見出し画像

SIerが目指すべきカスタマーサクセスとは?~NECの事例と、アドバイス~

ーー「ITの中でもSIerの仕事はお客様からのマイナス面の指摘が多いのが実情だったと思っています。
『なんでシステムが動かないんだ?!』
『いったいシステムにいくらかかるんだ?』とかね。
それがカスタマーサクセスの仕事になると、お客様から感謝されるんです、
『ありがとうございます!』って。」

こう熱く語ってくれたのはNECの宮野亮さん(マーケティング&アライアンス推進部門 プロダクトマーケティング&アライアンス統括部ディレクター[カスタマーサクセスCoEグループ])。

宮野さんにとって、カスタマーサクセスとの出会いは、以前外資の大手ネットワークベンダーで勤務していたときのこと。
所属していたセールスマーケティングチームの隣にいたのが
カスタマーサクセスを担当するチーム。

そこで宮野さんが目にしたのは、1000件のアプローチで10件もヒットすればいいだろうというマーケティングに対して、隣のカスタマーサクセスは98%のリテンション率を誇っていたそうで、このギャップに愕然とし、興味を持ち始めたそうです。
 
今回のインタビューでは、カスタマーサクセスの第一人者である宮野さんに、カスタマーサクセスの考え方と、SIerが目指すべきカスタマーサクセスについてお聞きしました。アドバイスもいただいています。
同席いただいたパワーソリューションズの高橋社長にも同社のカスタマーサクセス戦略について伺いました。


左:NEC宮野 亮 氏、右:パワーソリューションズ 高橋忠郎 氏

■カスタマーサクセスの基本の考え方 CS=CO+CX


カスタマーサクセスとは、お客様の成功のために支援することです。
これはSaaS製品が世の中に出始めたころ、つまりサブスクリプションモデルが始まったころからのビジネスモデルです。

それ以前ではソフトウェアは売り切りで「売ったら終わり」の側面が強くありました。

ところがSaaS製品などのサブスクリプションサービスでは
「導入がスタート」となり
「いかに継続的に使ってもらうか」がポイントになります。

どうやってお客様に寄り添って、使い続けてもらい、お客様の成功を実現するかを考えることにフォーカスしたときに、営業でもマーケティングでもサポートでもない役割が必要となり、それが「カスタマーサクセス」ということになります。

NECご提供:カスタマーサクセス入門より抜粋

お客様の成功を因数分解してみると
CS(お客様の成功) =
CO(お客様の成果) + CX(お客様の体験)

となります。

今はすでに浸透しているリモート会議を例にとると、
ーーリモート会議をどのような目的で何に使うのか? 
単純に機能を提供するだけではなく、どのように使ってもらい、どんな体験をしてもらうのか。

リモート会議によって
CX:会社や客先に行かなくても同じような仕事ができたという体験
CO:移動の節約というアウトプット
これら2つのセットによって成功=CSが得られるという、いわば基本の方程式です。

NECご提供:カスタマーサクセス入門より抜粋

一般にカスタマーサクセスマネージャーは
サービスを導入したお客様に対して、お客様の目的に沿って一緒にサクセスプランをつくり、実行していきます。

海外SaaS製品では「プレイブック」という、導入後に段階を踏んでやるべきことが示されたガイダンスがあり、それにしたがってお客様にトレーニングを受けてもらうことを促します。

■カスタマーサクセスとカスタマーサポートは同じ?!


よくカスタマーサクセスとカスタマーサポートとの違いを聞かれますが、
結果的なアクションとしてはほぼ同じです。

カスタマーサポートは基本的に待ち受けで、トラブルがあったら連絡をもらって対応します。
一方で、カスタマーサクセスは定期的にお客様に会いに行って、利用の定着化や潜在的なトラブルなど未然に対応する、というようにもっと能動的です。

カスタマーサポートがマイナスをゼロにするのに対して
カスタマーサクセスはゼロプラスに持っていくようなイメージです。
 
頻繁にお客様とコンタクトをとり、足を運ぶといった側面では営業的要素も多くあります。
他社での事例を紹介するなどしてアップセル・クロスセルを狙っていくセールスマーケティングのような面もあります。

しかしカスタマーサクセスでは、
導入がゴールの営業に対して、
導入がスタートになるところが大きな特徴です。
お客様のサポートをし続ける点では、サービスや製品により詳しい専門家であることも必要です。

いってみれば、カスタマーサクセスマネージャーは、漫画サザエさんの三河屋さんのような存在ですね(笑)。
「ビール足りていますか? 醤油は必要ないですか?」みたいに。

カスタマーサクセスの業務は
一軒一軒ご用聞きをして回る酒屋さんを思い起こさせます(最近見かけなくなりましたね…)

最近の海外のカスタマーサクセスのトレンドでは
 farmer(農民)ではなくhunter(狩人)になれ
というモデルがあるくらいです。

地道な農作業と、勝負勘のある狩猟

■海外と日本のカスタマーサクセスの違いはSIerの存在


カスタマーサクセスにおいて海外と日本の決定的な違いはSIerの存在です。
海外では基本的にお客様が社内でIT人材を抱えてシステムを内製化しているので、そこに対してカスタマーサクセスマネージャーはアクセスします。
翻って日本では、多くの会社がSIerを通してシステムを導入している。
そこが最大のギャップです。
 
つまり、日本のシステム導入ではSIerが入るのでそれぞれの会社においてカスタマイズが施されていることがほとんどです。
すると既存の一律のプレイブックでは対応しきれないことが多くあり
海外のそのままのカスタマーサクセスを流用できるケースは少ないように思います。

・KPIの違い

たとえば、海外のカスタマーサクセスではKPIはチャーンレートになります。
いかに解約を防ぐか、という数字です。

たしかにこれはSIerにとっても重要な数字ですが
そもそもSI(システムインテグレーション)しているということはお客様に伴走している、つまりすでにタッチポイントが存在しているはずです。

となると、リソースの張り方や設定がだいぶ変わってきます。
既存のタッチポイントを生かして専属のカスタマーサクセスマネージャーは入れずに、運用保守の人材に新しい役割を与えるのか。あるいはセールスの人材に与えるのか。もしくは複数人で役割を分担していくのか。

人を張り付けるということは、費用がかかりますし、カスタマーサクセスマネージャーとして掛け持てる企業も限られてきます。

・SaaSベンダーと非SaaSベンダーのKPI

興味深いのは、日本カスタマーサクセス協会の白書
SaaSベンダーのKPIはチャーンレート(解約率)なのに対して
非SaaSベンダーのKPIはさまざまだという結果があります。

SaaSベンダーのように解約率重視なのか、あるいはアップセル狙いなのか、VoC(Voice Of Customer:お客様の声)重視なのか、それともPMF(Product Market Fit:製品やサービスが顧客のニーズに適切に合致し、市場で受け入れられているかの指標)なのか。

何がお客様の成功で、我々として何が目的なのか」という本質的な部分のとらえ方次第で人の配置も変わり、KPIもさまざまに考えられるということです。

宮野さんは千葉大学理学部出身だそうです

■NECのカスタマーサクセス事例


NECでは2019年からカスタマーサクセスに着手しはじめました。
その頃は、SIerのソリューションビジネスにおいてSalesforceやBoxなどのSaaS製品を組み合わせて提案することが多くなってきた時期でした。

お客様は「同じSaaS製品を導入するならばより安い会社から買おう」と試みるため、商流変更のリスクを考え始める必要がありました。
そこでNECの提供したソリューションを、よりお客様に継続して使ってもらえるよう、お客様の成功にフォーカスしようとカスタマーサクセスのチームを立ち上げました。
 
いくつかのSaaS製品で取り組んで一定の成果が出た段階で全社的に広めようとし、まずはSaaSベンダーによって示されたプレイブックに従ってカスタマーサクセスを行いました。
すると、あるSaaS製品では、新規顧客獲得に注力しすぎたために65%のリテンション率だったのが、カスタマーサクセスの開始後に20%も改善したのです。
こういった小さな実績を積み重ねて、今ではNECのカスタマーサクセスチームは約120人の編成になっています。

・NECのカスタマージャーニー

NECのカスタマーサクセスには2つの部隊があって

ハイタッチ:いわゆる「カスタマーサクセスマネージャー」。お客様の成功実現のため、お客様の会社に赴くなどしながらカスタマーサクセスに従事する、セールス寄りの役割。

テックタッチマーケティングオートメーションツールを使いながらメールやラーニング用ビデオなど、トレーニングを最適なタイミングで提供するようなオペレーションを担当。

ハイタッチが約100名、テックタッチが約10名の配置です。
 
当初のNECのカスタマーサクセスはSaaS製品ごとにバラバラでしたが、
本業はSIerです。複数のSaaS製品を組み合わせているケースも多く、SIerとしての強みを生かして、プロダクト横断でお客様の成功を実現できるよう、2024年から取り組み始めています。

NECご提供:カスタマーサクセス入門より抜粋

たとえばRPAを導入したお客様に対して
導入目的から、一番何をしたいのか? に注目します。

もし経理部門を自動化したいということであれば、横断的に提案します。
「社員にもっと広く使わせたい」というフェーズにあるならば、勉強会を開催しますし、
トップメッセージとして強く伝えたい場合は、それをサポートしていきます。
1年単位でお客様と一緒にサクセスプランを立て、取り組んでいます。
 
その際に、KPIをどう立てるかについてですが
抽象化して表現するならば、まず製品のビジネスプランに注目します。
ここからカスタマーサクセスとして、どう売上貢献しなければいけないか、がみえてきます。これによりカスタマーサクセスの役割を誰に与えるかが変わってきます。KPIはそれに準じて立てています。

・社員向けトレーニングが最重要

今では全社的にカスタマーサクセスに取り組み、教育プログラムをレベルごとに設けています。

カスタマーサクセスに一番大事なのは「教育」といってもいいかもしれません。
なぜなら共通言語ができあがるんです。

カスタマーサクセスはこれまでお話したように、セールスにもサポートにもマーケティングや保守の側面があり、
カスタマーサクセスの考え方がガラパゴス化してしまう可能性があります。
それを避けるためにも、NECでは全社として外部の研修に送り込んでいます。
毎週のように学んでもらって、社員全員で共通言語を持ち、NECとしてのカスタマーサクセスの下地づくりに取り組んでいます。

NECご提供:カスタマーサクセス入門より抜粋

■パワーソリューションズのカスタマーサクセス戦略

高橋さんも千葉大学出身、教育学部卒業生です

(高橋氏)パワーソリューションズでは、これまでのスクラッチ開発のような「つくる」がメインではなく、これからは「つかう」、つまりグローバルSaaSなど、すでに成熟したソリューションを組み合わせながらお客様に継続して使ってもらっていく中で、長期的なパートナーシップを構築していこうとしています。
 
システム開発においてAI搭載SaaS製品を活用して
まずはスピーディに"かたち"にする、
そこからそれらを“使い続けてもらう”中で、
こちらからも積極的に提案し、関係性を深めて既存顧客との取引拡大を大きな成長戦略の柱としています。
 
パワーソリューションズでは実際、UiPathSmartsheetBoomiOutsystemsServiceNowSnowflakeTableauなど複数SaaS製品を組み合わせたソリューションを提供していることが多いのですが、
使っていただいているSaaSの他社事例を紹介すると、お客様からとても喜ばれます。これまでのスクラッチ開発では他社事例をお客様と共有することはありませんでした。カスタム開発ですから。
今はSaaSベンダーから提供される最新活用事例なども共有しながら、今後の展開を一緒に検討することもしています。

またSaaS側にはさまざまなデータを持っていますので、そこからみえてくる利用傾向などから、改善や新規の提案もしやすい状況です。
 
現在はNECさんのようにカスタマーサクセスを組織化できていませんが、AI搭載SaaS活用をきっかけにカスタマーサクセスによる継続提案の質を上げることをで取り組んでいく予定です。

資料:パワーソリューションズご提供

(宮野氏)この図はすごくいいと思っていて、SIerとして目指すべきカスタマーサクセスだと思います。
今までのシステム保守はトラブルシューティングがメインで、どうしても安定稼働を目指さなければいけなかったわけですが、
もっとエンハンス開発やアフターフォローなどお客様に寄り添っていくことは、SIerとしてもやるべきことなのでとてもいいモデルだと思います。
 
(高橋氏)SIerのカスタマーサクセスがある程度確立されたら、海外展開できるんじゃないかと思っています。AI搭載の複数のグローバルSaaSの最適配置提案をして、マネージドサービスとして売り出す。
単一SaaSの導入支援ではなく、複合的なSaaSの運用と活用支援を一気通貫で担うカスタマーサクセス。こういった複雑性のあるソリューションを、丁寧に使いこなしてもらう支援は“改善文化”と“寄り添い”に強みをもつ日本だからこそできることじゃないかと思っています。
「Made in Japan」ではなく、「Remade in Japan」——既存のグローバルソリューションを、日本らしいスタイルで“再提示”していく。そんな発想です。
 
(宮野氏)この30年間、どんどん外資系IT企業にシステムのシェアをもっていかれてしまって、カスタマーサクセスこそはしっかり日本ベースでやっていきたいと思っています。そのためには国内企業横断で協力し合い、知恵を出し合いながら、日本ならではのカスタマーサクセスを実現していきたいです。
※NECは日本カスタマーサクセス協会の会員企業です!

■SIerとしてのカスタマーサクセスについて、宮野さんからアドバイス

・KPIについて

SIerが立てるべきKPIについては前述のとおり、さまざまに考えられます。
そもそもの目的や、カスタマーサクセスの役割を担う人材は誰なのか、専属のカスタマーサクセスマネージャーを設けるのか、運用保守やセールスの人材に役割を与えるのか、複数人で役割を分担していくのか。
これらによって達成したい目標も変わってくると思います。

・社員に対して

そして社員へどう広めていくかには注意が必要です。
私自身、NECでカスタマーサクセスに着手した当初はお手本にしたSaaSベンダーのメソッドをそのまま推し進めていました。

が、SaaSベンダーではないSIerで且つ大規模な組織の当社ともなるとさまざまな社員がいます。

カスタマーサクセスについて説明すると
「それ、もう俺、やってるよ。これまでもやってきてるのと何が違うんだ?」というような否定的ともとれる意見が出てきます。

こういった場合、経験から申し上げると
寄り添う」ことをおすすめします。
強引に押し通すのではなく
そうですよね、今までもやってきて成果を出されていますよね。会社全体としてもっとよくしていくために、学んでみませんか?」といった具合です。

あるいは、「カスタマーサクセス」という言葉を検索しただけで、わかったような気になってしまい、真剣に取り組もうとしてくれないケースもあります。

こういうときには「うちの目指したいカスタマーサクセスは教科書どおりではないよ。○○○○○のためにやっていく」というように、しっかりとした目的意識を植え付けることも重要です。

・お客様に対して

お客様に対しても寄り添うことが重要です。
ベンダーにとっては導入がゴールですが、
お客様にとっては導入がスタートです。

そんなときに
「新しいシステムのスタートのときが一番不安ですよねと寄り添い全面的なサポートを心がけることも、カスタマーサクセスの真髄です。
 

宮野さん、高橋さん、ありがとうございました!