え続ける戦略は、ある条件下では合理的かもしれません。どんな条件下なのかは、まだ整理しきれていません。


おわりに

#1では「マーケ×AIの現場で何が難しいか」を、#2では「暗黙知の壁とその言語化の可能性」を、そして今回は事業開発の視点からAI時代をどう設計するかという話を書きました。

三つの記事を通じて言いたかったことは、結局一つに集約されます。暗黙知は、眠らせておけば壁になり、構造化すれば武器になる。

私たちはその変換の途上のなかで、事業を最大限成長できるように引き続き奮闘していければと考えています。


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