「IQが高いのに、なぜ生きづらいの?」──WISC検査が教えてくれる、能力の凸凹と子どもの本当の困りごと
こんな違和感、ありませんか
学校の成績はそこそこなのに、生活では困ることが多い
話せば賢いのに、なぜか書くのが苦手
IQが高いと言われたのに、なぜか集団生活でしんどそう
言葉は達者なのに、漢字や計算でつまずく
「やればできるはず」と先生に言われ続けている
でも本人は「頑張ってもできない」と泣いている
「障害ではない」と言われたのに、明らかに困っている
「IQが高いって言われたのに、どうして困ってるんだろう」
「『やればできる子』と言われ続けて、もう本人がボロボロ」
「検査を受けるべきか迷ってきたけど、本当に意味があるのかな」
──そう感じている保護者の方は、本当にたくさんいらっしゃいます。
私の診察室にも、毎週のように同じご相談が来ます。
そして、本人と話してみると、見えてくるのはこんな景色です。
「自分は頭が悪いんだと思ってた」
「みんなは普通にできることが、なんで自分はできないんだろう」
「『頑張りなさい』って言われ続けて、もう疲れた」
このnoteでは、WISC(ウィスク)という知能検査が何を測っているのか、その数字が何を教えてくれるのか、そして「IQが高い/低い」だけでは見えない子どもの本当の困りごとについて、私が診察室でいつも保護者にお伝えしている内容をお届けします。
「検査を受けても、子どもにラベルが貼られるだけじゃないか」と心配される方もいるかもしれません。むしろ逆です。検査結果は、ラベルを貼るためではなく、ラベルを外すためにある。──このnoteで一番伝えたいのは、そこです。
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※本記事は児童精神科医の臨床経験に基づく一般的な情報提供であり、個別の症例について断定するものではありません。お子さんの診断・治療・支援については、必ずかかりつけ医・スクールカウンセラー・特別支援コーディネーター等の専門職にご相談ください。
この記事の内容は、執筆者である児童精神科医が日々の診察で実際に保護者・本人に伝えている内容を、個人情報を完全に取り除いた上で再構成したものです。
1. 「IQが高い/低い」では分からない世界
IQは「平均値」でしかない
WISCは、知能を4つの指標に分けて測ります。
言語理解(VCI) ── 言葉で考え、言葉で説明する力
知覚推理(PRI) ── 視覚的に情報を捉え、ルールを見つける力
ワーキングメモリ(WMI) ── 聞いた情報を一時的に保持し処理する力
処理速度(PSI) ── 単純な視覚情報を素早く正確に処理する力
そして、この4つの平均から「全検査IQ(FSIQ)」が出ます。
ここで重要なのは、「全検査IQ」は、4つの指標の平均値でしかないということ。
例えば、こんな子がいます。
Aさん:言語理解 130(とても高い)/ワーキングメモリ 88(やや低い)
全検査IQ:109(標準的)
数字だけ見れば「IQ109=普通」。でも、この子の本当の苦しさは「平均の中」には隠れている。
言葉では大人顔負けに話せるのに、複数の指示を覚えるのが苦手。
だから周囲は「賢い子なのに、なぜ忘れるの?」と困惑する。
本人は「頭の中で処理しきれない」のに、賢く見えるせいで配慮が得られない。
40ポイントの差。このディスクレパンシー(不均衡)こそが、Aさんを追い詰めている本当の原因です。
凸凹が大きいほど、生きづらい
私が診察室で繰り返しお伝えしていることがあります。
「能力の差(ディスクレパンシー)が大きい子ほど、生きづらい」
IQが120の子と、IQが80の子。一見、120の子のほうが楽そうに見えますよね。でも、もしIQ120の子の内訳が「言語理解140/処理速度95」だったら?
周囲は「言語理解140」を見て「すごく頭がいい」と判断します。すると要求水準が上がる。「あなたならできるよね」「これくらい余裕でしょ」と期待される。でも、処理速度95の側面で限界が来ているとき、その期待は本人を追い詰める刃になります。
「やればできるはず」という言葉ほど、凸凹が大きい子を消耗させるものはありません。
2. 数字から読み解く、子どもの世界
4つの指標が、それぞれ何を教えるか
少しだけ、各指標の意味を具体的に書きます。
言語理解(VCI)が高い子
大人顔負けの議論ができる
抽象的な概念を扱える
説明を聞いて理解するのは得意
一見「賢い子」に見える
→ 「賢く見えるのに、別の場面でつまずく」とき、ここの突出を疑う
知覚推理(PRI)が高い子
パズル・図形・空間把握が得意
ルールやパターンを見つけるのが速い
言葉での説明は苦手なことも
→ 見て学ぶ・図で理解するスタイルが向く
ワーキングメモリ(WMI)が低い子
口頭の指示を覚えていられない
「3つやって」と言われると2つで止まる
黒板を書き写すのが極端に遅い
うっかりミスが多い
→ 「聞いて覚える」が苦手なので、視覚化・メモが救う
処理速度(PSI)が低い子
書く・読む・見るといった事務的な作業が遅い
授業のスピードに疲れる
黒板を書きながら聞くのが極端に難しい
漢字の練習で消耗する
→ 時間延長・量の削減・代替手段(タブレット等)が有効
「全部高い/全部低い」より「差」が大事
数字をひとつずつ見るだけでは、本当のしんどさは見えません。指標の差を見るのです。
私が経験的に使う目安:
指標間の差が 15〜20ポイント → 多少の凸凹あり
指標間の差が 20〜30ポイント → 明らかな凸凹、生活で違和感が出やすい
指標間の差が 30ポイント以上 → 強い生きづらさ、誤解されやすい
「指標間に20以上の差があるだけで、本人は『頑張ってもできない』という経験を繰り返しやすい」── これは私が診察室でよく使う言葉です。
「境界知能」の苦しさ
WISCで全検査IQが70〜85(境界知能) に該当する子は、診断上は「知的障害」になりません。だから支援級にも入りにくい。でも、通常学級ではついていけない。「やればできるはずだ」と思われやすく、いちばん支援を受けにくい位置にいるのです。
私はこの状態を、「グレーゾーンの苦しさ」と呼んでいます。「数値的には明らかに低いわけではないが、それゆえに支援を受けにくく、しんどい状態が続く子どもが多い。やればできるじゃないかと思われやすい分、本人にとっては余計につらい」── この理解を、保護者・教員に共有することから始まります。
ここまでは「数字をどう読むか」という前提の話でした。ここから先は、その数字を診察室と学校・家庭でどう動かしていくかを、私が普段やっている順番でお話しします。
出典・参考情報
『日本版WISC-V実施・採点マニュアル』『日本版WISC-V理論・解釈マニュアル』(日本版WISC-V刊行委員会 編、日本文化科学社、2021年)(https://www.nichibun.co.jp/NEWS/important/news_wisc5-21.html)
こどもの心の診療ネットワーク事業(厚生労働省/中央拠点:国立成育医療研究センター)(https://kokoro.ncchd.go.jp/)
発達障害ナビポータル(https://hattatsu.go.jp/)
3. 診察室で私がしていること
ここまで読んで、「指標の差が苦しさをつくっているのは分かった。でも、うちの子は本当にWISCを受けるべきなのか、受けたあと、その数字をどう活かせばいいのか」と感じた方も多いのではないでしょうか。「IQの数字を本人に伝えていいのか」「学校に検査結果をどう持っていけば配慮につながるのか」「WISCとK-ABC、読み書きスクリーニングの違いは何か」──検査は受けて終わりではなく、そこから家庭や学校が動き出すための入り口です。
私はWISCを「ラベルを貼る道具」ではなく「学校へのパスポート」として使うことが多いです。
受けるかどうかをどんな基準で判断しているか、結果を本人にどう翻訳して伝えるか、検査用紙の数字を学校にどう「配慮の根拠」として渡すか、WISCで凸凹が出ない場合に他の検査でどこを補うか、そして「能力の問題ではなく別の問題」と分かることがあるという視点──そういう活用の道筋を、診察のなかで一緒に組み立てています。
ご家族で「検査を受けるべきか、受けた結果をどう使うか」を話し合うときの、診察室の側からの下敷きとして読んでもらえたらと思います。
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