かぎりない庭 | 十八夜 おばあちゃんの魔法のバケツ
前回:十七夜 白い庭
-おばあちゃんの魔法のバケツ-
おばあちゃんの秘密を見てしまった!
祖母の料理は、いつもおいしいです。
わたしは特に、きゅうりのつけものが好きでした。
ふつうのきゅうりは、水っぽくて、シャキシャキしていて、少し青臭い味がします。
ですが、祖母のきゅうりは、すこしだけやわらかく、塩っ気があり、ほかのきゅうりとは違っていました。
どうして祖母のきゅうりだけ、こんなにおいしいのか。
わたしはずっと不思議でした。
見た目はそれほど変わりません。
むしろ、ちょっとしなびて見えます。
なのに、とてもおいしい。
「おばあちゃんのきゅうりは、すごくおいしい。どうしてこんなに味がするの」
わたしが聞くと、祖母は言いました。
「おばあちゃんの魔法だよ」
それ以上は教えてくれませんでした。
ある日、廊下を歩いていると、台所に祖母がいました。
祖母はしゃがみ込んで、なにかを持ち上げようとしていました。
なにをやっているんだろう。
わたしは台所の入り口から、そっとのぞきました。
祖母は、台所の床板を外していました。
台所にそんな秘密があったなんて。
祖母はその中から、クリーム色のバケツを持ち上げました。
バケツのふたを開けると、なんだかすっぱいような、嫌なにおいがしました。
祖母はそこに手を入れて、かき混ぜていました。
廊下まで、においが流れてきました。
祖母は、バケツの中からなにかを取り出しました。
きゅうりです。
あれは、おばあちゃんのきゅうりです。
おばあちゃんのきゅうりには、茶色いものが付いていました。
すっぱいにおいの元は、あれでしょう。
祖母は、きゅうりを三本取り出して、流しに置きました。
そして、代わりに新しいきゅうりをバケツに入れていました。
そうか。
あのバケツの中の茶色いどろどろに沈めておくと、おいしくなるんだ。
あれがおばあちゃんの魔法のバケツなんだ。
わたしは、祖母の秘密を知ってしまいました。
わたしは祖母に気づかれないよう、部屋に戻りました。
あのバケツに入れたものは、おいしくなる。
水っぽいきゅうりが、あんなにおいしくなるのだから、チョコレートを沈めたら、きっと、もっとおいしいチョコレートになる。
そのチャンスは、すぐにやってきました。
祖母と母が買い物に出かけたすきに、わたしはおやつのチョコレートを持って、台所に向かいました。
外れる床板の場所は、もう調べてありました。
そこには、小さな取っ手がついていたのです。
この取っ手はなんのためにあるのか、前はわかりませんでした。
でも、今はわかります。
床板は、簡単に外せました。
床板を外すと、地面の上にクリーム色のバケツが置いてありました。
これが、おばあちゃんの魔法のバケツです。
ですが、バケツの上には大きな石がのせてありました。
これは、魔法が外に漏れないようにするためのものでしょうか。
それとも、泥棒から守るための重しでしょうか。
泥棒から守るための重しとしては、十分に効果がありました。
わたしはその大きな石を、なかなか持ち上げることができませんでした。
とにかく頑張って、大きな石を持ち上げました。
そして、床の上に置きました。
それで、ようやくバケツを持ち上げることができました。
これは、すごいぞ。
わたしは慎重に、バケツのふたを開けました。
ツンとした、すっぱいにおいが広がりました。
茶色いどろどろが詰まっています。
この中には、きゅうりが沈めてあるはずです。
わたしは急いでチョコレートの包みをはがし、そっと、どろどろの中に差し入れました。
チョコレートが見えなくなるまで沈めたあと、手でどろどろをならしました。
祖母と母が帰ってくる前に、いそいでかたづけなければなりません。
まだ、祖母にばれるわけにはいきません。
きっとびっくりするぞ。
みんなで一緒に、おいしいチョコレートを食べよう。
重たい石を元に戻すのには苦労しましたが、なんとか元通りにできました。
床板も戻し、あとは知らんぷりです。
手に付いたすっぱいにおいがなかなか取れず、石けんで何度も手を洗いました。
次の日のことでした。
「あんた! なにいれたの!」
わたしは祖母に、台所へ呼ばれました。
床の上には、魔法のバケツが置かれていました。
バケツのふたは開けられていました。
すっぱいにおいがしました。
そこに、チョコレートのにおいも混じっています。
茶色いどろどろに、溶けたチョコレートが混ざって、ぐるぐるした模様になっていました。
「チョコレートでもいれたんかい!」
祖母には、ばれていました。
「ぜんぶ、駄目になっちゃったよ!」
祖母は、怒っていました。
魔法の使い方を間違えたのでしょうか。
なにがぜんぶなのか、わかりませんでした。
でも、ぜんぶ駄目になってしまったのでしょう。
「チョコレート、おいしくなると思った。ごめんなさい」
わたしは謝りました。
祖母は大きくため息をつくと、
「もう、さわるんじゃないよ」
と言いました。
許してもらえたのか、物置に閉じ込められずに済みました。
ところが、それからしばらく、おいしいきゅうりを食べさせてもらえませんでした。
物置よりも、ずっと厳しいお仕置きでした。
かぎりない庭
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