大犬空港物語(26)「オーストラリアにて」
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俺の名前は、大谷浩平。
オーストラリアでは、カルチャーショックの連続だった。
見るものすべてが未来を感じさせた。
世界がどれほどデジタル化されているか。
日本が、いや俺自身が、どれだけ遅れているか。切ないほど思い知った。
けれど、それ以上に、この旅で俺は、娘の頼もしさを知った。
空港での手続きも、配車アプリの操作も、宿泊場所の手配も、娘はスマホひとつで迷いなく、サクサクと進めていく。彼女の選ぶサービスはすべて完璧に快適で、そして驚くほど格安だった。
留学して1年余り。現地の人に話しかけるそのまぶしいほどの横顔を、妻と俺は少し離れたところから眺めていた。
オーストラリアに来たばかりの頃は、どこにも行けずに引きこもっていると言っていた。日本でバイトして貯めたお金がどんどん減っていく、と、電話の向こうで震えていた小さな声。英語もぜんぜん通じないと、言ってなかったか。
いつのまに、こんなに大きくなったんだろう。
大学の学食では、ほぼ完全に無人化が進んでいた。
テーブルに座り、スマホで注文すると、支払いまで一瞬で終わる。
配膳ロボットが料理を運び、
食べ終えた食器は、自分で返却口へ持っていく。
あれっ。
よくわからないまま、最初にチップも払ってしまったけど。
俺は……誰にチップを払ったんだろう。
「チップ、ゼロでよかったんだよ」娘が笑う。
世界は、思っていたよりずっと先を走っていて、娘は、もうそこに足を踏み入れていた。
ふと、日本にいる社員たちの顔が浮かんだ。
ここで知ったことを、大犬空港のみんなに、早く伝えたい。
日本で、いや――大犬空港のある、あの地域で、デジタル化を進めたい。
まだなにもない、まっさらなデジタル空白地帯を、
俺の手で、理想郷に変えたい。オーストラリアみたいに。
二週間ぶりに大犬空港へ戻った俺は、
走り出したい気持ちをこらえながら、事務所のドアを開けた。
みんな、聞いてくれ。
オーストラリアはね――
「おかえりなさい。おはようございます」
みんな、いつもどおりに挨拶してくれる。
あたたかい。
やはり、ここがホームだ。
……ただし。
竹野内さんだけは、違った。
あれ?
なんか……怒ってる?
※この物語はフィクションです。
大犬(おおいぬ)空港は架空の空港ですが、東北の小さな空港をヒントにしています。そして私の“本業”は、そのモデルとなっている空港のファンクラブ会員を増やすこと。この小説を通して、少しでもこの地域や空港に親しみを感じていただけたら、うれしいです。
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