映画シナリオ「真下に落ちる流れ星」(3/3終)
(2/3からのつづきです。
彼女は転校してしまう。彼女の誕生日の夜、牢獄の実家から連れ出して、一緒にしぶんぎ座流星群を見に行こう! 聡、一世一代の勝負の夜。)
〇深夜、凪のアパート前
着ぶくれした凪がこっそり出てくる。
自転車に機材積んだ聡。
聡、紙切れのメモを見せる。
メモ 『しずかに』
凪 「(うなづく)」
聡、メモを裏返す。
メモ 『誕生日おめでとう』
凪 「(うなづく)」
音を立てないように、二人はそれぞれ
自転車で走り出す。
〇郊外の道、深夜、雨
雨合羽で自転車を漕ぐ二人。
雨風がきつくなってきた。
凪 「このあと晴れるの? 本当に?」
聡 「気象庁なめんなよ! 雨雲レーダー
の正確さは俺の計算よりスゲエんだよ!」
だが道のギャップに乗り上げ、聡は自
転車ごとひっくり返る。
× × ×
聡 「ああ、なんだよ! モーターもカメ
ラも立ち上がんないのかよ! おまけにこ
いつ(自転車)まで!」
凪 「……森まで、まだあるよね」
聡 「……写真は諦める。肉眼で見て、心
に焼き付けよう。それでいい? 誕生日プ
レゼント」
凪 「外に出してくれた。それだけで、わ
くわくしてる」
聡 「貸して」
凪の自転車の籠に機材を入れる。
聡 「後ろ乗って。死ぬ気で漕ぐ」
二人乗りで森へ。
〇深夜、森の中
凪 「……晴れてきた。マジすごい気象庁」
聡 「今夜は新月だし、余計な光がなくて
最高の環境だぜ」
凪、ビニールシートを広げて座る。
二人分にはやや狭いが、凪は半分空け
て手招きをする。
聡、ドキドキしながら座る。
流星群はすでに始まっている。
ポットに入れたコーヒーを、二人で分
ける。
聡 「あの辺が放射点のはず」
凪 「なにそれ」
聡 「この方向に地球がまっすぐ向かって
るわけ。だからここから放射状に流星が飛
ぶように見える。俺たちが雲の中に突っ込
んでいくイメージ」
凪 「地球が突っ込んでいくから流れ星が
落ちるって、考えたこともなかった」
流星群たち。
凪 「私のことを誰も知らない星に行って、
そこで結婚したい。それか、私の嫌な所も
悪い所も全部知ってる人」
聡 「……」
凪 「私このままちゃんと結婚とかできな
いと思う」
聡 「下原なら大丈夫だよ。いい彼氏見つ
かるよ。でも30になっても一人だったら、
俺が貰ってやる」
凪は答えない。
その時、真下に流れ星が落ちた。
聡 「えっ! あ! 見た? 今の! 真
下に落ちた! この360度の中の0度!
スーパーレア! 運命じゃん! この日
俺たちがこれを見るのは、運命だったんじ
ゃん!」
凪 「……」
聡 「……(突如、緊張する)」
凪 「?」
聡 「あの、……俺、君が好きだ」
凪 「?」
聡 「ずっと好きだった。ギリギリになる
まで言えなかった。でも言う」
凪 「……(急に冷たい目に)」
聡 「?」
凪 「同じなの?」
聡 「?」
凪 「高野も、他の男の人と同じなの?」
〇(現在に戻って)国際宇宙ステーション内
スティーブ「……で、何て答えたんだ?」
聡(30)「何も答えられなかった。俺は野
々宮みたいな陽キャでもイケてる軍団でも
ないし、『君に性欲を感じている』と思わ
れてると思ったら、ぞっとして、何も言え
なかったんだ……あそこで、」
〇(前のシーンの続き、妄想)
凪 「高野も、他の男の人と同じなの?」
聡 「違うよ。俺は君の心を愛しているん
だ」
凪 「え?」
聡 「『こことは違うもうひとつの世界があ
る』って、君も僕も信じてる。君は本の世
界。僕は星の世界。そこが二人の共通点だ」
〇(元に戻って)国際宇宙ステーション内
聡 「なあんて言えば、また違う世界線に
いたよなあ。……中坊でそんなこと言うの
無理だよな」
スティーブ「(ため息)その話は、それで終
わりか?」
聡 「もうちょっとだけ、続きがあってさ」
〇(再び十五年前)駅のホーム
凪と母。
見送るのは、野々宮、祥子と鷺宮、谷。
そして天文部の沢山の男子たち。
凪 「……じゃ、時間なんで」
谷 「……(聡が来ないので、イライラし
ている)」
〇聡の部屋
机に突っ伏して寝ていた聡、飛び起き
る。
ノートにものすごい計算の跡。その鉛
筆の黒が顔についている。
聡 「やっべ!」
横断幕がある。空白の部分に慌ててマ
ジックで書き足す。「2036」の文字。
〇駅のホーム
発車ベル。
凪、乗り込んで、遠くを見る。
みんな、手を振る。
谷 「遠藤のアクション女優動画作ってた
の、高野だから」
凪 「……じゃないかと思ってた」
扉、閉まる。動き出す電車。
〇海沿いの線路
聡、自転車を必死で漕ぐ。
かごに横断幕を積んだまま。
電車が走ってくる。
〇電車の中
凪、走っている聡に気づく。
〇海沿いの線路
聡 「凪! 凪! 凪!」
自転車ごと、海に転落。
横断幕が海に広がる。
横断幕『次のしぶんぎ座流星群の当たり年は、
2036年』
海の中から顔を出す聡。
聡 「凪! 凪! 凪!」
〇(現在に戻って)宇宙ステーション内
窓の外の流星群。
聡 「それが今年、そして今夜零時が、彼
女の30の誕生日。だから俺はプロポーズ
するんだ。東の空に、真下に落ちる流れ星
で」
スティーブ「彼女が見てるとも分らないの
に?」
聡 「……ああ」
スティーブ「(こりゃ駄目だと思う)」
と、振動。警報。
電気が暗くなり、アラートランプがつ
く。
聡 「何だ?」
ハンス(35)が呼びにくる。
ハンス「スペースデブリが衝突! レベッカ
の回避計画が甘かった! 七番パネルにヒ
ット、外へ出て、直接修理しないと!」
スティーブ「予備電源は?」
ハンス「三時間は持つ」
聡 「……俺が行くよ」
スティーブ「サトシ」
聡 「スティーブもハンスも、まだ実験の
途中だろ。リザーバーでミッションに参加
してる俺が余ってる。こういう時の為のリ
ザーバーだろ」
スティーブ「……」
〇ステーションの外、宇宙空間
宇宙服で船外に出る聡。
スイッチを入れると電磁石がオンにな
り、外壁に吸い付き、それで伝ってゆ
く。
ひたすらガチャガチャとゆっくり進む。
地球は半分が夜。
しぶんぎ座流星群が、天空から降り注
いでいる。
聡 「見ろよスティーブ! 俺の計算は間
違ってなかったろ。今頃日本では、天文部
の中学生が天体観測しながら告白とかして
るぜ」
スティーブ(無線、以下同)「特等席を独り
占めしやがって。七番パネルは?」
聡 「いけそうだ。俺一人でなんとかなる」
手元の工具で修理をはじめる聡。
× × ×
凪との思い出が、自然とあふれてくる。
涙目で扉を開けて出てきた凪。
ボヤの火で照らされた凪。
殴ったときの顔。
× × ×
最後のボルトを締め終える。
聡 「OK。これでお前ら実験し放題だぞ。
もとに戻った」
スティーブ「最高だぜサトシ。お前は俺たち
のヒーローだ。真のアストロノーツだ」
聡 「ああ。……俺、ほんとに宇宙飛行士
になったんだなあ……。あ」
スティーブ「どうした」
聡 「いま日本時間は?」
スティーブ「……零時を三分過ぎた。残酷な
ようだが、我らが国際宇宙ステーションは、
日本上空を過ぎ、中国大陸へ向かっている」
聡 「……」
スティーブ「帰ってこい。一杯やろう」
聡 「宇宙酔いも、悪くねえか」
聡、再び外壁を伝い、一歩一歩戻る。
聡 「……」
振り仰ぐと、地球に流星群が落ちてい
る。
遠ざかる、宝石箱のような夜の日本。
聡 「スティーブ、投棄ボタンを押してく
れ。忘れたい」
スティーブ「ラジャー」
投棄口から捨てられる、投棄パック。
大気圏で燃え始める。
聡 「グッバイ、俺の青春」
〇その少し前、凪(29)の部屋、夜
引っ越してきたばかりの部屋。
荷物を開ける凪(29)、最低限のセッ
ティングをしている。
机、PC、本棚、大切な本。
新しい本に、黒いカバーをつける。
凪NA「その後私は東京の出版社に勤めて、
30を前に独立して翻訳業を始めた。新潟
でテレワークするスタイルだ。東京に一本
で出られるし、何より雪の静けさが好きだ
し」
窓の外には、一面の雪。
凪NA「神様がいるかどうかは分らない。で
も今夜起きた二つの偶然は、きっと神様の
せいだ。一つ目は、宇宙ステーションにス
ペースデブリが当たったこと。二つ目は、
新潟の不動産屋が、西向きの部屋を私に勧
めたこと」
一人でワインを開ける凪。
凪 「30のワタシ、おめでと。あと、独
立おめでと」
時計はまさに0時3分。
何気なくベランダに出て雪を眺める凪。
その空に、真下に落ちる流れ星。
凪 「え?」
まっすぐな残光が、ゆっくり消えてい
く。
× × ×
聡との回想がフラッシュバック。
アパートに来てくれた聡。
殴ってくれた夜。
二人乗りで星を見に行った夜。
はじめて会った時のこと。
聡 「俺、宇宙飛行士目指してんの」
× × ×
部屋へ戻り、「高野聡」を検索。
ネット記事「日本人宇宙飛行士高野聡、JA
XAより国際宇宙ステーションに合流」
宇宙飛行士の制服を着ている聡の写真。
凪 「夢、叶えたんだ……」
ベランダへ走る凪。
空を探す凪。
空を探す凪。
〇地球に落ちていく指輪
スローモーションで、指輪が燃えて、
流れ星になり、燃え尽きるまで。
投棄パックは真っ赤に燃えて、バラバ
ラになってゆく。
その中に金色の指輪。
指輪は真っ赤に燃え、溶け、金色の光
を放つ。
雲を抜ける。海面が近づいてくる。
金の光は消え、灰になって散ってゆく。
× × ×
それにインサートする二人の場面。
上履きを貸してくれた聡。
二人で飲んだコーヒー。
天文部部室。
ノートPCの前で寝ている聡。
凪は彼の背中にもたれて、本を読んで
いる。
聡NA「灰色が金色になる瞬間を、見たこと
があるだろうか。俺はある」
〇地上を見る聡、空を見る凪
暗転。
この物語を書いているとき、ずっと頭の中でマイケル・ナイマンの曲が流れていました。1999年のイギリス映画『ひかりのまち』(原題:Wonderland)のサントラです。
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