変身(メタモルフォーゼ) 第3話
女子高生視点
中学3年生の2月、お兄ちゃんが◯殺した。
お兄ちゃんは中1の頃いじめにあった私に優しく笑いかけてくれた。
ずっと笑ってくれる優しいお兄ちゃんのことが大好きだった。
優しすぎるお兄ちゃんだった。
だから学校でも家でも、笑って嫌なことを自分から進んでやっていた。
優等生で自立してて大人しくて優しくて穏やかで誰も彼のことを心配してなかったと思う。
私以外は。
実はお兄ちゃんがシャワー浴びている時や部屋にこもっている時に誰かの悪口を言い続けていることを昔から知っていた。
怖いなって最初は思ったけど、自分の中で悪意をこらえてまで周りに優しくふるまう不器用な兄が好きで、でも好きなままじゃいけなくて、いつか恩返しがしたくて彼のガス抜きをしてあげたいと思ってた。
でもそんなのは叶わなかった。
高校受験の合格が決まって喜んでお兄ちゃんに報告した次の日。
お兄ちゃんは学校を休んで踏切の中に飛び込んで◯んでしまった。
入学前なのに嫌な気持ちにさせてごめんね、受験終わるまでは我慢するって決めていたけど、我慢できなかったって遺書に書いてあった。
恩返しできなかった。
そのまめ死んでしまった。
それで私も高校初日から何もかも嫌になって不登校になってしまった。
でもそれじゃお兄ちゃんの恩返しにならないって思って頑張って今年の夏から学校に通うことにした。
精一杯元気を装って。
何か失敗するとイジメのターゲットになってしまう中学校と違い、賢い生徒しか入ってこないうちの高校の生徒はみんな大人だった。
それにあのイジメターゲットがコロコロ変わる田舎の中学校で鍛えられた人間折衝能力のおかげで、会津若松のエリート高校の中でのコミュニケーションは余裕だった。
だから、半年近く不登校だったにも関わらず友達はたくさんできた。陸上部のみんなとも馴染めていた。
時々お兄ちゃんは今頃東京で働いているのかなあなんて思って涙を流すこともあったけど、天国のお兄ちゃんが報われるように頑張って学校に通った。
悲しくなるから、生活感溢れる兄の部屋には立ち寄らないことにしてた。
だいぶ学校にも慣れてきた頃、スーツを着たメガネ男の人に電車の中で出会った。
私はすぐにわかった。
この人は大丈夫だよと周りにアピールしているだけで、内心追い詰められているのだと。
だってお兄ちゃんと同じ表情をしていたから。
平静を装う偽物の悲しすぎる笑顔の裏に、隠しきれない怒りや絶望を感じ取ったから。
トイレに行こうと横切った時、話しかけたくなってしまった。
だけど、社会性が私のエゴを抑えてくれた。
そのあと電車が止まって、
乗客は放り出されて、
でもその男の人には迎えが来なくて、
でも困ってて立ち尽くしている割には余裕すぎる変に異常事態を喜んでいるような、
妙な表情で私は確信してしまった。
その男の人はこっちの出身じゃないって。
何もかも、もしかしたら命さえも捨てるつもりでこんな田舎に逃避行してるんだって。
だから居ても立っても居られなかった。
このまま兄が取ったのと同じ、最悪の選択肢を選ぶのを見てられなかった。
そのままママにたのんで、彼を私と一緒にうちに連れて帰ってもらった。
「お兄ちゃんみたいな思い詰めた人がいる!一緒に家に連れてって!」
なんていうもんだから困惑してたけど、
きっと前みたいにまた不登校になるのを恐れて、
知らない男の人を家にあげるのを許してくれた。
私の注文通り、お兄ちゃんの好物だったきのこのスープを振る舞ってくれた。
きのこのスープを飲んでいる男の人は
心なしかほっこりしているように見えて、
生前のお兄ちゃんを思い出して泣いてしまいそうだった。
あったかいきのこスープを飲んでいる時のお兄ちゃんだけは、心の底から笑ってる気がしてたから。
泣きそうなのを悟られないために、
わざと馴れ馴れしく、
お兄ちゃんみたいな男の人に話しかけたりもした。
お兄ちゃんが他人と接する時みたいな、
作り笑顔と敬語が返ってきた。
私はこの人の妹じゃないんだと思うと寂しいと共にどこか安心した。
泊めるところもなかったのでついにお兄ちゃんのいた部屋を開けることになった。
生活感丸出しで、遺書もそのまま残っていた。
流石に見られたらまずいと思って回収した。
何度も何度も書き直した跡がある私宛の遺書は見るだけで悲しかった。
ちゃんと私宛の文も用意してくれてたことが本当に嬉しかったけど、その分悲しかった。
そのままお兄ちゃんがいた部屋にその人を通した。
次の日は親に言って学校を休むことにした。
パパにも反対されたけど
「お兄ちゃんみたいに◯んでしまうかもしれない!からちゃんと送り届ける!」
の一点張りで譲らなかった。
悲しそうな目でパパもママも許してくれた。
パパは娘一人を知らない男と二人きりにするのをすごく心配していた。
正直◯んでしまう!なんてのは杞憂だって自分でも思ってた。
朝起きるのが早いお兄ちゃんと違って、
その男の人は昼まで経ってもずっと寝てたから、
やっぱりお兄ちゃんとは別の人だって思った。
お兄ちゃんと違うってだけで少しホッとした。
ホッとしてた。
目覚めたら男の人がいきなり家を飛び出すまでは。
私の声に振り返りもせずに男の人は、
お兄ちゃんが飛び込んだ踏切に一直線に走っていった。
踏切につくと、線路にそのまま走っていって電車に突っ込んでいった。
お兄ちゃんのために私が供えたお花を蹴散らしたことなんて、
きっと気づきもしないで。
そのまま叫んで肉片になった男の人のかけらが飛んできた。
気分が悪くなってそのまま倒れてしまった。
後日警察の取り調べも受けた。
「だから得体の知れない男なんか連れ込むなって言ったじゃないか」
なんて冷たいことお父さんはこぼしていた。
私はその日から私は高校に行けなくなった。
残される身にもなってよ、お兄ちゃん。
