かぎりない庭 | 八夜 池の底
前回:七夜 カマキリ
-池の底-
庭には、小さな池がありました。
池と言っても、深いものではありません。
今で言うビオトープのような、小さな水場です。
それでも、幼いわたしが中に踏み込むわけにはいきませんでした。
池には庭石が置かれ、高低差もありました。
金魚も飼っていました。
雪が降った日には、白い凹凸の中に水面が現れます。
そこに、赤い金魚の姿が見えます。
白い景色の中を赤い金魚が泳ぐ様子は、子どもながらにきれいだと感じました。
ある日、池の岩の陰に、何かが沈んでいるのが見えました。
はじめは、崩れた庭石が沈んでいるのかと思いました。
けれど、どうも違います。
植木鉢にも見えます。
けれど、わたしには壺のように見えました。
庭石には見えませんでした。
なんだろう。
わたしは祖父を呼びました。
「おじいちゃん、池になんか沈んでるよ」
祖父は、わたしが指さす方を見ました。
「あぁ、庭石が沈んでるねえ。崩れたかな。あとで片付けないと」
そう言いました。
わたしは、その答えに納得できませんでした。
「あの変なのだよ?」
そう言って、もう一度、池の底を指さしました。
「変わった形の庭石だよねぇ。崩れたのかねぇ」
祖父の言葉は優しいものでした。
けれど、有無を言わせない感じがしました。
あそこなら、棒を使ってつつけば、正体くらいはわかるはずでした。
あとで、祖父のいないときに確かめてやろう。
そう思いました。
二日ほどは、そこにありました。
けれど、三日目にはなくなっていました。
祖父が片づけたのかもしれません。
誰かが、池の掃除をしたのかもしれません。
ただ、わたしはそれがなくなるところを見ていません。
その後、祖父は、危ないからと言って、池のまわりに柵を作りました。
それから、池の底をのぞき込むことはできなくなりました。
今になって思えば、あれは本当に崩れた庭石だったのかもしれません。
でも、植木鉢だったのかもしれません。壺だったのかもしれません。
池の底に沈んでいたものが何だったのかを確かめることは、できませんでした。
かぎりない庭
次回:九夜 やまのひと
