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胡乱な男 #5 ここでキスして

#4  I be with you

※BL/犯罪コメディ/軽い性的表現あり


俺は通称ジュード。本名はジュリアン。
現代に生きるトレジャーハンター。
泥棒だろって?
うん、まあ、そうとも言う。
ちょっとカッコつけたかっただけ。

そんな俺は今、スミスと名乗る得体の知れない男に付き纏われている。





ターゲットの男だった。
男からスマホを盗んで組織に渡す、それだけのはずだった。
なのに、なぜか俺が付き纏われている。

配達員やピザ屋の制服で現れたり。
勝手に上がり込んで、リビングのソファで寛いでいたり、引っ越しても三日でバレたり。
車は爆破するし、人の虫歯やトイレの滞在時間まで把握している。恐ろしい。

その男が、二週間も姿を見せない。

窓に仕掛けた罠の電流は最大出力。
玄関には新しい罠も仕掛けた。

でも、何もない。
つまらない。
……いや、清々してるんだ。
鍵も換えなくていいし、パスコードも変えなくていい。ベッドも広々。

自由!最高!

……でもさ、連絡ぐらいあってもいいんじゃない?スマホは静かなままだ。

何か、あったかな。

しくじって捕まったとか。
撃たれたとか、爆発に巻き込まれたとか。

「……もしかして、死んだかな」

そう言えば、俺はあいつのことを何も知らない。
あいつは俺のことなんでも知ってるみたいだけど。そんなの不公平じゃない?

「スミス」はたぶん偽名だし。
職業も年齢も、住んでるところも。
なんで俺に付き纏うのかも。




ダニーの店に行った。

別に、あいつのことを聞きに行ったわけじゃない。情報屋だから、いい仕事のネタでもないかと思って。

店に入ると、ダニーはカウンターの向こうでヘッドホンをいじっていた。店は相変わらずごちゃごちゃしている。

「よお、ジュード」
「最近、ブタ野郎は?」

俺が尋ねると、ダニーは手を止めて顔を上げた。

「スミスのこと?」
「そうとも言う。で?来てる?」
「来てないけど、なんで?気になってるわけ?」
「……そんなんじゃないけど」

ダニーは俺の顔をじっと見た。

「なんか元気ないんじゃない?」
「そんなことねーよ」

ダニーがカウンターに肘をつくと、にやにやしながら顔を覗き込んできた。

「ウソだね。ツッコミのキレが悪い」
「何だそれ! そんなわけ……あるのかな」

ダニーは口元に手をあてると囁いてきた。

「認めちゃえよ」
「何を?」
「スミスのことが気になってるって」
「はあ?何言ってんの?そんなわけねーだろ。あのブタ野郎を?」

ダニーはにやにやしながら続けた。
「もう、ジュードは普通じゃ物足りないんだよ」
「そんなわけねーよ。普通がいいに決まってる」
「いいや。あんな魅力的な男、他にいないよ。金持ちだし」
「たしかに、財布は魅力だな」
「顔もいいよ。背が高いし、筋肉もすごい」
「それはそうかも」
「頭もいいよ。IQ180だって」

ん?なんでダニーがあいつのIQ知ってる?
あのへっぽこのダニーが。

目の前のダニーは、カウンターに肘をついて熱っぽい眼差しで見つめてくる。
今日なんか、肩幅広くない?
こいつ、まさか?

「……やめてくれ、あいつの話は聞きたくない」

俺は首を振ると、ダニーの手を握った。
「俺が好きなのは、お前なんだ。ダニー」

ダニーの目が大きくなった。

「えっ……それは、ええ?」
「キスして」
「もちろん! 喜んで!」

ダニーが嬉々として顔を寄せてきた。

「やっぱり!! お前、ダニーじゃねえな!」
俺は思い切り頬をつねってやった。

「あ〜、痛い痛い。バレちゃった」
ダニーの顔のまま、例の男スミスが笑った。

「マスク取れ! この野郎!」
「そうだよね。僕の顔の方がいいよね」
「そういう意味じゃねえよ!」

店の奥からボサボサ頭のダニーが頭を掻きながら現れた。

「おはよー。うわっ、何やってんの? 特殊プレイ?」

本物のダニーが顔を寄せ合う俺たちを見て、ギョッとした。こっちは間違いなく本物だな。

ダニーのフリしたスミスが、店の奥を振り返って言った。

「ダニー、今いいところだったのに」
「スミスのせいで寝起きが最悪だよ。サーロインで許す」
「サ、サーロイン?」

俺が奥のダニーを見ると、へらへら笑ってメガネを押し上げた。

「ちょっと顔貸してって言われてさ〜」
「本当に貸すやつがあるか!」
「楽しみだな〜、サーロイン」
「もういい! お前なんか知らん!」

俺がカウンターに背を向けたら、ダニーが声をかけてきた。

「なあ、ジュード。俺とキスしたいって本当?」
「あ、あれは!こいつにカマをかけるためで…」
「なんか奢ってくれるってんなら、俺、一回ぐらいなら……」
「ちっ、違うわ! アホー!」
「元気になったな」
振り返ると、ダニーは笑っていた。

カウンターではダニーの顔をしたスミスが、なにやらぶつぶつ呟いている。

「他の男とキスするジュリアンを見るのは嫌だけど……僕の顔をしたダニーなら、ありかも」

ダニーがひそひそと話しかけてきた。
「お宅の彼氏、変態だね」
「彼氏じゃねえ!」

ダニーがスミスに声をかけた。
「なあ、もういいんじゃない?」
「ああ、そうだった」

スミスがマスクを外して髪をかき上げた。
「ふう」と息をついて振り返った顔は、相変わらず無駄に整っている。

二週間ぶりのせいか、やけにきらきらしている気がする。
うっかり見惚れ……んなわけない。
俺は慌てて背を向けた。

「……ってことは、さっきのIQ180も自分で言ってたのかよ」
「せっかくだから僕を売り込んでおこうかと思って。効果あったかな」
「IQ180の頭で考えたら?」
「うーん。君の顔を見ればわかるかも。こっち向いてよ」
「やなこった」

俺はますます背を向けた。
スミスがカウンターを回り込んで後ろに立つ気配がした。

「ねえ、ジュリアン」
「何だよ」
「寂しかった?」
「まっっったく」
「じゃあ、どうして耳が赤いの?」

俺が肩越しにスミスをジロリと睨むと、にこっと笑った。
「僕は寂しかったよ」
「そうかよ」

二週間、俺は自由だったんだ。
でも、誰も俺をジュリアンとは呼ばなかった。

「……二週間もほっといたくせに」

ボソリと呟いたら、スミスの目が輝いた。
「ごめんよ。急な仕事だったんだ」

ふてくされて睨む俺を、スミスがじっと見つめてきた。
「困ったな。こんなに可愛かったっけ」

スミスが頬に触れようと手を伸ばしたので、俺はぱしっと払いのけた。

「……俺にはステーキねえのかよ」
「もちろんご馳走するよ」

スミスが俺を抱きしめて言った。
「ただいま、ジュリアン」

俺は脛を蹴ってやった。
スミスはそれすら嬉しそうに笑うと、俺の額にキスをした。全く効いてなさそうで、さらに腹が立った。
腹が立つのは確かだけど。

生きてた。
どこも、怪我してなさそう。

スミスの肩に額をつけて呟いた。

「いなくなるなら先に言え」
「ごめんよ。やっぱりバッグに入れて連れて行けばよかった」
「ペットじゃねーんだよ!」

二週間ぶりに聞くその声は、相変わらず低くて柔らかくて、ほんの少し胸の奥が落ち着いた。

「何でこんなことしたんだよ」
「君の本音が聞きたくて」
「……何だよ、それ」

つい、口が尖る。
広い背中に手が伸びた、その時、

ダニーの呆れた声が飛んできた。
「もう他所でやってくんない?」


つづく


#6 拉致られてバースデー


※スミスのヤバすぎるカメラフォルダも公開中
【キャラクター紹介】


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