胡乱な男 #3 ブタ野郎とお喋りクソ野郎
→#2 スイートルームとブタ野郎
※BL/犯罪コメディ/軽い性的表現あり
俺は現代に生きるトレジャーハンター。
泥棒だろって?
うん、まあ、そうとも言う。
ちょっとかっこつけたかっただけ。
◇
あの悪夢の日から、数日後。
俺の家はあっさりバレた。
「お届け物です」とチャイムが鳴ったので、玄関を開けたら、配達員の制服を着た、例の男が立っていた。
「……何でここが?」
男は答えず、にっこり笑った。
「受け取りのサインを」
「受取拒否で」
「まあまあ、そんなこと言わないで」
ピザ屋の時もあった。
「やあ、僕だよ」
「頼んでないです」
「ピザは?」
「ピザは寄越せ」
ある時は、俺がシャワーを浴びてリビングに戻ったら、男が長い脚を投げ出して、くたびれたソファに寝そべっていた。
「おわっ!」
「やあ、ジュリアン。ずいぶん美味しそうな格好してるね」
言われてハッと気がついた。
俺はパンツ一丁だった。
まさか人がいるとは思わない。
パンツ履いててよかった。
もちろん合鍵なんか渡していない。
慌てて、その辺のTシャツとスウェットパンツを身につけた。
「どうやって入ったんだよ!」
男はくいと親指で窓を示した。
ここ3階なんだけど。
「どうせあとで脱ぐのに。まあいいや。お邪魔してるよ。良いワインが手に入ったんだ。一緒にどう?」
男は慣れた手つきでワインを開け、グラスに注いだ。ワイングラスはうちにはない。男が持ち込んだに違いない。
いかにも高級そうな芳醇な香りがする。
さらに、真っ赤なバラを一本、差し出してきた。
「一本のバラの花言葉は『一目惚れ』『あなたしかいない』だよ」
「いらねえ!」
ワインは渋く、高尚な味わいで俺にはよくわからなかった。
首を捻って難しい顔をしていたら、「ジュリアンにはちょっと早かったかな」と言われた。
どうせ俺の舌はお子様だよ。
つまみのチーズとサラミは美味かった。
バラは勝手にコップに入れられて、しばらくテーブルを飾った。
◇
とりあえず、しばらく身をくらますことにした。
ダニーのジャンク屋に向かった。
古い雑居ビルの一階にある、細長くて狭い店だ。奥がそのまま住居になっているらしい。
「ダニー、いる?」
俺が呼びかけると、カウンターの奥でのっそりと人影が動いた。古いラジオをいじっていたが、顔を上げ、分厚いメガネの奥で笑った。
「よお、ジュード。久しぶり。ギルドの爆破はお前の仕業?」
「そう言いたいけど、俺じゃない」
カウンターに肘をつくと、ざらりとした。
相変わらず埃っぽい。
店中いろんな部品と、アニメのフィギュアがごちゃごちゃと並んでいる。もはや何が商品で、何が私物なのか分からない。
メカニック兼情報屋で、俺よりいくらか年上の、気のいいやつだ。
「最近変な男に絡まれててさ、ちょっと匿ってくれない?」
ハンダ付けをしていたダニーが手を止め、メガネを押し上げた。
「変な男?」
「こいつなんだけど」
非表示にしていたあの写真を開き、ダニーに見せた。もちろん、俺の寝顔はトリミング済みだ。
ダニーはスマホを見て、呑気に笑った。
「お、スミスじゃん」
「スミス?」
「俺が勝手にそう呼んでる。好きに呼べって言うから」
「何だよ、それ」
「ついこの前も来たぞ。ジュードが来たら教えてくれって言われてる」
「お前!まさか引き受けてないだろうな!」
「『君、良いやつだな』って、寿司奢ってくれてさ〜。美味かった」
「くっ、餌付けまでされやがって……! もういい、すぐにここを出ないと……」
「呼んだかな?」
背後から声がした。
「ぎゃーーー!! 出たーーー!!」
振り返ると、例の男が立っていた。
「よお、スミス」
ダニーがにこやかに手を挙げた。
「やあ、ダニー」
そして男は、俺を覗き込んで微笑んだ。
「やあ、ジュリアン」
「ジュードじゃないの?」
ダニーが口を挟んだら、男はにっこり笑った。
「ジュードは偽名だよ。本名はジュリアン。173cm、58キロ。もう少しウエイトを増やした方がいいけど、今のしなやかさも捨てがたい。地方の片田舎出身。22歳。もうじきお誕生日だね!七歳上の兄と、三歳上の姉がいる。大学進学を機に故郷を出る。その後中退。鍵開けとスリが得意。ただし、堅気は狙わない。組織の下請けで、狙うのは仕事で指定された相手だけ。そうそう、カフェ・ラテを飲むとお腹が痛くなるのは乳糖不耐症だからだよ。ソイラテをお勧めする。それと右奥歯の虫歯を三ヶ月も放置してるね。そろそろ治療に行った方がいいよ。歯医者が怖いのかい?一緒に行って手を握ってあげようか?(早口)」
ペラペラと捲し立てる男を前に、俺とダニーは、あんぐりと口を開けたまま固まった。
ダニーがぼそっと「すげえ」と呟くと、男は「それほどでも」と照れくさそうに頭を掻いた。
「褒めてねえんだよ!」
俺はまたダニーの胸ぐらを掴み上げた。
「ダニー!!てめえ、お喋りクソ野郎!」
ダニーはぶんぶん首を横に振った。
「俺じゃねぇよ!俺はお前にそこまで興味ねぇ!!」
男がポンポンと俺の肩を叩いた。
「僕だよ。言っただろ。君のことなら何でも知りたいって。調べるの楽しかったよ」
「な?」とダニーがメガネを直しながら言った。
な?じゃねーんだよ!
俺の腰に、男がするりと手を回してきたので、バシッと叩いた。
「触るんじゃねえ!おいこら、スミス」
「ああ、ブタ野郎じゃなくてよかったよ。君になら、何て呼ばれても嬉しいけど、やっぱりちょっと気になってたんだ」
「ちょっと黙れ」
「なんだい?ジュリアン」
「なんで、腹が弱いのまでバレてるんだ」
「君、普段ならトイレの滞在時間は短いのに、カフェラテを飲むと回数と滞在時間が増えるんだ。知らなかった?」
「知るか!!」
「これからはソイラテにしなさい」
「医者か! いや、医者でも嫌だわ!」
「怖ぇ〜」
さすがのダニーも呟いて引いていた。
俺も怖い。カフェラテ飲んでるのを知ってるのも怖いし、トイレの回数や時間を計測されてるのはもっと怖い。
「どっかで見てるわけ? まさかトイレに監視カメラ? いや、盗聴器? ハッ! ダニー!!」
またダニーの胸ぐらを掴み上げた。
「いや〜、ハハハ、上得意様でさ〜」
「こんな店燃やしてやる!」
「待てよ!俺は機材を売っただけだ。使い道までは聞いてねえ」
「無責任クソ野郎!!」
男がまた肩をポンポンと叩いてきた。
「安心して。トイレの中は見てないよ。さすがの僕もそこまでは」
「部屋にはあるってことだな!どこに仕掛けたんだよ!」
「今から行って教えてあげる」
「おお!教えてもらおうか!」
男と共に家に帰ってから、はたと気がついた。
しまった。自分から家に上げてしまった。
しかも、玄関から堂々と。
今さらながら恐怖を感じて振り向くと、
「お招き嬉しいよ」と男がニッコリ笑った。
「ち、違っ!!」
つづく
→#4 I 罠 be with you
※スミスのヤバすぎるカメラフォルダも公開中
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