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相談119万件超でも、なぜ職場の問題は解決しにくいのか



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厚生労働省が2026年7月に公表した2025年度の集計では、全国の総合労働相談は119万8,010件。18年連続で100万件を超えた。いじめ・嫌がらせ、解雇、賃下げ、雇止め。職場で起きる問題は、相談窓口に届く段階になっても、必ずしも解決へ進むわけではない。

ここで必要なのは、「相談が多い=119万件の紛争が未解決だ」と短絡しないことだ。同時に、相談制度があるのに解決が難しい理由を、制度の仕組みから見ることでもある。

119万件の中身は、一種類ではない

総合労働相談は、労働局や労働基準監督署など全国378か所の相談コーナーで受け付けられている。119万8,010件の内訳には、法制度についての問い合わせ78万3,579件、労働基準法などの違反が疑われるもの22万9,156件、民事上の個別労働関係紛争の相談27万7,053件が含まれる。

つまり、119万件は「すべてが会社と労働者の対立案件」という数字ではない。制度を知りたいという問い合わせも、行政による監督が問題になる相談も含む延べ件数である。一つの相談で複数の問題があれば、内容別の集計では複数回数えられる。

ただ、個別の紛争に絞っても重い。民事上の個別労働関係紛争の相談は27万7,053件で、前年より3.5%増えた。内容別の延べ件数では、「いじめ・嫌がらせ」が5万5,614件で14年連続最多。自己都合退職が3万8,386件、労働条件の引き下げが3万3,368件、解雇が3万2,651件と続く。

数字が示しているのは、単なる制度照会だけではない。退職、賃金、雇用継続、職場環境という、生活の基盤に直結する争いが積み上がっているということだ。

相談、助言・指導、あっせんは役割が違う

この制度には三つの選択肢がある。必ずしもこの順番で進むわけではない。

総合労働相談は、情報提供・相談を行い、必要に応じて他機関へつなぐ。2025年度は119万8,010件だった。

労働局長による助言・指導は、問題点を示し、当事者の自主的解決を促す。申出は9,616件だった。

紛争調整委員会によるあっせんは、専門家が間に入り、話合いを調整する。申請は4,486件だった。

助言・指導は、行政が直ちに会社へ命令を出す制度ではない。都道府県労働局長が、当事者に問題点や解決の方向を示し、自主的な解決を促す仕組みである。2025年度は、処理を終えた9,595件のうち9,088件で助言・指導が実施され、その98.4%は1か月以内に処理された。

迅速に動けることは大きな利点だ。しかし「助言・指導を実施した」ことと、当事者が合意して問題が解消したことは同じではない。厚労省の集計も、この段階では実施件数を示しており、合意成立件数としては公表していない。

そこで次の選択肢になるのが、あっせんだ。弁護士や大学教授などで構成される紛争調整委員会が、双方の主張を聞き、必要に応じて解決案を示しながら、合意を目指す。

いちばん大きな壁は、「相手を参加させられない」こと

あっせんの制度は、早く、無料で、非公開という使いやすさがある。その反面、裁判の判決のように相手方を拘束するものではない。厚労省自身も、あっせん案は話合いの方向性を示すものであり、受諾を強制するものではないと説明している。

2025年度に処理を終えたあっせんは4,220件だった。このうち当事者双方が参加してあっせんを開催できたのは1,916件、全体の45.4%にとどまる。一方の当事者が参加せず、打ち切りとなったものは2,006件で47.5%だった。

全処理件数に対する合意成立は1,141件、27.0%。この数字だけを見ると低く見えるが、双方が参加して実際にあっせんを開催した案件に限れば、合意成立は58.4%である。

ここに制度の性格が表れている。話合いの場に双方が乗れば、解決に至る可能性は決して小さくない。しかし、話合いに応じない相手を参加させる権限はなく、事実関係を強制的に調べる制度でもない。賃金や雇用を失う不安を抱えた人が相談しても、相手方が応じなければ、その先は別の手続を考える必要が出てくる。

「相談したのに解決しなかった」と感じる背景には、この制度の限界がある。相談窓口が機能していないというより、相談・助言・あっせんは、あくまで自主的な解決を後押しする制度として設計されているからだ。

相談件数の多さは、制度の入口の広さでもある

それでも、窓口の意義を軽く見てはいけない。何が法令違反の疑いなのか、何が民事上の話合いの対象なのか、最初から一人で仕分けるのは難しい。未払い賃金や長時間労働のように労働基準法などの違反が疑われる問題と、解雇の有効性や退職条件のように民事上の判断が中心になる問題では、進む先が異なる。

相談段階で事実を時系列に整理し、労働契約書・就業規則・給与明細・メールやチャットなどの記録を確保することは、その後に助言・指導、あっせん、労働基準監督署への申告、労働審判・訴訟などを検討する際にも重要になる。

大切なのは、「無料相談があるから、そこで必ず結論が出る」と期待しすぎないことだ。早期の情報提供や話合いで解決できる案件もある。一方で、相手方の参加や証拠の評価、法的な判断が必要な案件では、別の制度や専門家の支援が必要になる。

問われているのは、相談件数よりその先だ

総合労働相談が119万件を超えている事実は、職場の不安や紛争が社会の周辺にある問題ではないことを示している。だが、数字を読む際には、相談件数と解決件数、助言の実施と合意の成立、あっせんの申請と双方参加を分けなければならない。

あっせんで双方が参加した案件では、半数を超えて合意に至っている。それでも全処理件数で見ると、参加に至らず打ち切られる案件が大きい。問題は「相談する人が少ない」ことだけではない。相談の後、対等な話合いの場にどうつなぐかという制度上の課題でもある。

職場の問題を個人の我慢だけに戻さないために、まず制度の限界を正確に知る。そのうえで、相談の入口から先の選択肢を、実際に使えるものにしていくことが求められている。


参考資料

- 厚生労働省「令和7年度個別労働紛争解決制度の施行状況」<br>- 厚生労働省「個別労働紛争解決制度(労働相談、助言・指導、あっせん)」<br>- e-Gov「個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律」


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