かぎりない庭 | 七夜 カマキリ
前回:六夜 半透明の翅
-カマキリ-
祖父母の家の庭では、いろいろな虫を見つけることができました。
てんとう虫。
だんごむし。
バッタ。
カマキリ。
幼いころのわたしにとって、虫は特別なものではありませんでした。
庭にいるのが当たり前で、見つければ眺める。
捕まえられそうなら捕まえる。
それくらいのものでした。
ある秋の日、兄が庭でカマキリの卵鞘を見つけました。
草の茎か、木の枝か。
どこに付いていたのかまでは覚えていません。
兄は、そのスポンジのようなものを家の中に持ち込みました。
珍しいものを見つけたと思ったのでしょう。
その卵鞘を、兄は引き出しの中にしまいました。
そして、わたしも一緒に、そのまま忘れました。
冬が過ぎ、暖かくなったころ。
兄が、その引き出しを開けました。
「うわぁ…ぁぁぁ」
兄は、恐怖とも嫌悪とも、絶望とも取れるような不思議な声を上げて、引き出しから離れました。
わたしも、その中を見ました。
引き出しの中には、一センチにも満たない、ちいさなちいさな、カマキリに似た白い生き物が、大量に蠢いていました。
最初は、それが何なのかわかりませんでした。
けれど、少し見てわかりました。
カマキリの子どもだ。
わたしは、妙に冷静に、それを眺めていました。
庭で見るカマキリは、気持ち悪いものではありません。
むしろ、少しかっこいい虫でした。
鮮やかな緑色で、前脚を折りたたんで、じっとしている。
こちらを見るように、顔を動かす。
カマを持ち上げて翅を広げて威嚇してくる。
そういう虫でした。
けれど、引き出しの中にいるそれは、違いました。
白くて。
小さくて。
つやつやしていて。
たくさんいて。
こちらを見ているようでした。
どれもまだ、カマキリになりきっていないように見えました。
引き出しの中では、白いものがいくつも動いていました。
それは庭の虫ではありません。
家の中に入り込んだ虫でもありません。
引き出しの中で生まれた虫でした。
兄がそのあと何をしたのか。
祖母を呼んだのか。
母が片づけたのか。
引き出しごと外に出したのか。
どう処理したのかは、思い出せません。
ただ、音もなく動いていた光景を覚えています。
引き出しいっぱいに、小さな白いカマキリがいました。
ふちから、ぼとぼととあふれ出ていました。
かぎりない庭
次回:八夜 池の底
