二次元の水平線 五
乃木は久しぶりの作品である書き出し原稿を編集者の藤原に送るが、藤原の酷評に苛立ちと焦燥を募らせ、電話をかけた。冷静を装いながら翌日直接会うことになった。
乃木は悶々としたまま朝を迎えた。
苛立ちが収まったわけではないが、午後が待ち遠しく高揚感すらあるような気がした。午後にもっていく荷物をリュックに詰め込んだ所で煙草が吸いたくなった。書斎の灰皿からまだ吸えそうなのを見繕って灰を払い、火をつけた。少し落ち着いた気になったが、午前中は落ち着かず書斎を歩き回りながら思考を巡らせた。気づいた時には吸えそうなシケモクはなくなり、イライラしていると電話が鳴った。
「乃木先生、おはようございます。今よろしいですか?」
「大丈夫だけど」
「何かトラブルでもない限り、最寄りの駅に15時5分着の電車に乗れそうです。15時15分頃には土手のところには着くと思います。」
「あ、そう。あっ!藤原さん頼みがあるんだけど」
「なんでしょうか?」
「来るときにどっかで煙草を買ってきてほしいけど頼める?」
「大丈夫ですけど…乃木先生、煙草辞めたんじゃなかったでしたっけ?」
「昨日からまた吸い出したんだよ。セブンスター1箱買ってきてもらえる?えっと、ソフトじゃなくてボックスの方」
「わかりました。セブンスターのボックスですね」
「よろしく」
「では、失礼します」
「はい、はい」
藤原との電話を終えた乃木は煙草を吸おうとしたが、吸えるシケモクすらないことを思い出して舌打ちをした。
午後になり少し空腹を感じたので、通販で取り寄せたカップ麺を取り出してから電気ケトルに水を入れスイッチを入れた。何かをしているとあっという間に湯が沸くのだが、待っているとやたら長く感じる。
待ちきれずに音が鳴りだしたタイミングで湯を注いだ。これから先の3分間もやたら長く感じる。どこかで2分くらいで食べるのが美味しいといううわさを聞いたことを思い出し食べ始めた。
シーフード独特の匂いが食欲をそそる。よく考えたら昨日の昼から何も食べていないことに気付いた。カップ麺が五臓六腑にしみわたり、満腹中枢が刺激されると何だか少し穏やかな気持ちになり、気がすくと椅子に座ったまま眠りに落ちていた。
はっとして目覚めた乃木は時計を見た。もうすぐ午後3時になろうとしていた。何度もリュックの中身を確認して玄関を飛び出した。
エレベーターの前まで行くと丁度良いタイミングで上がってきた。扉が開いて買い物帰りと思われる中年女性が降りてきた。お互いに会釈をしながらすれ違ったが、締まるドアを振り返りながら見ていたその女性は、まるで不審者を見るかのような表情をしているように乃木には見えた。
少しの苛立ちを覚えながら出来るだけ他人に会わないようにそそくさとマンションを後にした。
マンション前の土手には5分も立たずにたどり着いた。土手の端に座っているといろんなことが思考を駆け巡り、苛立ちの連鎖が止まらなくなってきた。冷静さを取り戻そうとリュックの中身を確認し、藤原が早く来ないかと駅方面に視線を移した。

では 素敵な1日を✨
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