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大犬空港物語(25)「出発前夜」

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俺の名前は、大谷浩平。

海外旅行への出発を明日に控え、表参道のヘアサロンに来ている。

「今日も、黒く染めます?」

「いや、今回は海外旅行だから、明るいほうがいいな。」

スタイリストは、海外旅行と聞いても顔色ひとつ変えずに
「いいですね」と軽く微笑みながら、それ以上は聞いてこなかった。
さすがだな。慣れている。

「留学している娘のところにね」
「オーストラリアなんだけどね」

聞かれてもいないのに、どんどんしゃべってしまう俺。
自分で突っ込みながらも、話す口が止まらない。

だって、だって――
すっごくドキドキしているんだもの。

大きな声では言えないが、
他社便を予約しちゃったんだもの!!
会社には内緒だけどね。

壁際のガラス棚に置かれた俺のスマホが、小さく震え、画面が光った。

「あ、確認します?」
スタイリストが、何気ない仕草で手渡してくれる。

大犬空港から、電子決裁の承認依頼が届いていた。

俺は稟議の内容を確認し、
心の中で「よし」とうなずいて「承認」をタップした。

今年度から、わが社は紙の決裁をやめ、電子決裁に切り替えた。
スマホひとつあれば、会社を離れていても承認ができる。

オーストラリアに行くため、2週間の休暇を取っても、
業務が滞ることはないはずだ。

紙、紙、紙だった事務所を、
ほんの少しだけ、電子の色に塗り替えた。
その喜びが、浮き立つような幸福感をもたらしていた。
休暇中に仕事が割り込むことさえ、誇らしく思えた。

まあ、実際のところ俺はなにもしていないんだけどね。
ただ「好きなようにやって」って言ってただけなんだけどね。

「こんな感じでどうですか?ワックスつけます?」
スタイリストの声に引き戻されて顔を上げる。

鏡に映った俺は、
自分史上いちばん、すっごい茶髪で、
だいぶチャラかった。

※この物語はフィクションです。
大犬(おおいぬ)空港は架空の空港ですが、東北の小さな空港をヒントにしています。そして私の“本業”は、そのモデルとなっている空港のファンクラブ会員を増やすこと。この小説を通して、少しでもこの地域や空港に親しみを感じていただけたら、うれしいです。

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