ベトナム・タイ族の暮らし|ゲアン省コンクオンで聞いた歌、衣装、民謡
ベトナムゲアン省・コンクオンには、ホアンさん(Lê Quốc Hoángさん)という著名な音楽家の方がおられます。タイ族(Thai)の伝統的な楽曲を作詞、作曲している、いわばレジェンドとも言えるお方です。彼の制作した楽曲は、コンクオンのみならずゲアン省の人々に膾炙しています。
※ここで言うタイ族は、タイ王国の“タイ人”とは別で、ベトナムに暮らす少数民族の一つ。

そんなホアンさんと先日お食事をした際にゲアン省のタイ族(Thai)についていろいろとお伺いし、知らなかった情報がわんさか出てきたので、私の記憶の整理を兼ねて記録したいと思います。
タイ族の暮らし観察、第一回はこちら↓
ゲアン省タイ族には黒タイ、白タイの区別がない…?
いきなり「黒タイ」、「白タイ」という知る人ぞ知るワードを出してすみません。タイ族って大まかに黒タイと白タイの2つに分けられてまして、文化、風習が大なり小なり異なってくるのです。
端的に分かりやすい違いは何かというと服装かもしれません。
例えば、白タイであれば白いシャツに黒のスカート、黒タイであれば黒いシャツに黒いスカートといった感じで、ぱっと見た目で判断できます(北部ギアローで協力隊をしている鈴木さんに聞いたら、今どき、シャツの色は黒タイ、白タイ問わず自由になってきているそうですが)。
【参考】北部タイ族の文化と暮らし↓
一方、ゲアン省のタイ族では「黒タイ」「白タイ」の区別は用いません。
代わりに、タイ・タイン(Thái Thanh)、タイ・ムオン(Thái Mường)と呼ばれます。
・タイ・タイン(Thái Thanh)→黒タイ
・タイ・ムオン(Thái Mường)→白タイ
という位置付けのようです。北部の黒タイ、白タイ同様に、タイ・タインもタイ・ムオンもそれぞれ風習が異なってきます。
タイ・タインは、タインホア省とかムオンタイン(ディエンビエン省)あたりが先祖みたいです。タイ・ムオンの出自はよくわからないそうで、人によってはソンラ省とかディエンビエン省などと言う人がいるようです。
ゲアン省タイ族の衣装について
タイ・タイン(Thái Thanh)の服装

・シャツの色→自由
・腰巻き→伝統的には白い綿の束
・スカート→黒のスカートに刺繍
スカートを機織り機で編むのに2週間〜1ヶ月くらいかかるらしいです👀。北部黒タイ族のスカートが、刺繍なしの黒統一のスカートであることを考えるとかなりカラフルな印象です。
タイ・ムオン(Thái Mường)の服装

・シャツの色→自由
・腰巻き→腰に巻くスカーフは赤とか緑など。色は自由。
・スカート→黒をベースに太陽と月をモチーフにした複雑な模様の刺繍。
スカートですが、近年はあまりに刺繍の作業に骨が折れるので工業製品が増えているそうです。
そして、スカートの模様にもどうらや深遠な意味があるそうで、、、↓

…宇宙とか出てきて、ちょっともう、凡夫の私には壮大すぎて良くわかりません。
ゲアン省タイ族の民謡について
「ベトナム北部のタイ族とゲアン省のタイ族、何が一番違う要素だと思いますか?」
と尋ねると、さすが音楽家のホアンさん、すかさず、「歌かな」と返ってきました。
Hoangさん曰く、北部タイ族の代表的な民謡はkhắp(カップ)と呼ばれるものが主流らしいのですが、ゲアンのタイ族にはkhắpに加えて、lăm(ラム)、xuôi(スオイ)、nhuôn(ニュオン)の4種類あるらしいのです。
分類としては以下の通り、
・khắp:基本的に叙情的なメロディー。コミカルなものから哀愁ただようものまで幅広い。
・lăm:笙(Khèn)のリズムに乗った踊れる音楽。ホアンさんはlămの楽曲を多数制作。
・xuôi:詩を吟ずるような旋律で、ゆったり、しっとり。
・nhuônはテンポが良く明るい曲調で、リズムが分かりやすい。
それぞれ音楽付きでご紹介しますね。
khắp(カップ)
まず、北部タイ族~ゲアンタイ族の間で広く歌われているのがkhắpです。khắpはテーマの幅が広く、思い出話・人生訓・冗談・儀礼・愛のあれこれなど、その場の状況に応じた歌詞が歌われます。農作業中の労働歌になったり、子守歌にもなったり、祭りのときの歌にもなります。
ホアンさんは北部のタイ族はkhắpが主流と仰いましたが、ただ、この分類の仕方自体が地域によって異なる可能性もありそうで、北部では別の整理のされ方をしているのかもしれません。今後、他地域の事例も見てみたいと思います。でも、まあ、「世界をどう人為的に分割、分類するか」って文化人類学的には重要なテーマですから、やはり北部タイ族とゲアン省タイ族では思考が違うわけです。
lăm(ラム)
笙(ケーン、khèn)と呼ばれる伝統的な竹製の楽器の伴奏とセットの音楽がlămです。
このlămですが、お隣のラオスの影響を受けているようです。ラオスの民謡にも「ラム」(lăm, lam)があり、笙の伴奏に乗せて歌唱するそうです。ゲアン省西部のタイ族は、地理的にも文化的にラオス北部のタイ族と近いので、ラオスとの文化交流がlămを誕生させたと考えられるそうです。
確かに、私の知り合いのタイ人は、ラオス語が理解できる人もいますし、姉妹がラオスに嫁に行ったり、出稼ぎに行くなどしたり、文化が似ていたり、人的交流も盛んなので、あり得る話かと思います。
↓こちらのYoutubeはホアンさんの楽曲です。MVの撮影地もコンクオン!
ちなみに、ホアンさんが演奏する笙なのですが、ラオスで購入されたそうです。え、ベトナムで買ってないの???と一瞬戸惑いましたが、ゲアン省タイ族とラオス・タイ族が文化的に近いため、特に違和感ないのでしょうね。

xuôi(スオイ)
xuôiは詩を吟じるように滑らかで、ゆったりと歌うのが特徴。xuôiを歌う際には竹笛による伴奏が付くとのこと。
こちらの動画、1:30までがxuôiで、その後lămに切り変わります。
踊っているのはタイ・ムオンの女性ですね。
nhuôn(ニュオン)
こちらはゲアン省西北部のQuế Phong郡からの映像。祭りや宴席でお酒を酌み交わす際など、楽しい集まりの場で歌います。
…脱線
話は脱線しますが、沖縄県無形文化財保持者で八重山民謡の大家に大工哲弘さんという方がおられます。あるインタビュー記事にて幼少期を振り返り、以下のように語ってました。
特に田んぼの作業で一番難儀で大変だったのが、中腰でトーサ(雑草)を取る作業。その作業を少しでも楽にする為に「ゆんた」を唄うのです。(略)。「ゆんた」唄いながら作業をすると本当に仕事が捗りあっという間に終わるんだよね。そして、その掛け合いの唄が本当に素晴らしいハーモニーなんですよ。そして、「ゆんた」が盛り上がってくるとウチの家族だけでなく、祖父の「ゆんた」に、隣の田んぼから返してきたり。返ってくるとそれに負けじとまた祖父が唄を返す。その掛け合いの「ゆんた合戦」が凄くてね。
ホアンさんと民謡の話をして、大工哲弘さんのこのエピソードを思い出しました。khắpをはじめとした民謡は、タイ人の喜び、悲しみ、労働の辛さ、ゴシップ、お祝い、お酒の席の楽しさ、など生活に寄り添い、素朴な日常に彩を付けてきたんだなと。八重山民謡もタイ族民謡も根底では繋がっているという点で感動的です。
最後に|タイ族の伝統文化を体験したい方へ
かなりマニアックな話になってしまいました(誰か読む人はいるのかしら)。ホアンさんについてですが、年々高齢化と伝統の後継者不足で薄れゆくタイ族の伝統に心を痛め、「タイ族講座」と称してダンスや歌、楽器の演奏講座を行政依頼のもとコンクオン内で開催しています。

ホアンさんの詳細はこちら↓
今回ホアンさんのお話を聞いて実感したのは、ゲアン省のタイ族文化は、北部のタイ族文化の単なる“地方版”ではないということです。衣装の分類も、歌の整理も、ラオスとのつながりも、この土地ならではの文脈をもっていると思います。だからこそ、タイ族文化に興味がある人には、サパやマイチャウなどの有名どころだけでなく、ぜひゲアン省西部にもぜひ目を向けてほしいと思います。
ゲアン省の観光案内記事も書いていますので興味のある方は読んでみてください。
ゲアン省のプーマット国立公園やタイ族ホームステイなどまとめてます。
ではでは!
