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【連載 Vol.2】「本当の回復」とは、"固い土"を耕す作業

── noteマガジンの連載記事です。



○ はじめに


前回の記事『旅の始まり:カタルシスという「入口」と、「目的地」は別』では、私たちがつい囚われがちな「話してスッキリした」というカタルシス(感情の解放)が、実は旅の「入口」に過ぎないこと。

そして、傾聴が本当に目指す目的地は、持続的な生きやすさに繋がる「本質的な回復」にあると触れました。

では、その「本質的な回復」へと至るための中心的なプロセス、「自己探究」とは、いったい、どのような歩みなのでしょうか。

今回は、その「自己探究」という少し難しく聞こえるかもしれない言葉を、『固い土を耕す』というメタファー(隠喩)を使いながら、近づいてみようとする試みです。

○ 「固い土」と「豊かな土壌」


まず、二つの異なる「心のケア」のイメージを比べてみます。

一つは、「固い土の上に、ただ水をまく」ような関わりです。

ひび割れて固くなった土壌の上から水をかけても、その場しのぎで表面が湿るだけ。水の多くは浸み込まずに流れ去り、土そのものの固さは変わりません。

これは、「一時的な安心感」に似ています。

一方で、自己探究とは…
「土壌(心のあり方)そのものを深く耕し、豊かにしていくプロセス」
です。

時間はかかるかもしれません。
しかし、一度ふかふかに耕された豊かな土壌は、水をたっぷりと含み、生命を育む力を取り戻します。

そこでは、これまで悩みの種だった石や雑草さえも、土壌の一部となり、悩みや苦しみは、新しい可能性の芽を育てるための「力(養分)」に変わっていくのです。

○ なぜ、深く土を耕す必要があるのか?


この「土を耕す」という自己探究の旅は、単に自分の性格を知るといった表層的な作業ではありません。

それは、自分という存在の深淵に光を当て、「自分だと思っていた自分」の輪郭をあえて溶かし、その奥にある「まだ、生み出せていなかった本当の自分」を見い出していこうとする、壮大で、時に困難な、しかし何よりも豊かなクリエィティブの旅路です。


ここで誤解されたくないのが、私が言いたいのは「本当の自分に出会う」という書き方をしていないところです。

「本当の自分が、どこかにいるというよりも…(どこに??)
あれこれと模索しながら感じていくプロセスで創り出していくクリエィティブな営み」のようにおっしゃっておられた、ある先生の言葉が、私も胸にストンと落ちやすかったです。



ではなぜ、私たちはそこまで深く、自分自身の内なる土壌を耕す必要があるのでしょうか。

それには、主に3つの大切な理由があるのではないかと思えます。

1.「借り物の価値観」からの解放

私たちは知らず識らずのうちに、親や社会、文化から与えられた「こうあるべきだ」という価値観を内面化し、それを自分のものだと信じて生きています。
心の奥底で違和感や虚しさを感じるのは、その価値観が「本来の自分」の感覚とズレているからかもしれません。

深い自己探究は、これらの“借り物”の鎧を一枚一枚脱ぎ捨て、自分の核となる純粋な価値観にたどり着くためのプロセスです。

2.「影(シャドウ)」との統合

心理学者ユングが提唱したように、人間には光の部分だけでなく、「影(シャドウ)」と呼ばれる側面があります。
これは、自分が認めたくない、見たくないと感じる、抑圧された欲求・怒り・嫉妬・弱さなどのことです。

真の自己探究は、この影の存在を認め、対話し、自分の一部として統合していくプロセスです。
影を受け入れた時、私たちは初めて全人的な存在となり、より深い安定と力強さを手に入れることができます。

3.「傷」を「叡智」へと転換する

誰の心にも、過去の経験によってつくられた「傷」が存在します。
誰もが「自分自身の当事者」だと思います。

その傷は、特定の状況で過剰な反応を引き起こしたり、私たちの行動を無意識に制限したりします。

深い自己探究は、この傷ついた内なる子ども(インナーチャイルドなど)の声に耳を傾け、癒すプロセスです。

もちろん、傷ついた経験そのものを消すことはできませんね。
過去と他人は変えられない、という言葉を思い出します。

それでも、その傷を抱えながらでも…

自分に何を教えようとしているのかを感じ取っていくほどに、それは単なる「弱点」ではなくなってくると思います。
誰かの痛みを理解し、人生を深く生きるための「叡智」へと昇華されていくのではないでしょうか…?


○ 次回の予告


今回は、「自己探究」が、心の土壌そのものを豊かにしていく、建設的で優しいプロセスであると触れてきました。

クライエント軸で進めるとは、「クライエント任せ」にするという受け身の姿勢などではありません。
もちろん、意図的に誘導をかけることでもありません。

クライエントさんご自身が、自分の心の声を聴いていけるように支えながら、伴にクライエントさんの自己探究の道を歩んでいけるように伴走するというプロセスです。

では、そのようにして耕された「豊かな土壌」とは、具体的にどのような状態なのでしょうか?

次回は、カール・ロジャーズが描いた「成長する人」の姿を通して、私たちが目指す回復のイメージを、さらに具体的に見ていきます。

【Vol.3】豊かな土壌の姿とは?——ロジャーズが描いた「成長する人」に続きます。

(【Vol.3】へ続く)


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