第4話 | いつかこれがペンでなくなる日が来るなんて
第4話 ペンの価値 | いつかこれがペンでなくなる日が来るなんて
だいぶこの仕事には慣れてきたが、事のあとの部屋にはどことなく近寄りがたいものがある。
中身を詳しく見るわけではないが、燃えるゴミと燃えないゴミの区別はしなければならない。
「あら、今日のカップルはだいぶハッスルしたようね」
5つのゴムの中はすべて液体が入っていた。
使い捨てのゴム手袋で、いつものようにゴミ箱からゴムやティッシュを拾い上げていったとき、ペンのようなものを見つけた。なかなか年季の入った万年筆だった。
「これ、すごく高いんじゃないかしら?」
どうせ捨てられていたものだ。このホテルでは、客が荷物を取りにきたことなど一度もない。私は万年筆をポケットにしまい、清掃を続けた。
家に帰ってから、大白屋に行くことにした。とりあえず、いくらくらいのモノなのか、知りたかったからだ。
「あの~、すみません。この万年筆なんですけど、おいくらくらい貸していただけるものなのでしょう?」
「こちらの万年筆ですね。一般的には数千円弱にしかなりませんが…あっ!」
鑑定人の顔色が明らかに変わった。何かまずいことでもあるのか?
「あの、おいくらくらいに?」
恐る恐る尋ねてみた。
「これはとても貴重な一品です。この万年筆が流通していてのは、おそらく4、50年前のことです。当時でさえ、かなり高価なものでしたが、いま、マニアの間で『幻の万年筆』と呼ばれています。少なく見積もっても、100万円は優に越えます」
私はとても驚いた。せいぜい5、6千円になったなぁ、と思っていたから。
「どうなさいますか?」
「すぐに価値が下がるとか、そういうことはないですか?」
「一般的には、価格は変動するものですから、なんとも言えません。しかし、この『幻の万年筆』は、上がることはあっても、まぁ、下がることは考えにくいですね。1年後、2年後でも十分間に合いますよ」
私はしばらくの間、手元に万年筆を置いておくことにした。質に出すのは、ひとつ大仕事を片付けてからでもいいと思ったのだ。
私には子どもはいない。だから、離婚することは、ある意味において、自分の意思だけで決めていい。だが、これからの生活を考えると、なかなか踏み切れないでいた。
しかし、仮に、この万年筆が数百万円に換金できるなら、とりあえず夫と別れてもなんとかやっていけるはずだ。新しいアパートを見つけ、早く夫から別れたい。
…つづく

こちらのマガジン(↓)に全話収録します。
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