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【第22回】巨大プラットフォーマーと国家~テクノポーラー世界とは?

東京大学大学院情報学環を拠点とする「プラットフォーム研究会」は、国内外のさまざまなプラットフォーマーの経営、歴史、思想、創業者群像、政治との関係、生成AI戦略などについて、2025年9月まで26回の会合で議論を重ねてきました。

本noteでは、西村陽一・東京大学大学院客員教授による「情報社会論」講義(情報学環教育部、2024年度)の一部を再録するとともに、学生たちのエッセイを順次、紹介しています。

講義再録については、これまで、初回(イントロダクション〜プラットフォーマーとメディアを取り巻く潮流)、第二回(プラットフォームビジネスのメカニズム~その急成長とパワーの源泉)、第三回(戦争と情報~ウクライナ戦争とプラットフォーマー)をお届けしてきました。

ここからは第四回(2024年5月、巨大プラットフォーマーと国家~競争・協調・リスク)を掲載します。

今回の配信では、「テクノポーラー世界」について考えます。それは、先端テクノロジーを武器に急成長し、巨大化した一握りのプラットフォーム企業やテック企業が、地政学的なプレイヤーとして無視できない存在に躍り出た世界のことです。


学生の質問から

本日は4回目の講義となります。

今回は、巨大プラットフォーム企業、ビッグ・テックと国家との関係についてお話します。

いろいろな関係が考えられます。

たとえば、国家とプラットフォーマーがライバルとして激しく競い合うような競争関係があります。

あるいは、両者が互いに相手の力を利用しながら、自分たちの利益のために戦略的に提携するような、水平の協調関係もあるでしょう。同じ協調関係といっても、片方が相手のご機嫌をうかがい、下手に出るような、対等ではない関係もあるでしょう。

片方が他方を支配し、ルールを押し付けたり、制裁を科したりするような垂直の権力関係も考えられます。

もしかすると、一方が衰退し、残る一方が権勢を誇るような世界が来るかもしれません。

本題に入る前に、このテーマに関連して、ここまでの3回の講義を踏まえた質問が事前に寄せられています。

学生Aの質問

前回の講義では、マイクロソフトがウクライナ戦争に際して、ロシアのサイバー攻撃をつかんで分析したり、ウクライナ政府のデータ資産を守ったり、米軍とともにウクライナ政府のサイバー防衛体制を築いたりしていたという話がありました。

これはまさに、巨大テック企業が国家と事実上対等な立場で渡り合っていることの例だなと思って聞いていました。また、生成AIについても、キッシンジャーの提唱した、国家による『AI軍拡規制』の話がありました。

AIの進展がビッグ・テック、ビッグAIだけの主導でもたらされることはとても危ういと思います。かといって、国家がAIを管理することにも危険なものを感じます。

だとすると、AIガバナンスに対する国家の役割と介入はどこまで認めるべきなのか、という疑問が出てきます。これまで説明のあったような、プラットフォーマーと戦争、プラットフォーマーとAIについて考えていくと、つまるところ、ビッグ・テックと国家権力との関係はどうあるべきか、という問いに行き着きます。この点について教えてください。

巨大プラットフォーマー、ビッグ・テック、ビッグAIと国家との関係はどうあるべきか―。とても大きな構図の質問です。これこそが本日のテーマです。後半では質問にあったAIガバナンスについても取り上げたいと思います。

テクノポーラーの世界

革命的技術がもたらす進歩と危機

最先端のデジタル技術を駆使して急速な成長を遂げた巨大プラットフォーマーが、現代の世界でどんなリスクになっているのか。まず、そんなリスクの観点から話を進めます。

ここからはあくまでリスクが中心となる話です。

話の構成上、テクノロジーがそもそも持つさまざまな可能性という前向きの側面が話の主役となるわけではありません。説明するのは、さまざまなリスクの要因です。言うまでもありませんが、それがそのままテクノロジーの可能性を否定するものではありません。

たとえば、AIの倫理について考えを深めることが、産業革命期のラッダイト運動、いわゆる打ちこわし運動のように、AIを破壊せよという主張を意味しないのと同じことです。


活版印刷の発明からインターネットに至るまで、人類は数多くの新技術革命を生み出してきました。技術によって人類は進歩したのですが、広島、長崎を見るまでもなく、革命的な技術は人類を破滅させるだけの衝撃も、もたらしてきました。

進歩の側面は歓迎されます。しかし、新しい技術の登場からしばらくは、潜在的に破壊的な負の側面は、世の中では過少評価されがちです。リスクを正面から取り上げるのは、危機が本格的に到来してからでは遅いからです。

二極世界・一極世界・Gゼロ世界

前回講義で、皆さんから「デジタル冷戦」についての質問を受けたとき、それに答えるなかで「ユーラシア・グループ」という、政治リスクや地政学リスクを分析している米国のコンサル会社と、その創設者のイアン・ブレマーという人物について紹介しました。
【第21回】巨大プラットフォーマーと戦争~学生たちの質問に答える|プラットフォーム研究会

ここから先は、「ユーラシア・グループ」のいくつかのリスク・レポートをもとにお話しします。


まずは「テクノポーラー」世界という言葉の説明から入ります。

ポーラー、ポールとは「極」です。

冷戦が終わってからしばらく、世界は米国一極支配の時代でした。

私がモスクワ勤務を終えて、ワシントンで記者をしていたのは、クリントン政権とブッシュ(子)政権の時代だったのですが、それは、旧ソ連が崩壊し、中国が改革開放路線を疾走していたときでした。当時の米国の有力閣僚が「アメリカは世界になくてはならない国だ」と口癖のように言っていたのをよく覚えています。

このころはまさに、冷戦に勝ったという陶酔と熱狂のなかで、米国一極がリベラル国際秩序を支配し、グローバル化による経済的な繁栄を謳歌していた時代でした。

これがユニポーラーワールドです。


その前の冷戦時代は、米ソの二大パワーが対立していました。二極支配、つまり、バイポーラ―ワールドとなります。

いまの世界には、冷戦時代の米ソのような、あるいは冷戦終焉後しばらくの間の米国のような、中心となる極がない世界です。米中二大パワーのG2とも言いきれません。ブレマーは権力空白状態の世界を、G7やG20ならぬ「Gゼロ」世界と名付けました。

巨大プラットフォーマーの主権行使


皆さんが昔世界史で学んだように、約400年前、ウェストファリア体制が誕生し、国民国家が国際政治の構成要素として規定されました。以来、国民国家が世界秩序を形作ってきました。国際関係は、国家の対立、紛争、協調を基本としています。

皆さんは「地政学」という言葉を頻繁に見聞きすると思います。ひとことでいえば、地理的な条件や環境が、安全保障を中心とする国家戦略のうえで重要な役割を果たすという考えです。


三回目の講義で、「スプリンターネット」について話しました。インターネットの世界が、国家によってコントロールされた断片的なネットワークの集合体に分裂してしまう現象を指す言葉でしたね。

Splinternetとは?

オープンでグローバルに接続されたネット空間
断片的なネットワークの集合体に分裂
かつて存在しなかったインターネット上の「国境」

「スプリンター(分裂)」と「インターネット」

デジタル世界とは、そもそも境界や国境のない、オープンでフラットな空間のはずでした。それなのにいまでは、地政学的な力の競争の世界において、デジタル空間もまた重要な領域となっています。

また、二回目の講義では、プラットフォームビジネスの急速な成長と巨大化のメカニズムについてお話ししました。アップル、グーグルなどのGAFAMは、世界の人々のインフラとしてのグローバルプラットフォームをつくることに成功し、インターネットのOS、検索、デジタル広告、ソーシャルメディア、通販などのビジネスにおける支配権を確立し、巨大なデータを手にしました。


皆さんはそのプラットフォームに自由にアクセスできます。プラットフォーマーは、国境を越えた何十億人ものユーザーの個人データを解析し、モノやサービスを広告したり販売したりすることで、莫大な利益を手にしました。

彼らは、その利益で買収を重ね、独占・寡占的な市場の支配に成功しました。同時に、日常生活や商取引に関する規則をつくり、取引に関する紛争も自前のルールで処理するようになりました。


そして、巨大プラットフォーマーは、一般の市民生活や経済活動だけにとどまらず、国家と国家との地政学的な争いにまで影響力を持つようになったわけです。

ウクライナ戦争において、マイクロソフトやアップル、グーグルなどのプラットフォーム企業、イーロン・マスクのような経営者の果たした役割がそれを最も雄弁に物語っています。

選挙で選ばれたわけではない、ごくひと握りのテック企業やその経営者たちが、ときに国家と肩を並べるくらいの力を持ち、地政学的なプレイヤーとして、デジタル空間と物理的世界の両方で影響力を行使するようになりました。

これがテクノポーラー世界です。

デジタル課税とアップル税

彼らは、国家権力の行使、たとえば課税に抵抗してきました。

商売のグローバル化とデジタル化によって、巨大プラットフォーマーは、どこかの特定の国に拠点を持つことなく、国境を越えたビジネスを展開しています。

アマゾンが世界中の流通から手にする手数料はちょっとした政府の税収に匹敵します。彼らの市場は国家という物理的な境界を超えた全く新しいものです。

プラットフォーマーの超国家的なもうけに対して「デジタル課税」をしようという税改革の動きが起きました。これなどは、主権国家の最大の権力行使としての課税という行為が、巨大プラットフォーマーの前には通用してこなかったという状況を表しています。

つい先日ニュースで流れたので、皆さんも聞いたと思いますが、「アップル税」というものがあります。

アプリ事業者がアップルのアプリストアの決済システムを使って利用者に課金すると、最大30%の手数料を取られるというものです。

国際的な法人税課税には抗うかたわら、自分の経済圏のなかでは事業者に「課税」するというのも、「税」という最も重要なシステムをめぐる巨大プラットフォーマーの力を示しています。

巨大プラットフォーマー、ビッグ・テックは、地政学的にまったく新しい次元としてのデジタル空間において、一種の主権を行使するプレイヤーに肥大化していったといっていいでしょう。

国家の逆襲

このため、こんにちの世界では、国家と巨大プラットフォーマーが新たな形の競争に直面するようになっています。

この講義では後日、欧州連合(EU)による巨大プラットフォーマー規制の歴史や思想、現在地について話しますが、ユーザーの個人データへのアクセスに対する規制、プラットフォーム企業に対する法規制、反トラスト法、独占禁止法などの競争法を武器に独占を打破しようという動きが、欧州に続いて、米国でさえ起きています。

巨大プラットフォーマーには、さまざまな規制が試みられ、多くの裁判も提起されるようになりました。

これは、国家からのいわば逆襲です。新しい動きといえます。

注:本講義当時の2024年春、米国はまだバイデン民主党政権下にあり、プラットフォーム規制、テック規制、AI開発規制などの動きが強まっていた。

巨大プラットフォーマーは衰退するか

国家が巨大プラットフォーマーのテクノロジーやAIを最大限に制約すれば、技術によって生活を便利にするようなプラスの面が封じられる恐れがあります。

一方で、ビッグデータの収集・分析・加工やAI開発に最大限の自由を認めてしまうと、プライバシーの侵害、あるいは「AI軍拡」のところでお話ししたような、人類に破滅をもたらしかねないマイナスの面を引き出しかねない危険が伴います。

こうしたジレンマを避けることができるような規制や統治のあり方、ガバナンスの体制とはいったい何だろうか?

これがいま世界で盛んに議論されているテーマです。


ここで次のような問いが出てきます。

世界で議論されている一連のテック規制によって、巨大なプラットフォーム企業、テクノロジー企業の巨額の利益、地政学的な影響力はすぐに落ち込んでいくのか?

結論から先に言うと、私は、まだそうはならないと考えています。

先に巨大プラットフォーマーのビジネスモデルの根幹を解説しましたが、彼らのビジネスの基本設計のところまで切り込もうとして、巨大プラットフォーマーに宣戦を布告したのがEUでした。

しかし、「EU対巨大プラットフォーマー」の戦いは、まだほんの序章にすぎません。

EUの規制当局と巨大プラットフォーマーとのせめぎ合いは、おそらくロシア・ウクライナ戦争よりも長く続くと思います。このため、当面は、デジタル空間においては巨大プラットフォーム企業がメインプレイヤーであり続ける可能性があります。

この流れを後押ししているのが、生成AI技術の進展です。

 テクノロジーの最大限の制約
 →技術の利便性が封じられる恐れ
 ビッグデータの収集・加工、AIの最大限の自由化
 →プライバシー侵害、破滅をもたらしかねないマイナス
 
 ジレンマを克服するための規制やガバナンスとは? 

 EUと巨大プラットフォーマーの「戦い」の長期化
 当面は巨大PFがメインプレイヤー
 
 AIが流れを後押し

国家との関係に左右される

先に、「ビッグ・テック」が「ビッグAI」に変容しつつあり、なかでも長期的な勝ち組は、クラウドコンピューティング・プラットフォームを支配しているアマゾン、マイクロソフト、グーグルのいわゆるクラウド御三家になる可能性がある、という話をしました。

ただ、ここで一点、留保をつけなければなりません。

豊富な資金を持つ巨大プラットフォーマーが、最先端AIに自由にアクセスできて、そこに思い通りに巨額の投資をできるかどうか、それは、国家との関係に左右されるところもあるということです。


ビッグ・テックが豊富な資金にものを言わせた絶大なロビイング力で、国家の規制を退ける可能性があるかもしれません。

国家がライバル国家との対立に勝ち残るために、莫大な資金を優先的に最先端AI開発に投じたり、「ビッグAI」と二人三脚を組んだりしてイノベーションを主導していくのかもしれません。

現段階(講義は2024年5月)では、世界は、ビッグ・テックと国家が激しく競り合うような世界に移行するか、ビッグ・テックと国家ががっちり肩を組む世界に変わるのか、どちらの可能性も考えられます。

そうした時代を経て、一進一退はあるにせよ、長期的には、ビッグ・テックの方が政府よりもはるかに強い、支配的なプレイヤーとなる世界が到来する可能性も否定はできません。

そうなると、400年間続いてきた、国民国家を基本単位とするウェストファリア体制の終わり、そして次の体制、つまりポスト・ウェストファリア体制を迎える可能性すらでてきます。

これは、ウェストファリア的な国家の支配秩序から、一握りの巨大なプラットフォーム企業が圧倒的な主導権を握る新秩序への移行を意味します。

一極(ユニポーラー)でも二極(バイポーラ―)でもない世界。それが「完全なテクノポーラー秩序の世界」といえるでしょう。
(第23回配信に続く)

「プラットフォーム研究会」:プラットフォーマーはどこから来たのか。彼らは何者なのか。そして、どこへ行くのか。|プラットフォーム研究会

3回目の講義テーマ
「戦争と情報~ウクライナ戦争とプラットフォーマーについて」
【第15回】巨大プラットフォーマーと戦争~ウクライナのSNS戦争とアルゴリズム戦争|プラットフォーム研究会
【第16回】巨大プラットフォーマーと戦争~ウクライナでの情報戦の威力、地上の冷酷な現実|プラットフォーム研究会
【第17回】巨大プラットフォーマーと戦争~イーロン・マスクの帝国とスターリンク|プラットフォーム研究会
【第18回】 巨大プラットフォーマーと戦争~プラットフォーマーの「参戦」|プラットフォーム研究会
【第19回】巨大プラットフォーマーと戦争~ディープフェイクと「AI軍拡」の競争|プラットフォーム研究会
【第20回】巨大プラットフォーマーと戦争~デジタル分断の時代? |プラットフォーム研究会
【第21回】巨大プラットフォーマーと戦争~学生たちの質問に答える|プラットフォーム研究会



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