ひと夏のきみ(第6話)
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翌日、日曜日の朝。今日は、スマホにセットした六時半のアラームで目が覚めた。昨晩、詩織さんから無事にノートパソコンを借りた僕は、日付が変わる頃まで作業をしていた。
朝食を食べて準備をして、昨日より三十分ほど早く店へ出る。ちょうど、岩渕さんがとうもろこしを運び終えて、畑に戻ろうとしているところだった。
「今日も頑張ってな。よろしく」
岩渕さんは僕にそう言って、軽トラで走り去っていった。少しして、詩織さんとパートの山内さんも合流して、お店の準備を始める。
「吉田さん、今日もよろしくお願いしますね。パソコン、役に立った?」
「はい、貸してくれてありがとうございました。今日、お店の間もこのパソコン使わせてもらっていいですか?」
「それは、もちろん大丈夫だけど。ネットとか繋がらないけどいいの?」
「はい、このままで大丈夫です」
そう言って、発送の対応をするテーブルに、パソコンをセットする。
八時になり、昨日と同じようにとうもろこしを求めてお客さんの車が来始めた。今日も混みそうだ。
最初は、昨日と同じように詩織さんと山内さんでお客さんの対応をしていた。三組ほど対応を終えたところで、年配の女性のお客さんがやって来た。
「発送をお願いできますか。二件送りたいんですけど」
その言葉を聞いて、詩織さんが僕の方に視線をよこした。僕は小さくうなずいて、そのお客さんに声をかける。
「こちらのテーブルへどうぞ」
発送伝票を渡して、一枚ずつ記入してもらう。一枚記入が終わった時点で伝票を受け取り、とうもろこしの本数を確認してから、二枚目の伝票をお客さんに渡した。
その間に、パソコンを起動して、表計算のソフトを立ち上げる。書いてもらった送り先の住所と、とうもろこしの本数を入力する。すると自動的に、箱代も合わせた支払いの合計金額が表示された。
―よし、大丈夫そうだ。ちゃんと動いている。
昨日、詩織さんにパソコンを借りた僕は、寝るまでずっと、この自動計算のシートを作成していた。
昨日一日の店番を通して、電卓と紙とペンだけでその場で正確に計算するのは、難しそうだと分かった。慣れてくればできるようになるかもしれないが、昨日の今日で状況が変わるとは思えなかった。
そこで、パソコンを使うことを思いついた。とうもろこしも送料も箱も金額は決まっているのだから、その数値を最初からパソコンの表計算シートに入れておく。記入してもらった発送伝票を見て、とうもろこしの本数と宛先の都道府県だけ選択して自動で計算できるようにしておけば、すぐに金額が出せる。
表計算のソフト自体は、大学でよく使っていたので使い方には慣れていた。たまに、木村教授から研究の手伝いという名目で対応していたのだ。選択式のアンケートの結果データと、仕分けの条件を渡されて、「吉田くんはこういうの得意そうですから、ぜひお願いします」とまとめを頼まれることが度々あった。
そんな無茶な、と思いながらも、教授の笑顔でそう言われると何とかしなければという気持ちが湧いてきて、結果的に表計算ソフトの使い方はかなり習得していた。
詩織さんのパソコンにも同じ表計算ソフトが入っていたので、幸い準備にはそれほど苦労はしなかった。スマホでやり方を調べながら試行錯誤し、「とうもろこし発送金額自動計算ツール」を昨夜のうちに完成させた。
何度もテストをしていたので動くとは思っていたけれど、今日実際にツールを使うまでは不安もあった。けれど、さっき受け取った伝票の内容を打ち込んで結果を見てみると、正常に動作しているようだ。
余裕があったので念のため電卓で再計算をしても、結果は一致している。そのまま二枚目の伝票の分も入力し、すぐに二件分の合計金額を伝えることができた。会計を終えると、お客さんは「毎年ここからきみを送るんですよ。どうもありがとう」と笑顔で帰っていった。
どうやら、このツールは問題なく使えそうだ。最初は心配そうに僕の方を伺っていた詩織さんたちも、次第にお客さんの数が増え始めて、対応に追われていった。
発送のお客さんも次々とやって来て、僕の方も忙しくなる。それでも、伝票を受け取って本数と発送先を確認すれば、あとはシートに入力するだけで金額が表示されるので、昨日とはスピードも正確さも段違いだった。毎回計算して、手書きでメモを残す必要もなくなったので、負担がかなり減って気持ちも楽になった。
お客さんの数は昨日よりも多かったくらいだけど、ツールのおかげでお客さんを待たせることなく案内することができた。夢中で対応していると、女将さんが昼食の焼きそばを持ってきてくれて、気づけば昼過ぎになっていたことを知る。
お客さんが来ないタイミングを見計らって焼きそばをすすっていると、後ろから肩を叩かれた。
「ねえ!さっき計算してたやつ見せてよ!」
振り返ると、詩織さんが目を輝かせてすぐ後ろにいた。
「昨日の夜だけで、これ作ったの?発送、すごく早くなったね!私にも使い方教えてよ」
詩織さんは興味津々といった感じで、自動計算ツールの表示された画面を見つめる。僕は、ツールの内部でどういう処理をしているのか、かいつまんで説明した。
「そんなに難しいことはしていないですよ。こっちのシートに数字が入力してあるので、もしとうもろこしとか送料の値段が変わっても、ここだけ変えれば対応できます」
「へえ、すごいね。パソコン得意なんだ。私も大学で使うけど、こういう自動計算とかやったことないな」
詩織さんはそう言いながら、何度かツールを自分で操作した。入力する数字を変える度に、合計金額の結果が瞬時に入れ替わっていく。
「これ、すごくいいね!これくらいなら私でも使えそうだし、パートの人たちでもパソコン触れる人がいるから、きっと役に立つよ。これ、吉田くんが帰ってからも、このままここで使ってもいい?」
「それはもちろん大丈夫です。そうしてくれたらと思って、簡単な説明書きもつけています」
「やった!ありがとう」
詩織さんが嬉しそうにお礼を言って、元の場所に戻っていく。
その後、午後もお客さんの波は途切れず、発送の人もどんどんやって来た。昨日の夜まで起きていたので少し疲れを感じたけれど、ツールのおかげで計算間違いなどはしないで済んだ。午後三時過ぎ、無事に店じまいをすることになった。
店の片づけを終えたところで、パートの山内さんにも声をかけられる。
「あんた、今日は頑張ってたね!夏が終わるまで、ここで働いていきなさい!」
そう言って、ワハハと笑っていた。昨日とはえらい違いだ。何だか面白くなって、僕もつられて笑ってしまう。
今日は気持ちよく温泉に入れそうだと思いながら、僕は旅館へ戻った。
(第6話終わり)
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