かぎりない庭 | 五夜 ほしがきのこと
前回:四夜 祖母のお仕置き
-ほしがきのこと-
庭には、立派な柿の木と栗の木が植えられていました。
毎年、たくさんの実をつけます。
収穫されなかった柿は、庭に落ちました。
それを、出入りする車が踏み潰します。
祖母が、それを掃除します。
干す前の柿が、茶の間に並ぶことがありました。
けれど、わたしは柿があまり好きではありませんでした。
車に潰された柿のイメージが強すぎたのです。
味以前に、食べる気分になれませんでした。
祖父は、収穫された柿のうち、半分ほどを干し柿にしていました。
物置の陰に紐を通し、そこに整然と柿を吊るしていきます。
吊るされた時は、つやつやだった柿が、日に日に茶色くしぼんで小さくなり、やがてしわくちゃの物体になる。
わたしには、それが食べものに見えませんでした。
「干し柿が甘くできたで」
「食ってみい」
祖父は、そう言って干し柿をすすめました。
祖母も、美味しそうにそれを食べていました。
けれど、わたしには、どうしても口に入れる気になれませんでした。
萎びた茶色い物を、祖父母が口の中で噛んでいるのを見るのも、嫌でした。
柿だったもの。
干されて、しぼんで、小さくなったもの。
それを大人たちは、甘くて美味しいと言って食べていました。
幼いわたしには、それがときどき、ひどく遠いもののように見えました。
干し柿の味は、今でもよく覚えていません。
ほとんど食べられなかったのです。
覚えているのは、吊るされた柿が少しずつ変わっていく様子です。
つやつやしていたものが、茶色くなり、しぼみ、小さくなっていく。
わたしには食べられませんでした。
かぎりない庭
次回:六夜 半透明の翅
