かぎりない庭 | 六夜 半透明の翅
前回:五夜 ほしがきのこと
-半透明の翅-
庭は、自然が豊かでした。
祖父母の家の庭では、たくさんの昆虫を見つけることができました。
幼いころのわたしは、庭という閉じられた場所の中にいながら、小さな生き物たちを通して、外の世界に触れていたのだと思います。
花壇の土を少し掘ると、丸まった幼虫が出てきました。
石をどかすと、足のたくさんある虫が逃げていきました。
葉っぱの裏には、見たことのない卵が並んでいることもありました。
庭には、わたしの知らないものが、たくさん隠れていました。
わたしは、それらを見つけるのが好きでした。
ある日、庭のはずれの花壇で、見慣れない昆虫を見つけました。
それは、大きなてんとう虫のように見えました。
普通のナナホシテントウの六倍くらいの大きさだったでしょうか。
そうは言っても、幼稚園児の尺度です。
実際には、そこまで大きくなかったのかもしれません。
それでも、わたしはその大きさに驚きました。
それ以上に目を引いたのが、翅でした。
てんとう虫の翅にあたる部分が、透けていました。
半透明の翅の下で、腹が波打つように動いているのが見えました。
翅の下にあるものまで見えてしまうのが、不思議でした。
見てはいけないところを見ているような気がしました。
けれど、目をそらすことができませんでした。
その虫は、葉っぱの上でしばらく止まっていました。
足を一本ずつ動かし、体の向きを変えました。
半透明の翅の下では、腹が、ゆっくりうねうねと動いていました。
わたしは目を離すことができませんでした。
そのてんとう虫に似た昆虫は、ゆっくりとタンポポの茎を上っていきました。
茎は、その重さで少しだけしなりました。
虫は、そこで一度止まりました。
それから、半透明の翅を広げました。
翅は、思っていたよりも大きく広がりました。
そして、わたしの手の届かない高さまで飛んでいってしまいました。
わたしは、しばらくそのあたりを探しましたが、その虫はもういませんでした。
その昆虫を、二度と見つけることはできませんでした。
かぎりない庭
次回:七夜 カマキリ
