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【連載 Vol.3】豊かな土壌の姿とは?——ロジャーズが描いた「成長する人」

── noteマガジンの連載記事です。



○ はじめに


前回の記事『「本当の回復」とは、"固い土"を耕す作業』では、「自己探究」が心の土壌そのものを深く耕していく、創造的なプロセスであると触れてみました。

クライエント軸で進めるとは、「クライエント任せ」にするという受け身の姿勢などではありません。
もちろん、意図的に誘導をかけることでもありません。

クライエントさんご自身が、自分の心の声を聴いていけるように支えながら、伴にクライエントさんの自己探究の道を歩んでいけるように伴走するというプロセスです。

では…そのようにして豊かに耕された土壌とは、いったいどのような状態なのか考えてみます。

今回は、傾聴の開祖であるカール・ロジャーズが描いた「完全に機能する人間(a fully functioning person)」の姿を通して、私たちが目指す回復のイメージを、さらに具体的に見ていきたいと思います。

○ 「完全に機能する人間」とは?


まず大切なのは、カール・ロジャーズは「回復」を病気の治癒としてではなく、人間的な成長のプロセスとして捉えた、という点ではないでしょうか。

彼が述べた、セラピーが目指す理想的な状態「完全に機能する人間」とは、どこかにあるゴールテープを切るような、固定された完成形ではありません。
それは、常に成長し続ける、しなやかで豊かな「あり方」や「生きるプロセス」そのものを指しているようです。

ロジャーズによれば、そのように心の土壌が豊かになった人は、主に5つの特徴を持つようになるといいます。

どんなものなのか、私としては気になります…
一つひとつ、見ていきます。

1.経験への開放性 (Openness to Experience)

自分にとって都合の悪い感情(怒り・悲しみ・恨み・妬み・嫉妬など)や事実から目を背けたり、心を閉ざしたりしません。

良いことも悪いことも含め、あらゆる経験を歪めることなく、ありのままに受け入れる捉え方ができます。

固い土壌が水を弾いてしまうように、心が閉ざされていると、新しい経験や気づきは入ってきません。

土壌が柔らかく耕されているからこそ、人生のあらゆる恵みも、困難さえも、養分として吸収していく関わりができるのですね。


2.実存的な生き方 (Existential Living)

過去の後悔や未来への不安に縛られず、「今、この瞬間」を大切に、そして豊かに生きることができます。

変化を恐れず、流動的な現実の中に身を置き、その時々の自分を最大限に生かします。

これは、計画性がないという意味ではなく、計画に固執しすぎないしなやかさ、と言うと分かりやすいかもしれません。


3.自分自身の感覚への信頼 (Organismic Trusting)

「こうあるべきだ」という社会の常識や他人の評価に頼るのではありません。

自分自身の内側から湧き上がる感覚や直感を信頼し、それを頼りに意思決定ができるようになります。
自分の心の声が、最も信頼できるコンパスだと知っているのです。


4.自由な感覚 (Experiential Freedom)

他人に強いられた人生ではなく、「自分の人生は、自分で選択している」という主体的な感覚を持ちます。

どんな状況であっても、自分のあり方や反応を選ぶ自由が自分にはある、と感じています。

誰かのせいでこうなった、という被害者意識から抜け出し、自分の人生の創造者として立つ姿です。


5.創造性 (Creativity)

決まりきったやり方に固執せず、新しい状況に柔軟に適応し、自分らしい表現や生き方を創造的に見出していきます。

建設的で、社会的な貢献にも自然と目が向くようになります。


○ まとめ:プロセスとしての回復


ここまで見てきたように、ロジャーズにとって「本当の回復」とは…

自分自身とのズレ(自己不一致)が少なくなり、ありのままの自分として、変化し続ける人生のプロセスを、信頼して生きていけるようになる状態

…を指しているのではないかと思えてきます。

それは、完璧な人間になることではありません。

むしろ、不完全さも含めた自分自身を深く信頼し、人生の旅を続けていく力、そのものなのです。


○ 次回の予告


今回は、自己探究の先にある「豊かな土壌」の姿を、ロジャーズの言葉を借りて、具体的に描いてみる試みでした。

それは完璧な状態ではなく、ありのままの自分として、しなやかに成長し続ける「プロセス」そのものへの誘いにも思えました。

では、このような成長の旅を支えるために、聴き手にはどのような関わり方が求められるのでしょうか…

次回は、探求の扉を開く、とても重要な鍵となる「共感」の本質に触れてみます。

【Vol.4】探求の扉を開く、たった一つの関わり方 ──「共感」の本質(への入口) に続きます。

(【Vol.4】へ続く)


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