かぎりない庭 | 十夜 あじさいとなめくじ
前回:九夜 やまのひと
-あじさいとなめくじ-
庭には、あじさいもありました。
梅雨になると、青とも紫ともつかない花が、雨に濡れて重たそうに咲いていました。
わたしは、あじさいが嫌いではありませんでした。
そして、あじさいの葉の裏にいるなめくじに、妙に惹かれるところがありました。
好きだったわけではありません。
触りたいとも思いません。
それでも、小雨が降ると、わたしは庭に出て、なめくじを探していました。
小雨が降ると、なめくじは葉の裏側から、ゆっくりと表に出てきます。
葉の上を、音もなく進みます。
通ったあとには、ぬめりが残ります。
その跡が、光の加減でキラキラして見えました。
汚いのに、綺麗でした。
それが、なんだか不思議でした。
祖母は、なめくじが嫌いでした。
見た目だけでなく、あじさいの葉を食べてしまうからです。
祖母は、なめくじを見つけると、わりばしで取り除いていました。
わたしは、その様子を見るのが好きではありませんでした。
でも、探すのはやめませんでした。
怖いもの見たさ、という言葉があります。
たぶん、あれに近かったのだと思います。
見つけたい。
けれど、見つけると少し嫌な気持ちになる。
見たくないのに、見てしまうもの。
汚いのに、綺麗に見えるもの。
嫌いなのに、何度も確かめてしまうもの。
葉の裏をそっとめくると、そこにいることがあります。
湿った葉に貼りついて、じっとしている。
動いているのか、止まっているのか、よくわからない。
けれど、しばらく見ていると、少しずつ場所が変わっている。
あじさいの葉に残った銀色の跡。
雨に濡れた葉の上で、細く光っていました。
かぎりない庭
