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亀戸町のお為さんと五代目岩井半四郎の軌跡


 今日は、五代目岩井半四郎の活躍の軌跡を、亀戸町のお為さんが生まれた年から追ってみたいと思います。


1804年

 お為さんは文化元年1804年に小松川村の百姓甚平とみつの間に生まれました。その同じ年、四代目岩井半四郎の息子が、中村座で女形の名跡を継ぎます。五代目岩井半四郎の誕生です。


1813年〜1818年

 お為さんは9歳(数え年10歳)の時1813年、小松川村から亀戸町の越前屋へ年季奉公に出されます。働き者で覚えが早く、愛嬌もあるお為さんは、すぐに越前屋の看板娘となりました。

 越前屋の主人に気に入られたお為さんは、14歳(数え年15歳)の時1818年小松川村から母病死の知らせが届いたのをきっかけに、越前屋に引き取られます。

 その間、半四郎はというと、前記事で紹介した通り鶴屋南北とタッグを組み、1813、1814、1814、1817年と女形としては異例の頻度で主演を張り、江戸一番の女形としてその名を轟かせていました。


1818〜1832年

 越前屋の養女となったお為さんは五代目市川海老蔵(七代目市川団十郎)と出会う27歳までの10数年間、養家の越前屋から妾奉公に出ては戻る、また出ては戻るという生活をしていました。

 養女になったとたん妾奉公に出されるようになったわけですが、その時のお為さんの心情については、のちにお為さんの子どもの乳母だったお加納かのさんが「越前屋のお客さんからの申し出を商売柄断れなかった」と語っています。お為さんにとっては辛い時期だったようです。

 料理屋という商売柄 有力者との人脈づくりは欠かせなかったでしょうし、養女にする際、越前屋の養父はお為さんの実父甚平に300両を渡しているので、その元をとりたい気持ちもあったかもしれません。実家の窮状を救ってくれた恩義から、お為さんも嫌とは言えなかったのでしょう。

 とはいえこの時期のお為さん、辛いばかりではありませんでした。時は歌舞伎ブーム真っ盛り。奉公先の中には

三代目坂東三津五郎推しの中村座の金主(こんにゃく屋の主人)や、

七代目市川団十郎推しの酒井雅楽頭家の酒井忠誨ただみち

もいました。彼らとの妾契約時は、歌舞伎を観る機会に恵まれたことでしょう。三津五郎や団十郎はもちろんのこと、彼ら2人と共演することが多かった五代目岩井半四郎のことも、桟敷席から観ていたと思われます。

 半四郎にとっての1818年から1832年は、長男次男が活躍しはじめ、親子共演を楽しんだ時期でした。
 長男の二代目岩井粂三郎、次男の初代岩井紫若と三人で江戸三座の立女形を独占するなどして世間の注目を集め、女形としての岩井家の地位を固めることにも尽力しました。

 プライベートでは、1823年秋に亀戸の網打を雇い、中川で網漁を楽しんでいた記録が残されている他、1828年初春に三代目坂東三津五郎と次男紫若と共に、亀戸村の鶴屋南北宅に新年の挨拶に訪れています。

南北宅での新年の挨拶の様子
中央奥の女形が半四郎(左)と次男(右)
鶴屋南北と国貞の合巻「裾模様沖津白波」より

1832年

 天保3年1832年の春、お為さんに転機が訪れます。江戸一番の歌舞伎役者、七代目市川団十郎が越前屋に現れたのです。

 天保3年1832年といえば、七代目が団十郎の名跡を長男に譲り、五代目市川海老蔵を襲名した年です。海老蔵は市川宗家としての権威を盤石のものとするため、息子の襲名披露の舞台を利用して、市川家代々の当たり役を制定した歌舞伎十八番を発表しました。そして海老蔵改名後にふらりと立ち寄った越前屋で、ちょうど妾奉公先から戻ってきていたお為さんと出会うのです。客席から観ていた人気役者を目の当たりにしたお為さんは、さぞかし驚いたことでしょう。

(補足情報)
 実はお為さんは最後の奉公先だった酒井雅楽頭家で男児を1人産み、酒井家に残してきています(詳しくはこちら)。海老蔵にとって酒井家は自分の贔屓筋です。お為さんと酒井忠誨ただみちの間に子がいることも把握していたと思われます。海老蔵は全て承知の上で、お為さんを引き受け、生涯愛し抜きました。


 半四郎にとっての天保3年1832年もまた、転機の年でした。この年の11月、半四郎は長男に六代目を襲名させ、自身は俳名として使っていた岩井杜若を名乗るようになります。

 その後は全盛期の激務から離れベテランとして歌舞伎界に残りつつも、柳島庵を名乗り、柳島(亀戸の対岸)の庭に池や山を築くなどし、風流な隠居生活をスタートさせました。柳島での隠居生活は晩年まで続き、71歳(数え年72歳)の時、そこで没したとされています。




 以上、お為さんが生まれてから海老蔵と出会うまでの1804〜1832年を、五代目岩井半四郎の人生と重ねつつまとめてみました。

 次回は国貞が描いた五代目岩井半四郎を、鶴屋南北作の舞台絵に絞って紹介していきます。



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