IQ120でも集中できない──「地頭はいいのに」と言われ続けてきた子のADHD
こんなこと、ありませんか
「『地頭はいいのに、なんでこんなことができないんだ?』
これまで何度言われたか分からない。
小学校の先生にも、塾の先生にも、本人にも、自分自身にも。
確かにIQは120ある。
言語能力は同年齢の子より明らかに高い。
理解力もある。説明されればすぐ分かる。
でも、宿題は出さない。
忘れ物は多い。
受験勉強は、いざ机に向かうと1時間もたない。
試験は直前で焦るくせに、コツコツ準備ができない。
『努力できないだけ』『甘えてるだけ』──そう思ってきた。
でも、最近本人が『俺、たぶんおかしい』と言い出した。」
「IQが高いから大丈夫」「地頭がいいから大丈夫」――この言葉に、長年苦しめられてきた子と保護者がたくさんいます。
高知能のADHDは、診断につながりにくい代表的なパターンです。
そして見逃されたまま思春期を迎え、大学受験や就職活動で初めて崩れる――こんな展開が珍しくありません。
「IQが高い」と「ADHDがある」は、両立します。
むしろ、IQの高さがADHDを長年隠してきただけ、なのです。
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※本記事は児童精神科医の臨床経験に基づく一般的な情報提供であり、個別の症例について断定するものではありません。お子さんの診断・治療・支援については、必ずかかりつけ医・スクールカウンセラー・特別支援コーディネーター等の専門職にご相談ください。
この記事の内容は、執筆者である児童精神科医が日々の診察で実際に保護者・本人に伝えている内容を、個人情報を完全に取り除いた上で再構成したものです。
1. 「気合と地頭で切り抜けてきた」が通用しなくなる時
高知能のADHDがある子は、小学校〜中学校の時期、こうやって乗り切ってきます。
テスト前日に詰め込めば、ある程度の点が取れる
授業中に聞き流していても、要点だけは押さえられる
宿題を出していなくても、定期テストで挽回できる
質問されればその場で考えて答えられる
これらは「能力でカバーする」短期決戦の戦略です。
本来ADHDの子に必要な「コツコツやる」「計画的に進める」「持続的に集中する」というスキルは、使わなくても何とかなってきた。
ところが――
高校・大学・社会人になると、状況が変わります。
範囲が広く、一夜漬けでは無理な試験
数ヶ月にわたる卒論・課題・プロジェクト
自己管理が必要な大学生活
締め切りを守る・タスクを並行して回す・優先順位をつける、といった社会人スキル
ここで初めて、「地頭で切り抜ける」が通用しなくなります。
そして、今まで使ったことがない「コツコツやる回路」がうまく動かないことに本人が気づく。
これが、高知能ADHDが顕在化する典型のタイミングです。
2. 子どもの脳で何が起きているのか
ADHDの脳は、注意の維持・実行機能・報酬系の働きに偏りがあります。
具体的には:
注意の維持 ── 興味のないことに集中し続けられない
実行機能 ── 計画を立て、優先順位をつけ、最後までやり通すのが苦手
報酬系 ── 「将来の成果」より「今の刺激」が脳を強く動かす
ここまでは、IQが高くても低くても同じです。
ただしIQが高い子は、これらの弱さを「短期記憶力」「言語能力」「処理の早さ」でカバーできてしまう。
「30分集中できないけど、5分でテストの要点をつかめる」――こういう特殊な能力で、長年なんとかやってきている。
そしてここに、別の問題が重なります。
「興味のないことに、絶望的に取り組めない」
知能の高いADHDの子は、自分が納得できないこと、つまらないと感じることに対する拒否感が極端に強い。
理由が分からない反復練習、意味が見いだせない宿題、興味のない教科――こういうものに対して、脳が「これは時間の無駄だ」と判断するや否や、まったくエネルギーを向けられなくなる。
これは怠けではなく、脳の報酬系の偏りです。
ドーパミンが出ない作業に対して、脳がスイッチを入れない。
そして、本人もそれを「自分はサボってる」と思って自分を責める。
ここまでが、高知能ADHDの子の脳で起きていることの全体像です。次の章に進む前に、この理解を支えているオーソライズ情報源を共有しておきます。
出典・参考情報
『注意欠如・多動症―ADHD―の診断・治療ガイドライン 第5版』(ADHDの診断・治療指針に関する研究会 編、じほう、2022年)(https://www.jiho.co.jp/products/54675)
発達障害ナビポータル「注意欠如多動症」(https://hattatsu.go.jp/supporter/healthcare_health/about-adhd-2/)
「発達障害(神経発達症)」こころの情報サイト/国立精神・神経医療研究センター(https://kokoro.ncnp.go.jp/disease.php?%40uid=MbkmLbVbTEhSpxyE)
発達障害ナビポータル(https://hattatsu.go.jp/)
文部科学省「特別支援教育」(https://www.mext.go.jp/a_menu/01_m.htm)
文部科学省「特定分野に特異な才能のある児童生徒に対する学校における指導・支援の在り方等に関する有識者会議」(https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/169/index.html)
3. 診察室で私がしていること
ここまで読んで、「『IQが高い=ADHDではない』ではないのは分かった。でも、地頭でカバーしてきたうちの子に、これからどう関わればいいんだろう」と感じた方も多いのではないでしょうか。
「『甘えてるだけ』と言ってきた自分の言葉を、本人にどう取り消せばいいのか」「環境に慣れたあとに崩れる、と言われてもピンとこない」「思春期に診断名を伝えていいのか」――高知能ADHDの子の保護者には、踏み込みかたを迷う場面が次々に訪れます。
私は診察室で、まず「地頭でカバーしてきた」という事実を本人と保護者の前で言葉にします。
全検査IQと処理速度の30ポイントの落差を一緒に見つける作業、過剰適応として疲労を読む視点、新しい環境に慣れた頃にこそ崩れることを先に予告しておく工夫、診断名を「便宜的なツール」として本人に渡す伝え方――地頭の良さを否定せずに、その子の「コツコツ回路」が動かない理由を本人と保護者と共有していきます。
ご家族で「うちの子の『できなさ』、どう支えていこうか」と話すときの、診察室の側からの「下敷き」として読んでもらえたらと思います。
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