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人の心の火が消えていく会社で起きていること

人が会社を離れる理由は、一つではありません。

給与
人間関係
仕事内容
将来への不安
家庭の事情
体調の問題

表面上の理由はいろいろあります。

でも、私がこれまで人と向き合う中で感じてきたのは、
人は急に会社を離れるわけではない、ということです。

その前に、少しずつ心の火が消えていく。

最初は、言いたいことがある。
もっと良くしたい気持ちもある。
自分の力を活かしたい思いもある。

でも、それが受け止められない。
何を言っても否定される。
自分の良さが活かされていないと感じる。

そういうことが重なると、人はだんだん話さなくなります。

それは、仕事が嫌になったというより、
期待しても無駄だと思ってしまった状態なのかもしれません。


火が消えていく人を見たことがある

以前、ある会社で働いていた時、高学歴で大手企業での経験もある人が入社してきたことがありました。

とても優秀な人でした。
自分の経験にも自信がありました。
前の会社で成果を出してきたやり方も持っていました。

その人は、その経験を新しい会社でも活かそうとしました。

ただ、当然ですが、会社が変われば文化も違います。
今まで通用していたやり方が、そのまま通用するとは限りません。

上司は、その人に何度も指摘をしました。

最初は本人も反論していました。
自分なりの考えもあったのだと思います。

でも、指摘が重なるうちに、だんだん意見を言わなくなっていきました。

表情がなくなっていく。
目の光が失われていく。
どんよりとした空気をまとっていく。

その様子を見るのは、とてもつらいものでした。

本人にも、もう少しうまくやれた部分はあったのだと思います。
新しい環境で自分の能力を活かすには、相手の会社の歴史や文化を知る必要があります。

でも同時に、会社側にもできたことがあったと思っています。

今までやってきた人たちのプライド。
新しく入ってきた人の経験や才能。
その両方を見ながら、その人の力を発揮できる場所を一緒に考えること。

それが必要だったのだと思います。

今なら、こう伝えたいです。

あなたの持っている才能を、
この会社でいちばん発揮できる方法を一緒に考えましょう。

そう言えたら、少し違ったのかもしれません。


否定ではなく、接続が必要だった

新しく入ってきた人が、過去の成功体験を持ち込もうとすることがあります。

それは、会社から見ると違和感があるかもしれません。

「うちのやり方とは違う」
「今までの積み重ねを分かっていない」

そう感じることもあります。

でも、その人にとっては、それまで一生懸命やってきた経験です。
自分が認められてきた方法です。
自分の価値を証明してきたやり方です。

それを最初から否定されると、本人は自分の過去まで否定されたように感じることがあります。

一方で、今までその会社を支えてきた人たちにもプライドがあります。

新しい人から、
「もっとこうした方がいい」
「前の会社ではこうだった」
と言われると、自分たちの今までを否定されたように感じることもあります。

だからこそ、必要なのは否定ではなく、接続なのだと思います。

今までやってきたことを認める。
そこに感謝する。
そのうえで、さらに良くするために、新しい力をどう活かすかを一緒に考える。

過去を否定するのではなく、未来につなげる。

それができないと、今までいた人の火も、新しく来た人の火も、両方消してしまうことがあります。


逃げ道がないと、人の火は消えていく

人に指摘することは必要です。

間違っていることを間違っていると言わなければいけない時もあります。
改善してほしいことを伝えることも、上司や経営者の役割です。

でも、どれだけ間違っていると思っても、
その人の中にある良さや可能性まで消してはいけないと思います。

「ここは直した方がいい」
と伝える一方で、
「でも、あなたのこういうところは良い」
と伝える。

その人が自分を立て直せる逃げ道を残しておく。

これがないと、人は前に進むどころか、自分を守るために心を閉じてしまいます。

実は私自身も、昔は厳しく指摘することが多い人間でした。

前職時代の自分を思い返すと、嫌な先輩だったかもしれません。
自分がそうやって育てられたと言えば、それまでです。
でも、それだけでは人は変わらないこともあります。

後に自己分析をした時、自分には厳しく指摘しがちな面があることに気づきました。
同時に、母親のように温かく見守る気質も持っていることに気づきました。

それなら、自分はその温かく見守る部分を長所として活かしたい。
厳しさが出すぎないように、意識して抑えたい。

そう考えるようになりました。

今でも、厳しい部分が出てしまうことはあります。
でも、意識することで少しずつ変わってきたのだと思います。


やる気スイッチは、周りが押すものではない

人には、やる気スイッチのようなものがあると思っています。

ただし、そのスイッチは、周りが勝手に押せるものではありません。

どれだけ周りが、
「ここを押せばいい」
「こうすれば変われる」
と教えても、本人が自分で押さない限り、本当の意味では変わらない。

周りにできることは、スイッチを押すことではありません。

本人が、
押してみたいと思えること。
押しても大丈夫だと思える安心感を持てること。
押した先に、明るい未来があると想像できること。

その手助けをすることだと思います。

人は、無理やり変えられるものではありません。
でも、変わりたいと思える状態を整えることはできます。

その状態をつくることが、上司や経営者の大切な仕事なのだと思います。


火が戻っていった人もいる

以前、優秀だけれど、周りの気持ちを汲み取れずに孤立していた社員がいました。

仕組みを作る力はとても高い。
物事を形にする力もある。
私にはない強みを持っていました。

だから私は、その人を人事改革のパートナーにしました。

正直、人事の仕事として考えると、周りの気持ちを汲み取ることが苦手なのは大きな課題です。

でも、その人の仕組み化する力は本物でした。
自分が描いたイメージを、形にしてくれるのではないかと思いました。

実際に一緒に仕事をしてみると、最初はうまくいかないことも多くありました。

本人は、自分のやること、自分がやりたいことに強い自信を持っている。
だから、周りがなぜ分からないのかが分からない。
周りの気持ちを考えようと伝えても、なかなか届かない。

でも、話を聴いていくうちに、少しずつ見えてきたことがありました。

その人は、仕事だけの問題を抱えていたわけではありませんでした。
家族との関係に、長い間しんどさを抱えていました。

もしかすると、親に認めてもらいたいという思いが、
「結果を出さなければいけない」
という強い矢印になっていたのかもしれない。

そう感じました。

そこからは、仕事の話だけではなく、家族との関係についても話すようになりました。

最初は、実家に帰ることにも抵抗がありました。

でも、私は半分冗談のように、
「話さなくてもいいから、顔だけでも見せてこい。上司命令だ」
と伝えました。

少しずつ変化がありました。

家族のグループLINEを作った。
一緒に出かけた。
そんな話をしてくれるようになりました。

会社の中で笑った顔をほとんど見たことがなかった人に、少しずつぎこちない笑顔が生まれていきました。

最後には、私が思っていた以上に、従業員のことを考えた言葉を口にするようになりました。

その時、
「ああ、これなら任せて大丈夫だ」
と思いました。

最終的には、会社の中で一番社員のことを考えられる人になっていたのではないかと思います。


仕事の問題は、仕事だけでは解けないことがある

仕事で起きている問題は、仕事だけで解決できないことがあります。

もちろん、すべてに踏み込めばいいわけではありません。
今の時代、プライベートまで干渉されたくないと感じる人も多いと思います。
そこには慎重さが必要です。

でも、仕事と私生活を完全に切り離して見ることも、私は少し違うと思っています。

仕事のしんどさが、私生活に影響することもある。
私生活のしんどさが、仕事に影響することもある。

だからこそ、必要なのは、無理に聞き出すことではありません。

相手が、
「この人になら話してもいい」
「聞いてほしい」
と思える関係を作ること。

そこまで聴ける信頼関係が、やはり一番大切なのだと思います。

報連相も同じです。

報連相は、部下から自然にもらえるものではありません。
上司や経営者が、取りに行くものだと思っています。

ただし、取りに行くというのは、問い詰めることではありません。

報連相したくなる関係を作る。
報連相した後に、否定や論破で終わらせない。
それがちゃんと活かされたと相手が感じられるようにする。

そこまで含めて、取りに行くということなのだと思います。


心の距離で見ると、見られる人数は多くない

マネジメントという言葉で考えると、50人を見ることもできるかもしれません。

数字を見る
シフトを見る
売上を見る
業務の進捗を見る

運営の管理としては可能です。

でも、心の距離で考えると、本当に深く見られる人数はもっと少ないと思っています。

本音を聴く
変化に気づく
表情の違いを見る
その人の背景まで含めて関わる

そう考えると、実際には5人くらいが限界なのかもしれません。

だから、上司一人が全員を抱えるのではなく、
5人に1人くらい、面倒見がよくて、少しお節介な人がいるといい。

そういう人が組織の中にいると、人の火は消えにくくなると思います。

もちろん、そんな人を簡単に揃えることはできません。
だからこそ、一人ひとりが少しでも他人のことを考えて行動できるように、成長の仕組みや行動方針を整える必要があります。

優秀な人だけを集めるのではなく、
人のことを考えられる人を少しずつ増やしていく。

それが、組織を強くしていくのだと思います。


この仕事が好きだと思ってほしい

私は、社員にはやっぱり、
この仕事が好きだ
と思ってほしいです。

たとえ、いつかその会社を離れることになったとしても、
自分がやっていた仕事には誇りを持ってほしい。

楽しい仕事だった。
自分は成長できた。
誰かの役に立てた。
前に進めた。

そう思ってもらえたら嬉しいです。

逆に、辛そうな顔をして働いている姿を見るのが、一番つらいです。

辞めること自体が悪いとは思っていません。
人にはそれぞれの人生があります。
会社を離れる選択が、その人にとって前向きなこともあります。

でも、辞める時に
「もうこの業界では働きたくない」
と聞くと、やはり寂しい気持ちになります。

その人の中にあった仕事への火を、会社が消してしまったのではないか。
そう感じるからです。

人がその会社で働く理由は、一人ひとり違います。

お金
仲間
成長
お客様
役割
誇り
家族に話せる仕事
誰かの役に立っている実感

その理由は一つではありません。

だからこそ、会社は一人ひとりの働く理由を見にいく必要があります。

その理由を満たしたうえで、
「この仕事が好きだ」
「ここで自分の力を活かしてみたい」
「少しずつ前に進めている」
と思える状態を作る。

人の心の火は、放っておくと消えてしまうことがあります。
でも、もう一度灯ることもあります。

その人の才能を否定せず、
過去の努力を認め、
今いる場所でどう活かせるかを一緒に考えること。

そして、本人が自分で前に進みたいと思える安心感と未来を整えること。

それが、人を大切にする経営で大事なことなのだと思う。


人を大切にする経営とは、
人の心の火を消さないことなのだと思う。


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