かぎりない庭 | 十三夜 ぴぎゃあ
前回:十二夜 おわらない廊下
-ぴぎゃあ-
祖父母の家は、自営業をしていました。
観光地だったその町には、旅館や宿がたくさんありました。
祖父母の家では、そういうところへ布団やシーツを貸し出す仕事をしていました。
今で言えば、リネンサプライのような仕事です。
家の中や倉庫には、いつも大量の布製品がありました。
畳まれたシーツ。
積み重ねられた布団。
紐でしばられた紙の束。
段ボール箱や発泡スチロールの箱。
そういうものが、家の中のあちこちにありました。
祖父は、庭の外れに置いたドラム缶で、家から出た細かなゴミを燃やしていました。
今なら叱られることなのかもしれません。
けれど、そのころは、そういうことがまだ普通にありました。
祖父は、いらなくなった書類や、木工作業で出た端材、段ボール箱に発泡スチロールの箱、燃える物なら何でも、ドラム缶の中へ無造作に放り込みました。
それから、下のほうに開けた穴から火をつけます。
紙が燃え、木片が燃え、ドラム缶の中で、火はすぐに大きくなりました。
「はっはっはー。よく燃えてんだろう」
祖父は、わたしの頭を撫でながら言いました。
わたしは、ドラム缶の中を見ていました。
しばらく様子を見たあと、祖父はそこから離れていきました。
ぱちぱち、という音。
ばらん、ばらん、と崩れる音。
しゅうぅぅ、と何かが吹き出すような音。
燃やすものによって、音は違いました。
紙が燃える音。
木が燃える音。
湿ったものが燃える音。
わたしはその音を聞きながら、今、何が燃えているのかを考えるのでした。
ぴぎゃあぁぁ
そう聞こえました。
なにが燃えている音でしょうか。
聞こうにも、祖父は行ってしまいました。
ぴぎゃあぁぁぁ
また聞こえました。
猫ではありません。
それは、わかりました。
猫だったら、もっと暴れるはずです。
そもそも、動物ではないでしょう。
ゴミにまぎれているはずもありません。
きいぃ きいぃ ぎゃ ぴぎゃ、ぴぎゃあぁぁ。
何度か聞こえたあと、ぱったりと止みました。
火が消えて、ドラム缶が冷めたころ、わたしは踏み台を持ってきました。
中を覗くためです。
中には、白い灰があるだけでした。
祖父がやってきました。
「危ないぞ」
祖父はそう言って、わたしの両わきを抱え、踏み台から下ろしました。
「あまり吸い込むな」
そう言いながら、祖父はドラム缶の中をのぞきました。
「なにか、あったんか?」
なにもありませんでした。
ただ、灰の中に、ちょっとべたっとした黒いものがまじっていました。
かぎりない庭
次回:十四夜 脈打つ庭
