見出し画像

【愛着支援の説明書 総集編】

※私が初めてnoteの記事にした【愛着障害の説明書】。8部に分けて投稿したものを加筆修正・編集し、1つの記事にまとめました。こうすることで、全体を理解しやすくなったのではないかと思います。さらに詳しく専門的な内容を知りたい方は、下に貼り付けてある【愛着障害の研修】をご覧ください。


※この記事は、1万字を超えてしまっています。ちゃんと読もうと思うと30分か、それ以上かかってしまうかもしれません。少しずつ読んだり、気になる章だけ読んだり、工夫をお願いいたします。

こんにちは。おまつです。

私は臨床心理士という資格を持ちながら、児童養護施設で、親と暮らせない子どもたちと生活をしています。

子どもの朝食を作ることから始まり、テーブルを囲んでご飯を食べ、一緒に外を駆け回ったり、子どもの悩みを聞いたりと、当たり前のような日常を大切に過ごしています。

でも、もちろん楽しいことばかりではなくて。時には子どもが反抗して怒鳴ってきたり、自分を傷つけようとするのを必死に止めたりもします。当たり前ですよね。『ここは自分の家ではない』『この人は本当の親ではない』ということを分かっているのですから。

さらに、施設で暮らす子どもたちの多くは、愛着障害を抱えています。これまで十分に愛された経験が少ないのです。そのため、愛着障害を理解した対応が急務になります。
ですが今や、愛着障害の理解は、施設に限らず学校や家庭でも求められています。

親子の些細なすれ違いが、愛着の課題として出てくることがあります。これは、どの家庭にだって起こりうることです。「誰が悪い」などという話ではありません。もちろん、「親が悪い」なんて決して言えません(虐待は除きます)。

この記事は、以下の方々に向けた愛着障害理解の冊子です。
・子育てをしている方
・学校教育に従事している方
・児童福祉に携わっている方
そんな方々の、愛着障害への興味のきっかけになるとありがたい限りです。

施設での支援用に作成したので、理解が難しかったり、読者さんの状況に合わない場合もあるかもしれませんが、1つの知識として一度読んでみていただきたいと思っています。

では、【愛着障害の説明書】を始めていきます。




【はじめに:児童養護施設における支援のすばらしさ】


 児童養護施設で生活する子どもたちの多くは、虐待を経験した子どもたちです。虐待を経験すると、大人への不信感から様々な問題行動を起こしてしまうことがあります。虐待を経験していなくとも、無理に親元から離され生活することは、子どもにとって大きな不安を伴う出来事です。私たちから見えない所で、必ず苦しみや不安を抱えています。

日本では毎年約3万人の方々が自殺で亡くなられていると聞きます。自傷行為はどの学校の生徒にも見られるようになりました。このような「自分を傷つける行為」も、愛着障害と深い関係があります。今、日本では約1/3の子どもが愛着の課題を抱えていると言われています。

 子どもたちの問題を理解する上で、愛着障害という視点が役に立ちます。愛着障害を学ぶことで、「どうすれば子どもたちが人を信頼できるようになるのか」「安心し希望を持って生活していくことができるのか」ということへの答えが見えてくるように思います。“人への信頼”と“安心感”が、子どもが豊かに生きていくための大切な土台です。
愛着の課題を解決するのは“人との安心感のある信頼関係”です。当施設で働く大人たちが愛着の修復を意識して関われば、子どもたちはみるみるうちに落ち着いていきます。

愛着障害の理解は、児童養護施設における支援で最も大切なことの一つです。愛着障害という知識は、子どもから信頼され、子どもと安心してともに過ごすための知恵が詰まっている宝庫です。ぜひ、自分から手を伸ばして学びを深めていただきたいと思います。

ここからは、主に米澤好史さんという方の理論と私の経験を結びつけて愛着障害を説明していきます。


第一章【愛着障害を知る】

愛着とは「特定の大人との情緒的な心の絆」のことです。これではイメージがつきにくいのでキーワードにすると、「愛情」「人とのつながり」「安心感」「肌のぬくもり」などが挙げられます。「この人といると安心するなあ」とか、「この人といると自分らしくいられるな」というような感覚のことです。これを子どもに感じてもらえるように関わると、子どもと支援者の間に愛着が形成されていきます。

愛着障害とは「なんらかの理由で愛着が形成されず様々な問題が起こっている状態」のことです。大人との間に安心感やぬくもりを十分に感じられず育ってしまい、心に辛さや寂しさを抱えている状態のことです。愛情を求めるがゆえに人を困らせてしまっている子どもたちのことです。子どもたちの問題行動の裏には、愛着の課題があると考える癖をつけたいところです。

〈子どもにとっての「帰ってくる場所(基地)」になる〉
子どもの愛着を育むためには、大人が子どもの基地になることをイメージすると分かりやすいです。子どもは大人という基地でエネルギーを蓄え、外の世界に挑戦していく。大人は基地のように、子どもにとって帰ってくる場所であることが大切です。

愛着を育むための基地の役割は3種類あります。
①安全基地②安心基地 ③探索基地です。

➀安全基地
安全基地は、ここにいれば衣食住が整い問題なく生きていくことができるという安全や、子どもを脅かすことがあってもそれから守ってくれるという、心や命の安全を与えてくれる場所のことです。まず何よりも大切にするべきなのは、着る服が十分にあり、ご飯が三食お腹いっぱい食べられ、熟睡できる部屋が用意されていることです。また、何かトラブルがあれば解決してくれるような存在です。

➁安心基地
安全基地が整ったら、その後は安心基地になることが大切です。安心基地とは、「ほっとする」「安心する」「楽しい」「元気が出る」などのポジティブな気持ちを与えてくれる存在のことです。嫌なことがあったら気持ちに共感してくれ「よく頑張ったね」と労うこと。背中をさすったり、マッサージしてあげるのも安心基地の関わりです。横でテレビを観ながら一緒に笑うのも、「おやすみ」と言って布団をかけてあげるのも安心基地。安心基地は何も難しいことではなく、子どもとともに子どもの目線で関わることです。

③探索基地
安全基地と安心基地が整うと、自然と子どもは親や家から離れて活動していきます。その時に『行ってらっしゃい』という声かけや、帰ってきた時の『おかえり』という迎え入れが大切です。そうすると、子どもは『ここが僕、私の帰ってくる場所だ』という安心感を強めていくことができます。この役割が、子どもの探索基地です。

愛着形成において最も大切だと言われているのは②の【安心基地】です

安心基地になる関わりによって愛着が形成され、子どもの心が安定していきます。これは簡単なようで、意識しないと難しい支援でもあります。業務に追われたり、自分の気持ちが不安定になっていたりすると、子どもに寄り添う余裕はなくなります。安心基地の関わりは中々難しいのです。だから、大人が最優先にするべきことは何かを常に考えること。

【子どもの支援は、愛着形成が最も重要だ】と全員が分かっていれば、ホームの支援をどうしていくのが良いか、一致団結して決めていくことができます。


この章の要点をまとめます。

・愛着とは『特定の大人との心の絆』
・愛着障害とは『なんらかの理由で愛着が形成されず様々な問題が起こっている状態』
・愛着形成のためには、子どもの基地になることが大切
・基地には「安全基地」「安心基地」「探索基地」の3つがある。
・安全基地→安心基地→探索基地の順番を意識することが大切
・最も大切なのは「安心基地」。つまり、ポジティブで安心感のある関わり。

以上の要点が、愛着理解の第一歩です。



第二章【愛着障害のタイプや特徴】


愛着障害には大きく分けて2つの種類があります。

➀「抑制型愛着障害」
➁「脱抑制愛着障害」


①抑制型愛着障害
抑制型は、人との関わりを極端に避けることが大きな特徴です。部屋にこもったり、あまり感情を表に出さなかったりする子どものことです。これは裏を返せば、人からの愛情を奥底で求めすぎているために、愛情が得られないのが怖くなり人と関われない状態です。

②脱抑制型愛着障害
脱抑制型は、常に人との関わりを求めていることが大きな特徴です。人との距離が近すぎる、人見知りを全くしない、感情の波が激しい、などが見られる子どものことです。まさに、愛情を欲する愛着障害の代表的タイプだと言えます。


〈愛着障害を持つ子どもたちが最も苦手な3つのこと〉
➀他者を信頼すること
➁自己肯定感を持つこと
➂感情をうまくコントロールすること

この3つのどれか、または複数が原因で問題行動は起こっています。

・大人の言うことを聞こうとしない子どもは、これまで親の言うことを聞いても裏切られてきた不信感を抱いているからであって、単なる子どものわがままではないことも多いようです。
・周りに自慢話ばかりする子どもは、自分に自信がないことを無意識的に隠そうと必死になっているのかもしれません。
・一見ただ一方的に子どもが怒っているとしても、その理由は感情がコントロールできずに怒り散らかすしか方法を知らないからかもしれません。本当は怒るよりも何か伝えたいメッセージが隠れていることがあります。

愛着が形成されれば、3つの課題は改善されていきます
そうすると、子どもは大人を信用できるようになり、大人の言葉を聞いてくれるようになります。自己肯定感が上がるので、わざわざ周りにいじわるをしなくても安心して過ごせるようになったり、難しいことに挑戦できるようになったりします。気持ちをコントロールできるようになるため、怒っても自分で落ち着けるようになります。

このように、愛着形成を意識して子どもとの信頼関係が築けるよう関わっていると、知らず知らずのうちに問題がなくなっていきます。これは、みなさんが子どもと関わるうちに実感されていることだと思います。

愛着障害の行動の特徴
愛着障害には様々な行動や心の動きが見られます。代表的なものは、
・落ち着きのなさ
・自信のなさ
・非を認められない
・注目を得ようとする
・他者を非難する
・自傷行為
などです。これらはすべて愛着が未形成で、安心感が不足していることが関係しています。自分の中にある不安や怒りなどの負の感情を紛らわすための行動も多いようです。それらでさえも、愛着が形成され、自分や他者に安心感が育まれると収まっていきます。


【この章のまとめ】
・愛着障害には、主に抑制型と脱抑制型の2種類がある。
・抑制型は、人との関わりを極端に避けるタイプ。脱抑制型は、人との関わりを過度に求めるタイプ。
・愛着障害の子どもたちが最も苦手なことは、➀他者を信頼すること➁自己肯定感を持つこと➂感情をうまくコントロールすること
・他者信頼の低さや自己肯定感の低さ、感情コントロールの課題が、さまざまな問題行動やトラブルを引き起こしてしまっている。
※彼らは『困った子』ではなく、『困っている子』だと言える。



第三章【愛情の器】


人には、愛情を溜めておくための器が心の中にあると言います(米澤好史)。この器の中に愛情が溜まっているほど、人は自分に自信を持ったり、他者を信用できたり、困難に立ち向かったりしていくことができます。器の中の愛情は、その人の安心感や自信に変わるエネルギーになります。

幼少期から特定の大人と愛着を形成できていた場合はDのようなしっかりとした器になり、与えた分の愛情を受け取ってもらえます。しかし、愛着が形成できていない子どもはA~Cのような形になることがあります。

〈Aの器タイプ〉
 Aは底に穴が空いているタイプです。私が彼らから感じるのは「もっと見て!」「私のものになって!」「離れないで!」といったメッセージです。
 彼らは常に愛情が不足しているため、大人からの関心を自分から積極的に求めにいきます。ですが彼らに与えた愛情は、そのうち器の底から漏れ出し、すぐに枯渇してしまいます。人見知りをせず人との距離が近く、大人に様々な要求をしたり困らせようとしたりするような子は、Aタイプと考えて良いでしょう(脱抑制愛着障害が当てはまります)。体をベターっと寄せてくる、落ち着きがない、感情の波が激しい、などの特徴も見られることがあります。
 Aタイプは愛着障害の代表的なタイプで、対応には必ず工夫が必要です。子どもの要求に後手に回り応じていると、要求は簡単にエスカレートし取り返しのつかないことになってしまいます。そのため、大人が主導権を握り先手で関わることが重要になります。リーダーシップが求められることが多いです。具体的な対応は今後の記事に投稿していきます。

〈Bの器タイプ〉
 Bは器に堀がないタイプです。私が彼らから感じるのは、他者への不信感や無関心からくる「どうせあなたもでしょ」「どうでもいい」といったメッセージです。
 Bの器では、そもそも愛情を受け取ること自体が難しい状態です。このタイプは、自室にこもったり、フードやマスクを常に付けて壁を作ったり、目が合いにくかったりします(抑制型愛着障害が当てはまります)。彼らは、人との関わりを拒否しているため、こちらが積極的に関わろうとしてもむしろ逆効果であることが多くあります。ですが、心の奥底では「見てもらいたい」「大切にされたい」という気持ちを抱えているはずです。
 まずは受容的共感的に関わりながら、じっくりと時間をかけて関係を構築していくことが大切です。掘を作ることは時間のかかる作業です。数ヶ月または年単位で、焦らずじっくりと関わる意識が丁度いいでしょう。

〈Cの器タイプ〉
 Cは受け口が狭いタイプです。このタイプは、その子に合った関わりでしか愛情が満たされにくい子どもです。こだわりが非常に強いと言えます。例えば、好きなアニメの話でしか盛り上がらない子、1対1でしか話してくれない子など、特定の関わり方でしか愛情を受け取ることができません。初めは何がその子に届く関わりかを見極め、じっくりと関係を作っていくことが重要です。関係ができていけば、自然と受け口も広がっていきます。
 このタイプは、自閉症と愛着障害が併発しているものと言われています。

〈Dの器タイプ〉
 Dは、幼少期から愛着形成ができており器が安定しているタイプです。こタイプの子は、愛情が器に満たされやすく、自分や他者に安心感を抱いています。また、失敗しても立ち上がれたり、非を素直に認められたりします。愛情というエネルギーが器に溜まっているからです。
 A〜Cのタイプも、特定の支援者との間で愛着を形成していくことで、Dの形に近づいていきます。ですが、器を変えることはとても時間のかかる支援です。あせらずじっくり関わっていきましょう。


【この章のまとめ】
・人は心の中に愛情を蓄えるための『心の器』があると言われている。
・愛着障害の子どもたちは、この器に穴が空いてしまっていたり、フタが閉じてしまっていたりする。
・器の形は4種類ある。
・それぞれの器に適した愛情の注ぎ方がある。
・愛着形成を意識した関わり(安心感の育み)によって、器が綺麗に形作られていく。



第四章【支援の落とし穴】


ここまでで、彼らを理解する視点を述べてきました。ではどう関わっていけばいのでしょうか。実は、ただ関わればいいという訳ではありません。残念ながら、優しくすれば愛着は再形成できる、なんて簡単な話でもありません。

なぜなら、愛着障害の支援にはいくつかの落とし穴があるからです。
代表的なものを紹介しておきます。

〈対応の落とし穴➀:それぞれの大人が自分の考えで関わる〉

残念ながら、子どもが同時に愛着を築けるのは、1人〜2人程度です。それぐらい、人の心は相手との関係性を慎重に見極めているのです。そのため、誰がその子と愛着を気づいていくのか、ということを決めておく必要があります。それを、キーパーソン支援(住み込み担当職員のこと)と呼びます。
キーパーソンが中心になって子どもとの愛着形成を意識した支援を行い、チーム職員はそれをサポートする体制を作っていきます。もしも、キーパーソンの考えとは違う方向性で他の方が子どもと関わるとどうなるでしょうか。その場合、子どもは誰のいうことを1番に聞けばいいのか、誰と信頼関係(愛着)を築けばいいのか無意識的に混乱してしまいます。良かれと思って様々な人が、様々な関わり方をした結果、子どもは誰とも深い関係を築けずに、愛着も形成されず、心は不安定のままになってしまいます。

〈落とし穴➁:感情コントロールを期待した対応〉

子どもを無条件に肯定することや、叱って反省を促すことを私たちは当たり前に行っています。ただこれは、子どもが自分で気持ちをコントロールできることが前提の関わりです。
愛着に課題がある子どもは、気持ちのコントロールが非常に苦手です
他者から肯定されるとまるで自分の考えがすべて正しいという誇大した気持ちになったり、叱られると気持ちを切り替えられず必要以上に落ち込んだり、激しく反抗したり、八つ当たりとして優しい他児や職員を攻撃したりすることがあります。そのため、無条件の肯定や反省することを期待した指導は、子どもとの関係を壊し、結果的に子どもを不安定にすることに繋がってしまいます。
 最終的には、子どもが多くの人と深く関われるようになることが望ましいですし、自分で気持ちをコントロールして努力したり反省したりすることができるようにならなければいけません。
ただ、愛着の課題がある段階では、支援者がある程度は配慮あるサポートをして導いていく必要があります

では、どう支援していくのが良いのでしょうか。


【この章のまとめ】
・愛着を安定させていくには、寄り添うことによる安心感の育みが必要になる。
・けれど、愛着障害を抱える子どもたちの対応には、いくつかの落とし穴がある。
・落とし穴➀:それぞれの大人が自分の考えで関わること
・落とし穴➁:感情コントロールを期待した対応



第五章【キーパーソンを中心としたチーム作り】


愛着形成のためのチーム作りから始めていくことが大切です。

愛着は「特定のおとなとの絆」のこと。残念なことに、愛着は同時に何人もの人とは形成できません。だから、まずは担当職員が子どもとの信頼関係を育んでいきます。この、愛着形成(信頼関係構築)を担う人のことをキーパーソンと呼びます。

〈キーパーソンは安心感を育む〉
キーパーソン(担当職員)が育むのは、安心基地です。つまり、「この人と一緒にいるとほっとする」という安心感と「この人についていこう」と思えるような尊敬です。

子どもと担当職員との間に安心感と尊敬が生まれると、キーパーソンの存在のおかげで子どもの心は安定してトラブルが起こりにくくなり、トラブルが起こってもすぐに解決できるようになります。

そのため、キーパーソンは子どもとの寄り添いを最優先に考えてください。当施設が住み込み制なのは、担当職員が子どもと長く時間をともにすることでき、それによって安心感を育みやすいためです。だから、担当職員は住み込みの形をうまく活用して、子どもとの寄り添いに全力を注いでもらいたいと思います。

〈愛着形成のコツ〉

愛着形成のコツは、子どもの気持ちが動いていく場面に傍にいてあげることです。

例えば、子どもが怒ったり悲しんだりしている時に、自分の力でで落ち着かせるのではなく、キーパーソンが寄り添って気持ちを落ち着かせるようにすること。また、子どもに自分で楽しませるよりも、キーパーソンが子どもが楽しませる関わりを多く持つこと。
 そのような情緒的な関わりを積み重ねることで、「この人といると安心する」「この人といると楽しませてもらえる」という感覚が育まれ、愛着形成に繋がっていきます。
 傍にいることで子どもの気持ちがエスカレートしてしまう場合は離れた方がいいですが、どこかでキーパーソンが気持ちを落ち着ける関わりを積み重ねることが大切です。それは、避けては通れない支援になります。
 キーパーソンの個性や環境によって、何が安心感のある関わりになるのかは変わってきます。それぞれで自分にできる関わりを模索していくことが大切です。

愛着の課題を抱える子どもたちと生活する中で感じた私なりの方法を紹介しておきます。

〈愛着形成のポイント〉
◯とにかく長くともに時間を過ごす(同じ部屋にいるだけでも十分)
◯ともに何かをする(横でテレビを観る、同じテーブルで食事を取る、など)
◯子どもより先に起きておく
◯子どもが寝る時、部屋まで送り、布団をかける
◯趣味に付き合ってもらう
◯叱るのではなく諭す
◯教えるのではなく手伝う


【この章のまとめ】
・支援をするためには、まずはチーム作りから行うことが重要。
・愛着は特定の人としか結べないため、その子にとってのキーパーソンを決めておくこと。
・キーパーソンは、その子にとっての安心基地となるよう丁寧に寄り添いを重ねる。



第六章【サブキーパーソンの役割】


この章では、キーパーソンや子どもたちを支える「サブキーパーソンの役割」について説明していきます。読み進める中で、ここまで丁寧にするの?という疑問が湧く方もいるかもしれません。そうなのです。
ここまで丁寧にしないと、愛着の修復は難しいのです。

大人が好き勝手に愛情を注いでも、残念ながら子どもは満たされません。
たくさんの人の愛情よりも、1人の人間の深い愛情の方が重要です。
そのための支援の方法がキーパーソン支援です。

家庭や学校支援にも通ずる点が多くあります。
以下の内容が多くの親御さんや先生方、支援者の方々の役に立つことを願っています。


〈サブキーパーソンについて〉

 サブキーパーソンとは、キーパーソンと子どもとの関わりをサポートする存在のことです。家庭の場合は、お父さんが担うことが多いようです。施設では、チーム職員。学校では副担任やその他の先生方、などが担います。

愛着形成は非常に難しい作業です。愛着が形成できるまでに、担当職員は子どもと何度もぶつかり合い、疲弊してしまう日々が続くでしょう。その道中を支えていくのがサブキーパーソンの仕事です。

時にはキーパーソンを一時的に交代することになるかもしれません。また、「この子は担当と相性がどうしても良くない」という理由でキーパーソンを分担することもあるかもしれません。子どもからのキーパーソンへの愚痴を聞き流したり、訂正させたりすることも必要になってきます。指導をサブキーパーソンが行い、時には嫌われ役を買って出ることも必要でしょう。
最も優先して考えるべきは、キーパーソンが子どもと関係を築いていくことです。そのために、サブキーパーソンはサポートに全力を尽くしていきます。 

〈サブキーパーソンの役割➀:キーパーソンへの橋渡しと情報の集約〉
 子どもの前ではキーパーソンをたてることが重要です。物事の決定はサブキーパーソンは独自で行わず、必ずキーパーソンの前で行います。キーパーソンがこのホームの最重要人物であるということを子どもに伝えないといけません。
 また、キーパーソンが子どもの細かな情報を把握し、適切な関わりができるように、子どもの様子や気になる点を共有します。共有は子どもの前で「○○ちゃん外でこけて怪我してたんですけど頑張ってこらえてました」「○○くん外で言い合いをしていて、よくなかったんです、、」といったように伝えるとよいです。そうすることで、子どもの行動はキーパーソンが把握し、その後の対応を決定しているということが伝わります。この一連の流れは、尊敬感を育む上では非常に大切です。何があっても、子どもの前でキーパーソンをないがしろにしたり、キーパーソンを責めるような発言はしてはいけません。

〈サブキーパーソンの役割➁:キーパーソンとの連携〉
 キーパーソン1人で何人もの子どもたちと同時に愛着形成をすることは、至難の業です。キーパーソンが対応できていない点を、サブキーパーソンがカバーしていきます。
施設での連携の例を挙げていきます。
・キーパーソンが子どもを注意した後はサブキーパーソンが「担当のお姉さんは、○○という理由であなたにこう言ったんだよ」と代弁してフォローする。
・サブキーパーソンが子どもの指導役になり、キーパーソンはフォロー役になって子どもと安心感を育む。
・行事の計画はサブキーパーソンが行い、引率はキーパーソンが行う。
・キーパーソンが子どもに寄り添っている間は、サブキーパーソンがその他業務を担う。

 キーパーソンが愛着形成にたっぷりと時間を注げるように、周囲は配慮していきます。だからその分、キーパーソンは愛着形成に対する責任を持たないといけません。その覚悟のもと、子どもの事を十分に観察し、注げるだけの愛情を注いでいくことが大切です。そうすれば、きっといいチームが生まれ、愛着形成はスムーズに進んでいきます。


【この章のまとめ】
・キーパーソンを中心としたチームが上手く機能するには、サブキーパーソンという役割が大切になる。
・サブキーパーソンの役割➀:キーパーソンへの橋渡しと情報の集約
・サブキーパーソンの役割➁:キーパーソンとの連携
・以上は一例であり、各チームでどのようにキーパーソンを支えるのか話し合い、工夫していくことが大切である。



第七章【子どもに寄り添う】


この章は、「寄り添うということ」について書いています。
愛着形成は、大人が寄り添うことによって育まれていきます。

私の施設の主任はよくこう言っていました。
「子どもに1つの指導が響く時は必ず、それまでに9の寄り添いをしていた時だけだよ」

◯どれだけ寄り添うか
◯どう寄り添うのか
これが最も重要なポイントです。

〈寄り添い、安心感を育む〉
 子どもの安心基地となり、安心感を育んでいくことが最も大切です。そうして信頼関係ができると、子どもはその人が傍にいるだけで気持ちが落ち着きます。これが、愛着形成です。
 愛着が形成され気持ちが落ち着くことで、問題行動は減っていきます。また、自分のすべきことに向き合ったり、人の役に立とうとするようになります。子どもと大人との間に信頼関係が育まれるほど、子どもは自立していくことができるのです。
これが、『自立とは、複数の依存先があること』という言葉の由来でしょう。

子どもに寄り添うということはどういうことか。
まずできることは、丁寧に関わること(配慮)です。例えば、「おはよう」「いってらっしゃい」「おかえり」「おやすみ」といった挨拶を、できるだけ子どもの目を見て欠かさず伝えること。小学生までは寝る時に部屋まで送り、布団をかけてあげること。「今日どうだった?」と聞いてあげること。温かいごはんを出してあげること。などなど。

愛着の満たされなさがある子には、言葉だけでなくスキンシップという直接的な関わりも安心感に繋がります。肩を揉んであげたり、背中に手を添えてあげたり。こちらが触れたいからではなく、その子が不安や疲労を抱えている時などに、手の温もりを伝えてあげるような触れ合い方が望ましいでしょう。

次にできることは、生活を子どもとともに送る意識を持つことです。何をするにしても、「子どもと一緒にできないか」と考えることが大切です。例えば、仕事を家庭や食卓に持ち込まないこと。テレビを隣で観ること。遊びに付き合うこと。買い物を子どもとすること。たまに同じ部屋で寝ること。お菓子作り、スポーツ、などなど。なんでも良いので、子どもと同じ時間を子どもと同じ目線でできる限り多く過ごすことが、寄り添いです。

これらを継続することで、時間はかかるかもしれませんが必ず安心感は育まれ、「この人といると安心するな」「楽しいな」という感覚が育まれていきます。信じて継続することが大切です。


【この章のまとめ】
・寄り添うことで、子どもの安心基地となり、安心感を育むことができる。愛着形成のために最も大切なことである。
・寄り添うとは、子どもへの丁寧で暖かい配慮や、肌のふれあい、子ども目線に立った関わり、共に過ごす時間、などのことである。
・寄り添いが届くまで時間がかかることもあるが、それまで諦めずに寄り添い続けることが大切になる。



第八章【主導権と先手の関わり】


この章では「主導権」「先手の関わり」の大切さを説明していきます。
主導権とは、こちらがペースを握ったり、先手で関わるといったことです。
これが実は、寄り添いと密接に繋がっています。
愛着障害の子どもたちに対しては、
主導権のない寄り添いは響かないのです。

主導権を握らない家庭やクラスは、一見自由なように聞こえます。
しかし実際は非常に荒れやすく、子どもはルールを守らず、大人の愛情も響かない状態になってしまいます。それほど、主導権は重要な視点です。

詳しくはこちらをご覧ください。↓



なぜ、主導権が大切なのか。それは、

愛着の課題を抱える子どもたちは、自分の気持ちのコントロールが大の苦手だからです。子どもに気持ちや行動を任せていると、彼らは悲しみを抑えられなくなったり、怒りを暴走させたりしてしまいます。そのため、大人が感情コントロールを支えることが大切なのです。子どもの感情コントロールが育ってくるまでは、支援者が一歩先からリードしている感覚で関わる意識が必要です。


〈傾聴は後手!?〉
いくつか注意点を挙げておきます。子どもの不安定な気持ちは、話を聴くだけでは収まらないことも多いです。むしろ話すことで気持ちがエスカレートしてしまうこともあります。「どんな気持ちだったの」「なんでそうしたの?」という聞き方は後手の関わりです。愛着障害の子どもは、自分の気持ちを見つめることが苦手なので、むしろ混乱してしまいます。ではどう聞くのが良いか。

〈先手で気持ちの代弁をする〉
大切なのは、「こういう気持ちだったからこうしたんだよね」「本当はこうしたかったんだよね」という聞き方です。子どもの気持ちを代わりに言葉にするという代弁(気持ちの言い当て)を傾聴の中に組み込むことです。
 正しく代弁するには、当てずっぽうで行うのではなく、必ず事前にその場にいた人たちから情報を得ておきましょう。そうすることで適切な代弁が行えます。そのように適切な代弁を行うことで「この人は自分の気持ちを分かってくれている」という信頼に繋がり、トラブルの解決にも協力的になってくれます。下の記事で詳しく説明しています↓


〈要求に対して後手で応じるのは危険!〉
もう一例挙げます。子どもの要求に後手で応じると、子どもに不信感を与えてしまいます。例えば、子どもが『○○取って来てよ』『このルールおかしい』『今日一緒に寝てよ』というような要求をするとします。それらすべてに「わかったよ」「いいよ」と無条件に応じているとどうなるか。愛着の課題のある子どもは『自分が言わないと動いてくれない』と思ってしまうことが多いようです。『何でも聞いてくれるということは、自分の方が偉い』『だからこの人は信頼するに値しない』という錯覚まで起こしてしまうことがあります。

〈先手で関わる(要求の置き換え、代案の用意)〉
 後手で要求に応じでばかりいると、残念ながら信頼感には繋がりません。これが愛着の課題の難しさ(落とし穴)です。
 そこで、「先手の関わり」や「要求の置き換え」、「代案の用意」が必要になってきます。子どもに要求される前に事前に動いておくこと(先手の関わり)。子どもから要求された時に「その気持ちは分かるけど、今はできないから○○の時にね」という代案の用意。「それよりも代わりにこうしてあげるよ」といった要求の置き換え。
 このように、子どもに引っ張られるのではなく大人が導いているような関係性を作っていくことが大切です。それが、先手の関りや主導権の考え方です。脱抑制型や、Aの器タイプの子どもたちには、特に求められる対応です。

〈主導権を握ることの注意点〉
 大人が先手や主導権を握っておくことは、子どもが落ち着いて素直に大人の言葉を聞いてくれることに繋がります。受容共感などの寄り添いが子どもに響くためには、この土台が必要です。
 ですが、主導権を握ったまま手放そうとしない人もいます。これでは子どもは自立していきません。まずは、一旦大人が主導権を預かった後に、寄り添いを積み重ね関係性を深める。それができたら、徐々に主導権を子どもに移し、子ども主体の関わりに戻していきます。そうした流れの中で、子どもは自立していきます。
 つまり、主導権は一時的なものであるということです。「一旦預かっているだけ」ということを忘れてはいけません。そして、「最も大切なのは寄り添いによる安心感だ」と忘れないようにしてほしいと思います(くれぐれも子どもを支配するような考えにならないように)。


【この章のまとめ】
・愛着障害を抱える子どもたちの対応では、主導権を意識した対応が必要になることがある。
・特に脱抑制型(Aタイプの器)の、感情コントロールが苦手な子に対して、主導権が必要になる。
・傾聴時には「気持ちの代弁」が必要になったり、要求された時には「要求の置き換え」や「代案の用意」によって、主導権を取り戻すような関わりが必要になる。
・主導権は子どもの成長に合わせて返すことを忘れてはいけない。



おわりに


以上で、文章を締めていきたいと思います。
愛着という概念は、子ども支援の中核を成すものだと私は思っています。それほど、大切なものなのです。その愛着がうまく育まれなかった子どもたちは、大人になっても「どこか満たされない」といった渇きのような苦しさを抱え続けることがあります。
だから不幸という訳ではありません。その渇きが、スポーツや仕事を成功するための原動力になることもあります。
ですが、それは子どもたち自身が決めることであり、私たち大人の役目は「子どもを大切に育てること」、ただそれだけです。その、子どもを大切に育てるためのヒントが、『愛着』や『愛着障害』という知識の中に詰まっています。

以上が、私が愛着の発信を続ける理由です。
私や施設の子どもたちが、愛着という視点に助けられたように、この記事が皆様の役に立つことを願っています。米澤先生をはじめとした、愛着に関する研究を続けられている諸先生方には、心より感謝を申し上げたいと思います。

長い文章にお付き合いいただき、ありがとうございました。



【おすすめ記事】

学校現場で愛着障害の対応に苦しんでいる先生や、管理職の方に向けて行っている【愛着障害の研修】をまとめた記事があります。きっと役に立つはずです。↓

いいなと思ったら応援しよう!