胡乱な男 #4 I 罠 be with you
→#3 ブタ野郎とお喋りクソ野郎
※BL/犯罪コメディ/軽い性的表現あり
俺は通称ジュード。本名はジュリアン。
現代に生きるトレジャーハンター。
泥棒だろって?
うん、まあ、そうとも言う。
ちょっとカッコつけたかっただけ。
そんな俺は今、スミスと名乗る得体の知れない男に付き纏われている。
◇
案の定、翌朝、俺はベッドの上で屍と化していた。
「はい。朝ごはんだよ」
スミスがベッドまでトーストとコーヒーを運んできた。シャワーを浴びたようで、髪が少し濡れていた。
「君の冷蔵庫、空っぽだな。食材があれば僕の手料理をご馳走したのに」
「ヤバいもの入ってそうだから、遠慮する」
「仕事以外ではしないよ」
「聞かない方が良さそうだ」
「そうして。ディナーは何がいい?」
「来る前提で話をするな」
スミスがネクタイを締めながら言った。
「名残惜しいけど、僕は仕事に行かなくちゃ」
「おうおう、早く行け」
急にスミスがふふ、と笑った。
「何?」
俺がトーストを齧りながら聞くと、スミスはうっとりと頬を染めた。やめろ、気色悪い。
「『行ってらっしゃい』って、新婚さんみたいでいいなって思って。そうなるように僕、頑張るよ」
トーストをごくんと飲み込んだ。
俺、「行ってらっしゃい」なんて言ったっけ。
しかも、一体何をどう頑張るつもりなんだろう。
「じゃあね、行ってきます。ハニー」
「調子に乗るなよ!」
スミスは俺の頬に軽くキスすると、笑顔で部屋を出て行った。
一体、なんでこんなことになったんだっけ。
◇
いよいよ我慢の限界で、誰にも言わずに引っ越した。
ボロいアパートの五階。
前の部屋より古いけど、少し広い。
ここなら、しばらく見つからないだろう。
そう思っていたら、引っ越して三日目の朝。
カーテンを開けたらスミスがベランダに立っていた。
「何でいるんだ」
「やあ、ジュリアン。僕から逃げられるとでも?」
しかし、今度の窓は、赤外線センサーを張り巡らせ、勝手に開けると電流が流れるように細工してあるのだ。
どうやら、窓には触れなかったらしい。
チッ、バレたか。
「良い部屋だね。セキュリティも万全だ。サンドイッチあるんだ。一緒に食べよう」
「嫌だね。サンドイッチ置いて帰れ!」
「謝るから」
「何を」
「ギルドを潰したこと」
「今さらかよ!いずれ俺が潰すつもりだったのに」
「すまなかった」
「勝手なことしやがって」
「……君に危険が及ぶのを避けたかった」
「どうせ、俺は弱いから、俺には無理だったって言いたいんだろ」
俺はそう言い、肩を震わせて俯いた。目元をこすって、鼻を少しすすった。
我ながら名演技だ。これでヤツが窓に手をかければ、一撃で感電ノックアウト。
「まさか!君が大事だからだ!」
スミスがハッと目を見開いて、窓に手を伸ばした。
よし、いいぞ。あと数センチ――。
が、寸前でピタリと手を止めた。
「……おっと。危うく君の愛の洗礼を受けるところだった」
「チッ、引っ掛からなかったか」
ヤツが感電するところが見れなかったのは残念だが、この際だ。言わせてもらおう。
「まだある。俺の車を勝手に使うな」
「ごめんよ」
「なんで爆破したんだよ!何でもかんでも爆破しやがって!」
引っ越す前、駐車場から車が消えた。
問い詰めたら、こいつが勝手に持ち出して爆破したと言う。
古いフィアットでボロかったけど、いろいろカスタムして気に入ってたんだ。ついでに、お気に入りのサングラスとCDも車と一緒に吹っ飛んだ。
手元には空のケースしかない。
「同じ車を用意するから」
「ターボ付けろよ。CDとサングラスも弁償しろ」
「もちろん」
「爆破までしなくてもいいだろ」
「一旦君が死んだことにしたかった」
「あんたこそいっぺん死んでみたら?」
「それは嫌だ。死んだら君に会えなくなる」
スミスは紙袋を持ち上げた。
「ほら、君の好きなローストビーフのサンドイッチ買ってきたんだ。ね、お腹、空いてるだろ?」
「俺は窓を開ける気はない」
「そうか。わかった。出直すよ」
スミスは紙袋をベランダに置くと、ふっと姿を消した。今日はやけに物分かりがいいな。
俺が窓を開けてサンドイッチを回収したら、玄関がガチャリと開いた。
振り向くと、スミスが玄関からスタスタ入ってきた。
「サンドイッチ、一緒に食べようね♪」
その後、サンドイッチだけじゃなく、俺も美味しくいただかれました、ってな。
バカヤロウ!!
シャワーを浴びる気力もなく、ぐしゃぐしゃになったシーツの上で横になっていたら、スミスが俺の頭を撫でてきた。
「逃げても無駄だよ」
「逃げるのは趣味なんでね」
声が掠れていた。腹が立つ。
「僕も追いかけるのは大好きだよ。やっぱり僕たち、気が合うね」
スミスは微笑み、俺の頭を撫でてつむじにキスしてきた。
腹立ち紛れに腹にパンチしたが、相変わらずニコニコしている。全く効いてなさそうで、余計に腹が立った。
「そもそも、何で俺なんだ」
ふと思ったことを口にした。
「あんた、顔はいいからモテそうなのに」
「嫉妬かい?嬉しいよ」
「ちっっげーーわ!不思議なの」
不意にスミスの顔にすっと影が差した。
「それは…」
「それは?」
固唾を飲んで見守ると、スミスは物悲しげにふるふると首を振った。
「駄目だ。君への愛は、簡単に言語化できない。語り出したら三日ほどかかりそうだ。それでもいい?」
「聞いた俺がバカだったよ」
はあ。全く厄介なやつに気に入られたもんだ。
※スミスのヤバすぎるカメラフォルダも公開中
→【キャラクター紹介】
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