モストマスキュラー!17「友情について」【#創作大賞2025 #恋愛小説部門】
耳が熱い。頬が熱い。
自分が放った言葉で、ここまで恥ずかしくなったことは、ない。
しばらく自席で俯いていた。早く静まって欲しい、この鼓動の速さ。
「さあ、ここからは比較審査、辛いところだな」
私は隣で呟いたタカシくんの言葉に反応し、ようやく顔をあげた。
「どうして?」
「比較されるってことは一番を決めることでもあるけど、当落線上にいるって意味もあるから。余裕で審査通過する奴らも呼ばれるんだけど、何度も呼ばれたりすると身体への負担は大きい。全く呼ばれない奴はお呼びでないってことな」
例えばあれ、とタカシくんが指差した先には他大学の選手が何度も審査員に呼ばれてポージングをしている姿。
確かに、何度も筋肉に力を入れてアピールするのはしんどそうだ。全身汗だくになって、まるでオイルを塗っているように光って見える。
ちなみに学生ボディビルでは黒くするオイルは禁止されていて、皆肌を焼いてカットを見せると教えてもらったことが懐かしい。まだあれから四ヶ月しか経っていないのだ。
「心配なのはメガネ。その次にせんべいだな。あいつら二年だから、まだ身体が仕上がってない」
経験の浅さが、どうしても出る。タカシくんはそう言いたげな表情で舞台上の彼らを見つめる。
「ああ、二十番呼ばれちまった……」
タカシくんの心配は的中したようだった。
当落線上にいるであろうアケチくんが呼ばれてしまった。周りを見る限り、彼は色白なので焼きが甘く白飛びし、カットがよく見えない。
──そして、舞台のスポットライトは、思っている以上に浴びていると体力を消耗することを、私はこの会場の誰よりも知っている。
次の日の脱力感たるや、思い出しただけでゲンナリする。
「明智はもう少し日サロで焼くべきだったな……。折角割った腹筋が照明で飛んでるから分かり辛い。こりゃ今年も『キング』一強か」
アケチくんが苦しそうにしていたポージングも筋肉の『魅せ方』も、学生ナンバーワンの彼にかかれば、お手のもの。
部位別の比較が何だ、と言わんばかりの堂々としたもので、誰が隣に来ても、誰が並ぼうとも、びくともしない筋肉を纏っている。
「アキラ……呼ばれたな。あれは入賞圏内の比較だ」
それは腹の部での出来事。明らかに上位だとわかる選手三人が、頂点の彼を中心に立ち位置を変えながら比較されている。腹筋はアキラくんが重点的に仕上げていたところだから、とても嬉しい。
だけど──
秀ちゃんは一度も比較審査には呼ばれなかった。
◆
比較審査が終わり、予選を通った人間がフリーポーズへと駒を進められる。
休憩は各自でとるスタイルのようで、私たちは神宮大学のホールの外でコンビニおにぎりを頬張っていた。
「結果出た!」
会場付近の誰かがそう叫んだ。
私たちは慌てて選手控室へ向かうと──そこには、冷静な顔をしているアキラくんとアケチくんが、隣でうずくまって号泣しているせんべいくんを慰めていた。
「結果は」
「俺だけ。最後の最後で明智がダメだったっぽいな」
「安藤は?」
「着替えてるよ」
秀ちゃん、ダメだったんだ……。
すると、着替えが終わった秀ちゃんが現れた。
「綾羽、タカシ。ありがとね。ダメだったわー。最後の大会だったのにな」
その表情は笑顔だったけれど、やっぱり悔しさが滲み出ているように感じられた。
この春からの秀ちゃんの努力が、頭の中をよぎる。
大好きな焼肉も、唐揚げも、ほとんど我慢して、彼は何を得たかったのか。
「空元気、やめなよ」
「え?」
「悔しくて仕方ないんだったら、泣いたっていいじゃない!」
「俺……」
「全力尽くしたんでしょうが! それなら堂々と落ち込め! 空元気なんて見たくない!」
私が早口でまくし立てると、秀ちゃんの大きな瞳から、涙。
やだ、まるで私が泣かせたみたいじゃないか。
「いや、俺、悔しいって思ってないんだ」
涙を拭いながら、笑顔になる秀ちゃん。ちょっと意味がわからない。
「え?」
「俺ね、腹筋割れたの、初めてなの。去年は全然でさ、もちろん対策出来てなかったのが原因だったんだけど、みんなの前で大失態。本当に恥ずかしくてさ……今年は自分なりにやれたかなって」
「秀ちゃん……」
「でも、悔しいって思えるほど、頑張れてない」
そんなことない、と私が頭を振る。
「綾羽は……悔しいって思ってくれてるんだよね。俺、それだけでめちゃくちゃ嬉しい」
そこに、空気を変えるようにアキラくんの声が響いた。
「お前らの仇は、俺が取ってやる」
「え?」
「お前らの涙の分、全部俺が背負ってやる。見てろよ」
そう言ったアキラくんは、まさしく『皇帝』という名に相応しい煌めいた瞳をしていた。
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