大犬空港物語(28)「もふもふ、もののふ、もののもふ」
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「そんな……」
あとの言葉は続かなかった。
胸の中で渦巻く言葉が、
のどの奥で積み重なり、うまく声にならない。
「俺が悪かった。大事な時期に、2週間も留守にしてしまって。
任命式に向けてなにをしなくてはいけないか、リストアップしてくれませんか。」
竹野内さんは一瞬、なにか言いかけて、言葉を選び、
それから少し言いにくそうに、答えた。
「やっぱりLINE、見てない…です…よね…」
「えっLINE?・・・って、なんだっけ?(*´∀`*)」
「秋田犬大好きCAさんと、大谷取締役と、私の
3人でグループLINEを作りましたよね?」
まったく記憶にない。
「そうだっけ?(*´∀`*)」
スマホを見る。
LINEアプリを開く。
トークが315件、未読になっていた。
思いだした。
任命式の打合せ用に、LINEグループを作った日のことを。
空港のレストランでランチしながら、3人で話した。
「グループ名を決めなくっちゃな」と俺が言って、
「『もふのふ』というのはどうですか?」と竹野内さんが言った。
CAは
「いいですね!『もふのふ』!」と言った。
「意味がわからないよ」
「秋田犬の『もふもふ』と、武士の『もののふ』をかけて、
『もふのふ』です。かわいいけど、強い、戦うチームってイメージです。」
「いいですね!『もふのふ』!」
「『もふのふ』『もふのふ』
・・・だめだ!言いにくい!とくに『ふ』がダメだ!
(心の声)『えふえふ』より言いにくいじゃないか。
「どうして『ふ』がダメなんですか?」とCA。
「どうしてもだ!」と俺。
(心の声)『ふ』って言うとき馬っぽい顔になるからだよ!
「では『もののもふ』はどうですか?」と再び竹野内さんが言うと、
CAはさっきと全く同じトーンで
「いいですね!『もののもふ』!」と答える。
「『もののっ、もののものも』なんだって!?
言いにくい!だめだ!なにしろ、おぼえられない!
それに、『ふ』も消えてないじゃないか!」
LINEグループの名前はけっきょく、
「空港ビル⇔CAの名前」という
なにも考えていないような名前になった。
それから、そのLINEグループでは、
CAと竹野内さんが
チラシデザインや、来場者プレゼントについて
アイディアを出し合っていった。
俺は途中から、2人の話についていけなくなった。
楽しそうだから、
2人で自由にやってくれたらいいと思った。
いや、正直に言うと、居心地が悪かった。
通知をオフにした。
「俺がいないほうが話しやすいだろうと思ったんだよ。ごめん」
屋外ステージイベント準備チェックリスト
というPDFファイルが、2週間前にグループLINEで共有されていた。
俺がオーストラリアに出発したころだ。
ステージ関連
☐ ステージの設営(サイズ・高さ・素材確認)
☐ 屋根・テントの有無(雨天対策)
☐ 背面・側面の装飾・幕類
☐ 段差・手すり・転落防止対策
音響・照明
☐ スピーカー・マイク・ミキサーなどの手配
☐ 照明機材の設置(夜間開催の場合)
☐ 電源確保・配線の安全対策
☐ リハーサル実施(音出し含む)
出演者・演者対応
☐ 控室・待機場所の準備(テントやパーテーション)
☐ 出演順のスケジュール管理
☐ 給水・休憩スペース
☐ 演者搬入出の動線確保
観客対応
☐ 観覧席・立ち見スペースの設定
☐ 入退場の導線・案内表示
☐ 日よけ・雨よけ対策(テント、パラソルなど)
☐ 緊急避難経路・誘導体制の整備
安全対策
☐ 救護所・救急対応の準備
☐ 警備員の配置
☐ 熱中症・雨天・強風への対策
☐ 保険加入の確認
許認可・近隣対策
☐ 会場使用許可・道路使用許可などの取得
☐ 音量・騒音に関する配慮(近隣住民への事前周知)
☐ 消防署・警察署など関係機関との連携
その他備品・物資
☐ 看板・案内表示物
☐ 机・椅子・コードリール・ごみ箱
☐ トイレ・仮設トイレの設置確認
☐ 雨具(ブルーシート・ポンチョなど)
俺は既読さえ、つけていなかった。
CAの返事は、「いいですね!」だけ。
これでは、なにも進められないよな。
ごめん。
俺がもっと、ちゃんと向き合わなくてはいけなかった。
「竹野内さん、このリスト、よくできていますね。」
俺はスマホ画面でPDFをスクロールしながら、
ねぎらいの言葉をかけた。
「大変だったでしょう、ここまでまとめるのは。
時間もかかったでしょう、ね?」
「あ、ChatGPTにやらせましたので。
5秒で作ったやつです、それ。」
竹野内さんの声は、
もう悲しんでもいないし、怒ってもいなかった。
「えーっ、これAIなの?」
俺は、なんだか体から力が抜けてしまって、イスからずり落ちた。
「はい、ChatGPTに作らせましたので・・・」
竹野内さんが言い直した。
「いらないものも入っていますよね、リストの中に。
必要なことだけに絞る必要がありますね。」
俺は再びイスに座り直し、顔を上げて言った。
「進めましょう。」
「はい。」
声に張りが戻っていた。
「よろしくお願いします。」
あきたいぬ空港長任命式まで、あと2週間——。
※この物語はフィクションです。
大犬(おおいぬ)空港は架空の空港です。東北の小さな空港をヒントにしていますが、登場人物は、その言動や心情を含め、すべてフィクションです。
この物語の著者の“本業”は、そのモデルとなっている空港のファンクラブ会員を増やすこと。この小説を通して、少しでもこの地域や空港に親しみを感じていただけたら、うれしいです。
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