デイブレイカー1話 創作大賞2024漫画原作部門
あらすじ
冒険者ギルド「デイブレイカー」の仲間たちは最難関クエストに向かい……全員、行方不明になった。五年たった今でも、誰一人戻ってこない。一人残されたナビは「ギルドは私が守るんだ」と頑張っている。そんな時、ギルドは人数不足のため解散命令を受けてしまう。存続させるための条件は、仲間を三人集まること。しかし、ギルドを潰したい勢力の妨害により、仲間集めは困難を極めた。さらには資金難に、厄介なクエスト、競合ギルドとの抗争……果たしてナビは、ギルドを守ることができるのか。そして、さらにギルドを成長させることができるのか。これは没落ギルドの看板娘が、最強ギルドのマスターになるまでの物語。
一話
「私も行く!」
そう言い縋った時のギルドマスターの言葉は、今も大切に覚えている。
「ばっか。ナビが来たら誰がギルドを守るんだよ。可愛い看板娘が待っててくれるから、俺たちは自由に動けるんだ。まあ今回はちょっとばかり時間がかかるかもしれないが、心配すんな」
ギルドマスターにくしゃっと撫でられた感覚は今も頭に残っていて。
ほかのメンバーの後ろ姿だって、ぜったい、忘れたくない。
彼らはギルドの前で振り返って、ナビに笑いかけた。
「だって、俺たち【暁光の守人(デイブレイカー)】は最強のギルドだからな。絶対帰ってくる。ギルドは任せたぞ」
「うん……! ギルドは私が守るね。美味しいご飯作って待ってるから!」
「そりゃ楽しみだ」
あれから五年の月日が経った。
ギルドには、まだ誰も帰ってこない。
「ポーション二十本、納品に来ました」
「あいよ。お嬢ちゃん、いつもありがとうね」
「いえ、こちらこそいつもご依頼いただいて……。それと、もう十五歳です。お嬢ちゃんはちょっと……」
「ははは、それはすまない。あたしの中じゃ、いつまでも小さい記憶のままでね」
薬師ギルドのおばあちゃんが、優しく口元を綻ばせる。
老婆はナビが差し出した木箱に入れた瓶の数を数えて検品していく。
薬草から抽出したエキスで作った魔法薬だ。魔法で増幅された薬効が、即座に傷を癒す。その代わり、大きく体力を消耗してしまうのだが、冒険者には必須のアイテムだ。
老婆は適当に一本選んで、蓋を開ける。一滴だけ手の甲に垂らすと、そのまま口に運んだ。高級なワインにするように舌の上で転がして、味を確かめる。
熟練の薬師である彼女なら、一滴舐めるだけで品質まで見抜けるという。
ポーションの製作者であるナビはやや緊張した面持ちで、老婆の言葉を待つ。
「うん、いいポーションだ」
「ありがとうございます……」
ほっと胸を撫で下ろす。
そんなナビを見て、老婆は目を細めた。
「うちでも、こんな高品質のポーションを作れる子は少ないよ。ナビちゃんなら即戦力だし、いつでも薬師ギルドに来ていいんだからね。しつこいかもしれないけれど……」
「いえ、そう言っていただけて嬉しいです」
ポーションの作成は、薬師ギルドから冒険者ギルドに出された依頼だ。
手数料を引かれてしまうから、直接販売するよりも利益は少ない。
にもかかわらず、ナビはわざわざ冒険者として依頼を受けている。
「でも……みんなが帰ってくるまで、私がギルドを守る約束なので」
「……もう五年だろう?」
「まだ五年です」
そう言って、ナビはにっこりと笑う。
最難関といわれる、SS級クエスト。
少数精鋭でありながら四大ギルドに数えられていたデイブレイカーは、非戦闘員のナビを除く九人全員でそのクエストに挑んだ。
その結果は……公式には、期限切れで失敗。
メンバーの生死は不明で、五年経った今でも誰一人見つかっていない。
「そうかい」
老婆は切なげに呟いた。
この人はとある薬師ギルドのマスターで、一人になってしまったナビを気に掛けてくれる。こうして仕事もくれるし、ここまで生きて来られたのは彼女のおかげだ。
ポーションの作り方も教えてくれた。
だから恩に報いたい気持ちはある。
でも、二つのギルドに所属することはできない。
その条件がある以上、ナビの心は変わらなかった。
「なら、いいさ。はいこれ、受領書だよ」
「ありがとうございます! 今後ともご贔屓に」
老婆からクエストの達成を証明する受領書を貰う。
お礼を言って、薬師ギルドを去った。
石張りの道を歩いて、冒険者協会の支部に向かう。
近づくにつれて、冒険者の姿がちらほらと見える。
みんな、ギルドの仲間と一緒にいるのか和気あいあいと楽しそうだ。
それを見て、少し寂しくなる。
「大丈夫。私はちゃんとやれてる」
マスターや仲間たちは、絶対に帰ってくる。そう約束したし、みんなとても強いから心配はいらない。
なら自分は、それまでギルドを守り続けるだけだ。
当時十歳のナビは、主にギルドの裏方を担当していた。
といっても、今思えば大して役に立っていなかったように思うけれど。
それから五年。もっと活躍できるように頑張った。
魔物や魔法の知識をつけ、ポーションや魔道具の作り方を身につけた。
戦うのは苦手だけど、クエストだって一人でいくつも達成した。
きっと、マスターたちが戻ってきたら褒めてくれるだろう。
「ギルドは私が守るんだ」
古いけれど温かみのあるギルドの建物も。
交易都市とも呼ばれるこの街も。
もちろん、仲間たちも。
みんな大好きだから、挫けるわけにはいかない。
ナビは五年間、一人で頑張ってきた。
冒険者協会に来るのも、もう慣れたものだ。
「クエスト終わりました。お願いします」
協会支部は大勢の冒険者でごった返していた。
受付に行き、老婆から受け取った受領書と冒険者証を渡す。
ギルドとは、冒険者が寄り集まって作る組織だ。仕事内容は多岐に渡り、何でも屋のような存在だ。
そして、ギルドを取りまとめクエストを斡旋するのが、この冒険者協会である。
「デイブレイカーのナビ様ですね」
受付の女性がにこやかに応対してくれる。
すぐにクエストの達成が認められ、報酬が支払われた。
「ありがとうございます……!」
袋に入った硬貨を受け取り、支部を去ろうとする。
いつもなら、ここで終わるはずだった。
慌てたように裏から出てきた職員の男性が、受付嬢になにやら耳打ちをした。
こくりと頷いた彼女は、真剣な顔でナビに告げる。
「お待ちください。……支部長がお呼びです」
「えっ?」
「どうぞこちらへ」
有無を言わさぬ様子の職員に、ナビは連行された。
まるで罪人のように。
「ようやく来たか。この俺を待たせやがって」
執務室に案内されたナビを待ち受けていたのは、支部長ピーター。
その後ろには、一人の女性が控えていた。ナビの記憶が正しければ、副支部長だ。
支部長ピーターはでっぷりと太った初老の男性だ。
深々と椅子にもたれ、頬杖を付いている。
彼は役職名が示す通り、この支部のトップである。
三国の国境に隣接するこの交易都市は、人も金もよく巡る。冒険者の仕事も多いため、ギルドの拠点として適した街だ。
その支部長ともなれば、国境を跨いで展開される冒険者協会の中でもかなり上の地位と言える。
最も、人格が伴っているかは別問題だが。
「くくく、ようやく貴様らを潰せると思うと待ち時間も悪くなかったがな!」
「あの……えと、お呼びいただきありがとうございます?」
愉快そうに口元を歪めるピーターに、恐る恐る尋ねる。
ナビは支部長ピーターが得意ではない。いや、はっきり言って苦手だ。
色々と嫌がらせを受けていると、マスターが愚痴っていたのを聞いたことがある。
デイブレイカーを目の敵にしているらしい。
ナビも何度か会ったことがあって、この高圧的な態度には苦手意識を持っていた。
「ふん、馬鹿なあいつらと違って、お前は立場を弁えているようだな」
「なっ……」
「四大ギルドなどと言われ調子に乗りやがって。……だが、それも今日で終わりだ」
あからさまに侮蔑の視線を向けるピーターは、一枚の用紙を取り出してテーブルに叩きつけた。
ギルドの仲間のことを馬鹿呼ばわりされて、怒りが込み上げる。
たしかに、よく暴れすぎて方々から怒られてたけど……少なくとも、ピーターのように人を見下したりしない。
なにか言い返そうと開きかけた口は、続いたピーターの言葉に、すぐに閉じることになった。
「デイブレイカーに対して、正式に解散命令を下す」
「解散命令!?」
「これでお前らは終わりだ!! いや、とっくに死にかけだがな! くくく、俺の手で引導を渡せると思うと気持ちがいい」
正式な解散命令……。
多くの冒険者は、ギルドという組織を作って活動する。デイブレイカーもその一つで、仲間と協力して依頼をこなしていた。
ギルドは冒険者協会によって認可、管理される。
多くの特権が与えられる代わりに、協会の示すいくつもの条件を満たさないといけない。
そして、ギルドとして相応しくないと判断されれば……解散命令が下されることもある。極端な例だと、組織的な犯罪に手を染めたりだとか。
「ま、待ってください。依頼件数も金額も、規定以上にこなしています」
条件の一つに、依頼を一定以上達成しなければならない、というものがある。
ギルドが有名無実化するのを防ぐためだ。ナビがポーション作成などの依頼を協会を通じて受けていたのはこのため。
「はっ。ギリギリだけどな。だが、理由はそれじゃない。もう一つの規定を忘れたのか?」
「もう一つ……?」
「ギルドの最低人数だよ! お前一人しかいないだろうが」
最低四人。ギルドの設立時に必要な人数であり、四人以上の人数を常に維持しないといけないことになっている。
「一人じゃありません! 私含めて十人います」
「死者だろ?」
「違います……! マスターたちは死んでなんか……いえ」
感情的に言葉を返して、はっとする。
ナビの願望なんて、協会には関係ない。あくまで規定の話をしているのだ。
奥歯を噛んで冷静になる。
はあっと一息吐いてから、改めて口を開く。
「遺体が発見されていない場合の死亡判定は、ランクごとに期限が決まっていたはずです。S級冒険者なら、行方不明になってから十年……。うちには五人S級がいますから、事由としては不適格です」
全員生きている。ナビはそう確信しているが、冒険者協会には関係ない。
理由はどうあれ、行方不明になって一定期間が過ぎると死亡者として扱われ、名簿から抹消される。
ランクが高いほど、死亡率の低さや長期依頼の多さなどから期限が長く設定されているのだ。
「発見されていない場合はな」
「まさか……」
「まあ、あいにく遺体は見つかっていないが……冒険者タグが発見された。ギルドマスター、【炎人】ジャンゴ。その他八人全員のな!」
そう高らかに言い放って、ピーターがなにかを放り投げた。
からから軽い金属音を立てて落ちたそれらを、慌てて拾い上げる。
冒険者タグ……様々な情報が魔力で記録された金属の板だ。冒険者としての身分を示すものでもある。
マスターのジャンゴは、失くさないようにいつも首から下げていて……。
「うそ……」
タグに刻まれた名前を見て、ナビは小さく声を漏らして、へたり込んだ。
みんな、みんな、慣れ親しんだ仲間たちの名前だ。
「くくく、冒険者タグは死亡確認に使われることは知ってるよな? これで、ギルドの要件を満たさなくなった! これでお前らは終わりだ!」
魔物との戦いで、遺体が残らないことは珍しくない。
そのため、冒険者タグだけでも死亡として扱うことになっている。
もちろん、タグだけ落としたという可能性もあるから確定ではない。
でも、可能性としては……。
「もう反論もできないか? くくく、もっと早く潰してもよかったが、正規の手続きを踏んだほうが間違いないからな! ああ、ちなみに偽装なんかじゃない。何十人も使って探させた甲斐があったよ」
ピーターは愉快そうに高笑いする。
あるかもわからないタグを探すためだけに、何十人も動員したという。
そんなに潰したかったのだろうか。
「さあ、今すぐこの街から消えろ」
「お待ちください」
口を挟んだのは、秘書のように控えていた副支部長のレベッカ。
若い女性で、凛とした雰囲気を纏っている。
「規定では、有責の場合を除き、解散命令からひと月の猶予が与えられます。それまでに規定を満たせば、解散命令は無効となります」
「おい、レベッカ……。余計なことを」
「正規の手続きを踏むのでしょう?」
彼女は無表情のまま、ナビに視線を向ける。
「一か月の間にギルドメンバーを三人集めなさい。そうすれば、解散事由はなくなります。ただし、一時的な加入ではなく正式なメンバーに限ります」
一か月で三人。
まったく無謀な数字ではない。いや、むしろ簡単とさえ思えた。
今までも、マスターがいない中メンバーを増やすのもどうか思い断っていたが、加入希望者は何人もいたのだ。
三人くらいならすぐ集まるだろう。
「わかりました」
みんなは絶対に帰ってくる。ならば、それまでギルドを存続させるのが、自分の役目だ。
深く頷いて、決意する。
「ギルドは私が守ります。……失礼します」
頭を下げて、退室する。
「くくく、俺の街で三人も集められると思うなよ……!」
ピーターのそんな声を聞きながら。
2話
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