【短編】再出発 No.11
一つ前の話
見送り
一週間が過ぎ、住んでいたアパートも引き払い、荷物は先に実家宛に送ってしまったので、スーツケース一つと遺骨だけが残っていた。それを持って、苫小牧港に向かった。すでにフェリーのチケットも入手しているので後はフェリーに乗るだけだ。最後にお世話になった部屋に礼をして智美と生まれなかった子の遺骨を抱えアパートを出た。少し早く着いたので、コーヒーでも飲もうかと待合室に入ると、なんと酒場で話した老人がすでに待合室に来ていたのである。左手にはワンカップの日本酒を持ち、空いている右手を左右に振って裕一に合図を送ってきた。思わず我を忘れて小走りに駆け寄り声をかけた。
「お爺さん、一体どうしたんですか。いやー、びっくりしたなぁ。どうしてここに」
「どうしてって、お前がフェリーで帰るって言ってたから、見送りに来てやったんだよ。まぁ、俺はいつでも暇だからよう。どうせ誰にもフェリーで帰ることを教えてないんだろう」
「ええ、知り合いには教えなかったんですよ。なんだか辛くなりそうなので」
「だろう。だから赤の他人で名前も知らない俺が代表して見送ってやることにしたんだよ。辛いこともこれからの時間が解決してくれるさ。フーテンの俺だって今は幸せだぜ。過去は散々だっけど今では婆さんの店に入りびたれるようになったしな。お前も振り出しに戻って精一杯生きてみろよ。まぁ、俺が言っても説得力はないか。こんな棺桶に片足突っ込んだおいぼれだし、人生の落伍者だからなぁ」
「いや、そんなことないです。だいぶ元気もらいました。お爺さんみたいにならないように頑張ります」
「この野郎、言いやがるなぁ。もう大丈夫そうだな。ハハハ。何年か経って元気に仕事して懐かしくなったら、また婆さんの店に顔を出しな。俺も生きている間は通ってるさ。もっともそんなに残りの時間があるわけじゃないから、できるだけ早く来いよ」
「はい。其の時にはまたお話を聞かせてください」
「馬鹿野郎、そんときは兄さんが話をする番だよ。過ぎ去ったことを面白おかしくな。そしてその次に俺の話だ。なぁ」
「はい。そうですね」
裕一は、お爺さんが見送りに来てくれたことが、本当に嬉しかった。これが本当のサプライズだなとも思ったりした。少し話をしていたら、しばらくして乗船案内の放送が流れ、裕一はちょっと名残惜しそうにフェリーに乗り込みデッキに顔を出した。他の乗客もたくさんいて別れの挨拶をしていた。何人かの人が紙テープを投げて別れを惜しんでいる。隣にいた人は、裕一の方を向いて余った紙テープを差しだしてくれた。
「よかったら使ってください。あの人、お父様なんでしよう。岸から見送っていらっしゃるあの方。あんなに懸命に手を振って。これを投げてあげればきっと喜ばれますよ」
「ああ、これはどうも、ご親切にありがとうございます。では遠慮なく使わせてもらいます」
つづく
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