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SAFは航空業界を「ネットゼロ」に運べるか

前回は国際海運の脱炭素の現状を取り上げました。今回は、同じく「電化が難しく、燃料そのものを変えるしかない」分野である航空に目を向けます。2026年、欧州ではSAF(持続可能な航空燃料)の供給義務をめぐり、ついに罰則の執行が始まりました。空の脱炭素は「やるかどうか」から「間に合うか」の段階に入っています。

SAFとは何か 

SAFは廃食油などからつくる航空燃料で、ライフサイクルで見たCO2を最大8割削減できます。最大の利点は、既存の機体や空港インフラにそのまま使える「ドロップイン燃料」であることです。

原料は世代で分かれます。第1世代は食用のトウモロコシや植物油、第2世代は廃食油や非可食バイオマス、第3世代は藻類です。食料と競合する第1世代を避け、いま市場に出回るSAFのほとんどは、廃食油を水素処理した第2世代(HEFA)です。さらにCO2と水素から合成するe-SAF(合成燃料)が、長期的な本命と目されています。

世界の枠組みと、EUの「追い風」

国際線の航空には、海運のIMO(国際海事機関)に相当する世界共通の枠組みがあります。ICAOが主導するCORSIAです。各国の航空会社は2019年比で増えたCO2をカーボンクレジットで相殺する義務を負い、SAFを使えばその負担を減らせます。2027年からはほぼ全ての国際線が対象になり、CORSIAのもとで各国がSAF導入を進める構図ができつつあります。

その上に、地域ごとの義務が積み重なります。EUのReFuelEU Aviationは、空港で給油する燃料へのSAF混合を義務づけ、2025年の2%から2050年の70%へ引き上げます。2026年にはスイスが同規制を採用し、加盟国は、2025年の供給実績が目標に届かなかった燃料事業者への制裁金の徴収を始めました。制裁金は「化石燃料とSAFの価格差の2倍以上」と定められ、バイオ系SAFで1トンあたり約2,700ユーロに上ります。

隣の英国も2025年から独自の義務を始めました。SAF比率は2%から2030年に10%、2040年には22%へ。英国の制度では、燃料事業者はSAFを供給すると「証書」を受け取り、義務量に見合う証書を当局に提出しなければなりません。証書が足りない事業者は、1リットルあたり約4.7ポンドの「バイアウト価格」を支払えば義務を免れます。これが実質的な上限価格として働きます。

立ちはだかる「供給の壁」

ところが現実は厳しく、2025年のSAFは航空燃料全体のわずか0.6%、2026年も0.8%程度の見込みで、IATAはむしろ生産の伸びが鈍化していると警告しています。供給は一部の事業者に偏り、欧州の航空会社は通常のジェット燃料の最大5倍を支払わされているといいます。

焦点は主原料の廃食油(UCO)です。世界最大の輸出国は中国で、2024年の輸出は約300万トンと過去最高でした。一方のEUは、域内で回収できる廃食油の約8倍もの廃食油が必要なため、不足分の多くを中国からの輸入に頼ってきました。ところが中国は2024年末に輸出補助を廃止し、自国でも始まるSAF義務に向けて廃食油を囲い込み始めました。さらに米国が中国産廃食油に高関税をかけたため、米国分の廃食油が欧州へ流れ込んでおり、各国の貿易政策によって原料価格や入手しやすさが揺れています。

日本の現在地

日本は2030年に航空燃料の10%(約170万kL)をSAFにする目標を掲げています。先頭を走るのは、コスモ石油・日揮ホールディングス・レボインターナショナルが設立したSAFFAIRE SKY ENERGYです。コスモ石油堺製油所の敷地に建てた国内初の量産プラント(年約3万kL)が2024年末に完工し、2025年からJAL・ANAへの供給を始めました。原料は、飲食店や家庭から国内で回収した廃食油。これも第2世代SAFで、海外と同じ原料の制約を抱えています。ENEOSや出光興産も大規模プラントを計画し、業界全体で190万kL超を見込みますが、本格供給には2026年度中のFID(最終投資決定)が税制優遇の条件で、まさに今が正念場です。

では、どうすればSAFは増えるのか

増産には、少なくとも三つの後押しが要ると考えます。

一つめは、つくる側への支援です。義務は需要を生み出しますが、生産設備への巨額投資に踏み切るには、事業者が長期の採算を見通せる安心感が要ります。日本はすでに「戦略分野国内生産促進税制」で、SAFの生産・販売量に応じて1リットルあたり30円を税額から控除する仕組みを設けました。需要だけでなく供給側の不確実性を下げる、こうした制度の拡充がカギになります。

二つめは、原料の多様化です。限りある廃食油に頼り続ける限り、供給はいずれ頭打ちになります。稲わらや林地残材といった非可食バイオマス(食用にならない植物くずや廃棄物)へも裾野を広げ、さらにe-SAFの早期立ち上げが重要になってきます。

三つめは、コストです。SAFは通常のジェット燃料の数倍と高く、これが普及の最大のブレーキになっています。プラントの大型化による量産効果や、安価な再生可能エネルギー活用によるコスト低減が望まれます。

航空会社にSAF使用を強いるだけでは、CO2は減りません。義務と同じだけの力を、つくる側に注げるか——空の脱炭素の成否は、そこにかかっていると思います。

次回は、その供給の壁を乗り越える鍵として期待されるe-SAF(合成燃料)を取り上げる予定です。

出典

全体・SAFの基礎

世界の枠組み(CORSIA)

EU・英国の規制と罰則

供給の壁・原料(廃食油)

米国の政策(補助金)

日本の動向

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