王神愁位伝 第4章【葬華なる銀昏架】 第31話 化物たちの盤上、始まる狂宴
第31話 化物たちの盤上、始まる狂宴
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"ダーーーーーン!!!!"
「え・・・まじで?」
”捕食植物”に囚われていた、タイヤン軍隊長・玲王の脱出劇。それを目にしたオルカの顔から、初めて余裕が消え、驚きが隠せない様子で立ち尽くす。
・・・・・・同時に、その足元で大号泣しながら泣きつく青年が約一名。
「ぅぁぁぁぁぁぁぁあ~!!!待ってたんだよーーー!!出てくるの遅いぃぃぃいいい!!あと一歩で俺、死んじゃうところだったんだからぁぁぁああ!!!うぁぁぁあああああ!!!」
危機一髪で救われた琥樹は、相手が軍隊長だということも忘れ、玲王の腰にしがみつくや否や、大量の涙と鼻水を流して喚き散らす。
(・・・なんだ、こいつ。)
あまりのヘタレっぷりに、しばらく唖然としていた玲王だったが、徐々に限界を超えた面倒くささが怒りへと変わっていく。
"——グィッ!"
「うっっっっせんだよ!めそめそめそめそ!気持ち悪い!!!」
「ひっ!」
玲王はイラついた様子で、琥樹の頭を鷲掴みにすると思いきり怒鳴りつけた。あまりの殺気に、琥樹は顔を真っ青にして、即座に口を閉じた。
同時に玲王は、琥樹の腕の中で血に染まっている元ソール軍副隊長・拝理と、自身の腕の中でぐったりとしている妻・由空に視線を走らせる。
(・・・ソールの副隊長クラスが、このザマか。)
下にいる子供たち、咆え立てるワンコ、そして目の前で不気味に思考を巡らせているオルカ。状況を把握する玲王は、怯えながらチラチラとこちらを見てくる琥樹にギロリと視線を戻した。
「おい。」
"ビクッ!"
「ひ、ひゃい!!」
"グィッ"
「?!」
玲王は抱きかかえていた由空を、有無を言わさず琥樹の腕の中に押し付けた。そして、これでもかと顔を近づけ、獰猛な肉食獣のような眼光でガンを飛ばす。
「お前、そのまま由空と副隊長連れて、ガキどものところに行け。」
「え、あ・・・」
"ギロリッ!"
「由空とお腹ん中のガキに、傷一つでも増やしてみろ。・・・オルカの前に、俺がお前を容赦なくブチ殺すからな。」
「え、うそ・・・っっ、はいぃ!!!」
暴力的な脅しを前に、琥樹に拒否権などあるはずもない。涙を流しながら勢いよく首がもげるほど頷いた。
化け物二人が激突するこの超危険地帯から一刻も早く離れようと、琥樹は負傷した左腕の痛みに耐えながら二人を必死に抱え、子供たちの元へと急降下した。
地上へ離脱していく琥樹たちの背中を見届け、玲王はゆっくりと首の骨を鳴らし、目の前のオルカと対峙した。 オルカはどこか狂気を孕んだ目で、爪を噛みながらブツブツと独り言を呟いている。
「ありえないんだけど。爛がミスった?あの ”捕食植物” から抜け出すなんて、出来っこないのに・・・」
オルカの鋭い視線が、地上で拝理にすがりつく乖理に向く。
(乖理・・・セカンドの卵だった!厳選したプライマルしか連れてこないようにしていたのに!!!!どうして——)
オルカがグルグル思考を巡らせイラついていると、その様子を玲王は鼻で笑った。
「計算外が沢山起きてるようだな?鳥仮面野郎。」
「・・・でもまあ、こんぐらいしてくれなきゃ、つまんないかー?本当、つまらなくて、爛たちの方に向かうところだったよ~。」
オルカは一瞬で歪んだ笑みを顔に貼り付け、優雅に呟く。
「君は、太陽族の軍隊長・・・”天神” だよね?セカンドの頂点に君臨してくれてなきゃ、僕の相手はそうそう無理だよーー?」
「・・・てめぇは、月族の ”天神” か?」
「そうだよお~。僕はセカンドの頂点、天神・オルカ!!すぐに死んじゃうだろうけど、よろしくね~?」
オルカがくすくすと笑うたび、ヒナギクの塔一帯の空気が文字通り凍りつき、周囲の温度が急激に下がっていく。肌を刺すような絶対的な強者のプレッシャー。だが、玲王は眉一つ動かさず、瞳を鋭く細めた。
「・・・5年前は、よくもタイヤン地方をガタガタにしてくれたな。」
「5年前?なんだっけ。僕、興味ないことはすぐに忘れちゃうタイプだからさあ。」
「っは!太陽の天神を一人片付けただけじゃ、てめえの軽い脳みそには記憶されねえってか。」
玲王の言葉に、オルカは首を傾げて少し考えると、ポンと手を叩いて瞳を大きく見開いた。
「・・・ぁあ!そう言えば、キャハッ!いったねー!タイヤンの英雄だとか言われてた天神!もうさあ、最強って聞いてたから、すっっっっごい期待してたんだけど——」
オルカは下品なほどに口角を吊り上げると、嘲笑うように言い放った。
「くっっっっそ、弱かったんだよねえ~。」
ドクン、と玲王の手の中で、歯車型の武器が共鳴するように激しく脈打つ。すると、オルカは楽しそうに言葉を重ねた。
「あれ~?やられたの、君の知り合い?」
「・・・親父だ。」
「ぇえ!本当?!うわあ~、可哀想なことしちゃったね~。悲しいね~、悔しいね~、いいんだよ?思うがままに、僕にぶつけてくれて・・・」
おもちゃを見つけた子供のように歪んだ期待を寄せるオルカ。 しかし——玲王の口から漏れたのは、低く、地を這うような ”笑い声” だった。
「ククッ・・・・ハハハハハッ!!!」
「・・・・?」
「ククッ・・・はぁ、悲しい?悔しい?まっっっっったくないね!!逆に感謝してるぜ!!あのクソ親父が絶対無敵じゃねえって教えてくれて、俺の目を覚ます最高の機会をくれたんだからなぁッ!!!」
爆発的な風の咆哮と共に、玲王の身体が視界から掻き消えた。 次の瞬間、オルカの真上から、超巨大な歯車が空間を裂いて襲いかかる。
「第六血響!!!絶対演算・風穴の天輪!!!」
"ドォォォォォォン!!!"
大気が爆発し、塔の一部が一瞬で消し飛ぶ。
しかし、オルカは一瞬の隙も突かせず、自身の両手首に付けられた赤い腕輪を掲げると、腕輪に付けられた鋭い針がオルカの手首を貫通。同時に、自身の血液を瞬時に大気中に展開するや否や、強固な ”赤黒い血の球体” を張り巡らせ、玲王の超重量の一撃を完全に防ぎきっていた。
"ニィィィイ!!"
「キャハッ!そうこなくっちゃー!でも・・・こんな生ぬるい攻撃じゃ、僕を倒せないよー?!」
オルカが指をパチンと鳴らした瞬間、真っ赤な球体がトゲのように逆立ち、瞬く間に背後へ整列。数十の ”血の魔槍” へと姿を変える。月族天神の一振りが、空間全体を真っ赤に染め上げた。
「さぁさぁさぁさあ!!! 弱小の太陽族!! この僕の影に触ることさえ出来やしないよ!! キャハハハハハ!!」
オルカが手を振り下ろすと同時に、音速を超える速度で、無数の赤い槍の豪雨が玲王を目掛けて殺到する。
「第七血響!!!絶対演算・千裂の歯車!!!」
玲王が唱えた瞬間、巨大な歯車がパズルのように分解され、数千の刃へと分裂。それらが一斉に、超高速の超振動を伴って回転し、迫り来る血の槍を正面から迎え撃った。その軌道は計算し尽くされたかのように、一つたりとも血の槍を逃さない。
”ガガガガガガガガンッ!!!!!!”
衝撃波だけでヒナギクの塔の天井が消し飛び、瓦礫が粉砕されていく。
「いいね、いいねぇぇええ!!そうだ、そう!!思うがままに戦おう!!理性なんて捨てて!!!本能のままに!!!」
"ドォォォォォォォォオン!!!!"
オルカの狂った叫びと、玲王の冷徹な絶対演算の攻撃。セカンドの頂点たる天神たちの猛攻が、世界を削り取るように繰り広げられ始めた。
「うわぁ・・・」
その様子を地上から見上げ、琥樹は腰を抜かしそうになっていた。
(オルカと正面からやり合ってる・・・。軍隊長たちって、やっぱり人間じゃないよ・・・。)
あまりの次元の違いに戦々恐々とする琥樹。 その隣では、いまだ血の止まらない拝理を強く抱きしめ、涙をボロボロと流している少年・乖理の姿があった。琥樹は何と言っていいか分からず、再び拝理の肩から溢れる血を止めるべく、自身の隊服をビリビリと引き破いて傷口へ固く巻きつけていく。
処置を終えると、気を失っている由空をそっと抱き上げ、奥でワンコのお腹で身を寄せ合っていた子供たちの元へと向かった。
「だ、大丈夫?」
オルカに刺された左腕の激痛に歯を食いしばりながら問いかけると、子供たちは顔を真っ青にしながらも、必死に頷いた。ワンコも心配そうに琥樹の顔をペロペロと舐める。
(う、上は・・・絶対見ないようにしよう。俺がどうこう出来ることじゃないし・・・)
琥樹は、呼吸の荒い由空を床に寝かせると、髪をかきむしった。
「に、妊婦さんって・・・どうすればいいの?全くわからないんだけど。こ、このままじゃだめだよね?何か、顔青白いし・・・これ、どうにかしないとやばいよね!?」
「ワフン・・・」
”ぽふっ”
慌てふためきパニックになる琥樹の頭に、ワンコがそっと前足を置く。
「なんだよ、一緒に考えてよ!!この人に何かあったら、俺、軍隊長に殺されちゃうんだから!!もしあの化け物に勝っても大変なんだから!!!メリー班長でも連れてきてよ!!タマゴたちは除外で!!!」
琥樹がワンコに向かって、本気で泣きわめいていると——
"スタ・・・スタスタ・・・"
「・・・?うわっ!!忘れてた!!!」
「グルルルルル・・・」
不気味な足音と共に、生き残っていたぬいぐるみたちが、再び暗闇からゾロゾロと姿を現した。オルカの無差別攻撃で数は減っているものの、全滅には至っていなかったようだ。不気味なボタンの瞳が、琥樹たちをロックオンする。
「ちょ、ちょっと待ってよ・・・っ!」
琥樹は自分のコウモリの翼の ”残量メーター” を確認し、完全に絶望した。
「うわ!全然残ってないじゃん!残量0じゃん!どうしよ!使い切っちゃったよ!!これじゃあ飛べないし、麻痺針も使えないし!!本当に俺、ただのポンコツなんだけど?!?」
セカンドを使えない今、唯一の頼みである ”コウモリの翼” の力を失い、再び喚き散らす琥樹。
「う・・・ぅう・・・」
「え、あ!ご、ごめんなさい、うるさかった?よね?」
その足元で、由空が苦しげに小さく呻き声をあげる。咄嗟に口を押さえて謝る琥樹の衣服を、ワンコがグイグイと引っ張った。
「ガウ・・・」
「・・・?なんだよ、ワンコ。今戯れあってるほど暇じゃないの!」
腕でワンコを退けようとするが、ワンコは諦めない。
"ガブッ!!"
「ぎゃ!!ちょっと!!腕!左腕負傷してるの!!噛まないでよ!!これ冗談抜きで痛いんだから!!!」
涙目で叫ぶ琥樹をお構いなしに、ワンコは視線を、奥で拝理を抱きしめて泣いている ”乖理” へと向け、琥樹に何度も顎で合図を送る。
「——?あの子がどうした・・・っ!そうか!」
ワンコが示そうとしている意図を察した琥樹の脳裏に、とある一案が閃いた。その様子に、ワンコは満足したように、嬉しそうに短く吠えた。
「キャン!!!」
