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変身(メタモルフォーゼ) 第1話


#創作大賞2024 #漫画原作部門

あらすじ

主人公は『化け物』として、
人間社会に溶け込むために『仮面』を被り続ける青年・黒屋。
中学時代のいじめと孤立を経験し、社会的に成功したものの、
内面の異常性を隠し続ける日々を送っている。
ある日、福島への旅で出会った女子高生との交流を通じて、
自分の本性と向き合うことになる。
彼女の純粋な優しさに触れることで、
主人公は自らの破壊的な衝動を抑えきれなくなり、
最悪の結末を選ぶことになる。

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第3話

第1話

『異常だ』『怖い』『そんなこと普通考えない』『キモい』『化け物』

これ、すべて僕のことらしい。

不気味な『化け物』にとって、

人間社会に紛れる『化け物』にとって、

『仮面』を被ることは義務なんです。

だから、今日も『仮面』を被ります。

被らざるをえないんだ。

しかし、『仮面』さえ被ってしまえば、自由だ。

そうさ!『仮面』の下は自由さ!

気持ち悪い触手が蠢こうが、

臭い息をし続けようが、

それは僕の自由なんだ...

僕はこの自由を謳歌する。

回想(中学生時代)

多感な少女にとって、最も残酷なものは、体育の授業だ。

胸を揺らして走っている姿を、周囲に晒さねばならない。

案の定、男子生徒たちの餌食になった。

彼らは女生徒を値踏みする様な目で見ながら、猥談をはじめた。

ちょうど、クラスのマドンナである白鳥さんが走り始めた時のこと。

クラスでじっといている僕にも、話が振られた。

柿崎「白鳥さん、エロい身体してるよなぁ〜」

共感を誘うように、肩を叩きながら柿崎が僕の耳元で囁く。

そっか、これは柿崎〈ヨウキャ〉なりの優しさだ。

クラスの中心人物が、ボッチに与える、見下しを前提にした温情だ。

会話に入れていないボッチに、話を振ってやってるんだ。

だから、これを無視したら、僕〈ボッチ〉の居場所はない。

柿崎「おいどーした、黒屋〜?ちんぽボッキしてんのかぁ??」

危なかった。

頭の中でぐるぐる考えているうちに、

無視してしまうところだった。

早く何か気の利いた返事をしないと、

僕「脚っ...興奮するよね、あっ、その白鳥さんの」

幸い、僕も白鳥さんに興奮していた。

だから、共感するのは簡単だった。

柿崎や、その取り巻きは目を丸くしていた。

柿崎「黒屋、おまえ...」

柿崎「めっちゃエロやーーん!!」

取り巻きA「脚とかもう、変態の師匠やん!」

取り巻きB「聞かせてや、エロ屋の妄想をさ!」

嬉しかった。

この僕が、みんなの話題の中心にいるなんて。

クラスの中心の人たちに、視線を注がれているなんて。

それだけで、調子に乗りすぎてしまう理由になった。

取り巻きA「脚をさ、ベローーって舐めたりとかしたいん?ww」

僕「あたりまえだよ!それより、もっと、すごい妄想してる」

柿崎「聞かせろや〜!エロ屋先生!」

そして、自己開示をし過ぎた。

僕「白鳥さんの脚をもぎ取ってしゃぶるんだよ!
キレ〜なピンクの身が出てくるでしょ?
それをカニを食べるみたいにして啜りたいんだ!
わかるでしょ!
みんなも、男だったら!!」

僕はピュアすぎたんだ。

次の日から、僕の席はなかった。

僕の机だったものは、大量に落書きがなされ、教室の隅で倒れていた。

黒板には大きく、「変態殺人鬼黒屋!」の文字。

白鳥さんがいたはずの隣の席には、誰も座っていなかった。

遠くから白鳥さんが、僕を睨んでいるのに気づいた。

まるで親を殺した相手かのような、憎しみのこもった目だった。

僕が、誤解を解こうと近づくと、彼女は逃げ出すように走り出した。

男子は僕を見て嘲笑い、女子は汚物をみるような目で僕を見るようになった。

登校するたびに、息が上がるようになってきた。

次第に、僕は校舎を見るだけで嘔吐をするようになった。

学校にはいけなくなった。

一度、『化け物』であることがバレてしまってからは、人間は容赦がない。

実際に危害を加えてなくても、関係ない。

頭の中に『化け物』を飼っていることがバレた時点でオワリ。

人権なんてないのだ。

プ⚪︎キュアのキーホルダーが、ごみ箱に捨てられていたこと。

これは、今でも鮮明に覚えている。

大切にしていたものだったから。

友達がいなくても、プ⚪︎キュアだけは僕をいじめなかったから。

ああ、プ⚪︎キュアみたいに変身〈メタモルフォーゼ〉できたらな。

僕の惨めな中学生活も終わってくれるのかな。

変身したら今度は人間になれるかな?

人との関わりを失ったから、家の中で、一人で、ずっと、ずっとそんなことをずっと考えていた。

回想終わり

でも、今の僕は人間社会に馴染めている。

有名大学を出て、大きな会社で働けている。

エリートであることは、人間社会で何よりも信用にたるらしい。

すなわち、今の私は信用という最強の『仮面』を持っている。

だから、その『仮面』の下でどれだけ暴れようが誰も気づかない。

『普通の人間』を装ってさえいれば、どんなことをしても、誰にも虐げられることなんてない。

まさか、⚪︎大卒の黒屋くんが、五菱不動産の黒屋くんが、そんなことするはずないから。

全ては他人からどう見えるかどうかだけ。

誰も見ていないところであれば、どんな奇行をしても構わない。

思考なんて、誰にも見られないからもっと自由だ。

今だって、僕は、異常な行動をしている。

僕は東京の下町に住んでいるのに、わざわざ福島まできて、片田舎の電車に揺られている。

旅行する気なんてさらさらないのに。

今日は水曜日の夜なのに。

でも、きっと、周りは僕のことを「福島近郊に住むサラリーマン」としか思っているのだろう。

仕事帰りでスーツを着ているし。

こういう些細な擬態からしてもう楽しい。

僕は、心底気まずそうに、車内の人をかき分けながら電車の中を移動する。

あたかも、トイレに行きたいようなフリをする。

当然、周りの人間は、僕が『化け物』だってことは知らない。

だから、人間として接してくれる。

同じ人間がすれ違ったときのように、気まずそうに、避けてくれる。

ほら、礼儀正しそうな、小柄な女子高生が、寧に頭を下げながらよけてくれた。

今回のターゲットは彼女にしよう。

たしか、彼女は若松駅から乗り込んできた。

振り向いてこっそりと、彼女を眺める。

エナメルバックを持っていて、高校名が書かれたジャージを着ている。

きっと運動部に所属している女子高生だろう。

ここからがメインパーティだ。

現実の世界に、妄想の世界をAR(拡張現実)のように頭のなかで重ね合わせる。

そうすると、現実世界で出来ない、どんな『気持ち悪い』ことも許されるのだ。

あくまで、妄想にすぎないんだから。

脳の中で髪を引きずって座席の角に頭を打ちつける。

彼女はきっと、真っ青な顔をしながら、頭からあふれ出る血を必死に抑える。

そんなことはお構いなしに、何度も彼女に〇〇をぶっかける。

何度も何度も、顔にかける。

どれだけ出しても、彼女の泣き顔が、怯え切ってすくんだ肩が、僕の性欲を補填してくれる。

大好きだ。

そんな妄想をしながら歩く。

こんな気持ち悪い妄想をしている『化け物』なのに、
ご丁寧に、車内の人は僕がトイレに行くために、どいてくれる。

人間として扱ってくれる。

そのまま先頭車両のトイレに駆け込んで、中で絶頂に至った。

現実でも汚い汁をぶちまけた。このために生きているのだ。

僕の趣味は脳の中で完結している。今日もいい有休だった。

トイレに行きたいであろう人がノックしてくる。

「ごめんなさい、入っております」

あえて、気まずそうな声で言う。

それだけで、『お腹を壊してなかなか出れない可哀想な人間』だと勘違いしてくれる。

自分の射〇のためだけに、外の人を待たせている瞬間が、最高にいい気分にさせてくれる。

あまりにも待たせると、異常性があらわになるので、ちょうど5分で出てきて元の席に戻る。

きっとみな気を遣ってあけたままにしているだろう座席に。

誰かが座っていても、そんなこと想定していなかったみたいな顔して驚いた顔して気まずくさせてやればいい。

その人が悪人でなかったとしても加害したい。

加害しあってはならない現実社会だからこそ。

あれだけ中学の時加害が許されてきたのに。

僕は加害されてきたのに。

やっとまともに言葉も喋れるようになって、復讐できるようになったのに。

急に周りが変わっていって、加害したい弱者を白い目でみて、

ポジショントークをしやがって。

でも、こんな不平等な社会に石も投げられないのだ。

だったら、誰も知り合いがいないところで、誰にもそうしていると気づかれないままで、

石を投げればいいんだ。

石を投げてやる! 投げてやる!

『ゴッ』

大きな石が列車にぶつかるような音がした。

ついに妄想癖がいきすぎて妄想が現実になる能力者にでもなったのか?

ならばレイプだってさせてくれよ。

「緊急停止します!」

脳の中の言葉を掻き消すような大きな声のアナウンス。

瞬間、電車が大きく揺れる。

電車を移動していた僕は、瞬間宙に浮いてそのまま正面に倒れる。

頭を思いっきり打って、額から血が垂れてきた。

他の乗客も何人か倒れてた。

「車両に異常が発生しました。原因を調査しております。しばらくお待ちください」

アナウンスを待つ間も無くざわつく車内。

誰に伝えるわけでもないツイートをインターネットに吐き捨てる。

「磐越西線で異音発生。緊急停止なう」と。

ついでに流れてくるツイートも確認する。

リツイートがやけに多い。

今日小3女児誘拐殺人事件の犯人が捕まったたんだ。

それでネットが湧いているようだ。

ロリコンだとか性犯罪欲を持つ人間に対して魔女狩りをするようなTLだった。

何の罪もないロリコン向け成人漫画家が叩かれていたりもした。

『自分の弱さを強い成人男性にぶつけることができないから、自分よりも弱くて性欲も満たしてくれる年下の女に執着するんだ。犯罪者なんてそんな弱くて最低なやつなんだ』

フェミニストよりの囲われナオンのツイートが一番心にキた。

実際、僕はそうだった。

僕がどれだけ惨めな思いをしたからって、
関わりもない未成年に対して劣情を抱いて良いわけがない。

『女性は男性のその加害性のために怯えて生きているんだ』
『性犯罪者という化け物は全員死刑にすべき』
『男性の性欲が諸悪の根源』

実際そうだと思う

でも、腹が煮えくりかえって仕方がなかった。

むかつくんだよ。

お前にロリコンの何がわかる。

加害衝動を持って生まれた人間の、何がわかる。

クソみたいな正論もツイートも◯んでしまえ。

片っ端からブロックしてやった。

Twitterを常駐していると一時間以上経っていた。

が、依然電車は動かないままだった。電話をし出す乗客も現れた。

「大変長らくお待たせいたしました。
本車両は運行不能であることが判明しました。
申し訳ございませんが、本車両は停止いたします。
今から全ドアを開放いたします。
大変迷惑をおかけして申し訳ございません」

アナウンスとともにざわめく電車内。

僕はそのまま新潟と福島の県境の山間に降ろされてしまった。

降り立った途端広がる美しすぎた銀世界は、スーツの僕には厳しいものがあった。

寒い。

とはいえ限界雪国では皆車両の停止には慣れっこなのだろうか。

乗客はみな家族や友人などの車を呼び出して帰っていった。

タクシーが来るような場所でもないので現地人に擬態してただけの僕だけが取り残されて消えていく。

立ち尽くして、スマホを見つめて帰る術を探す。

「あの、お兄さん、帰る当てないんですか!」

突然肩を叩かれる。

目を丸くした。

それは一時間前ターゲットに使用した女子高生だった。

予想もしていなかった、僕は慌ててどもって返事した。

東京から来た旨を伝えた。

「じゃあ!うちの車乗って行きませんか!」

厚意を向けてくれることを、最も想定していなかった相手だった。

なすがままに彼女と彼女の車を待った。

そのまま終電を逃したこと、どうせ明日会社に行けないことを告げると、

彼女の家族はそのまま泊まっていけと言ってくれた。

その優しさに僕は、僕は、僕は!

無性に生きていることが恥ずかしくなった。

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