L.L.Bean「ビーン・ブーツ」の歴史。大半が返品された絶望から生まれた、アメカジの定番と「顧客至上主義」#PR
1. Kedsから続く歴史は、「アナログな防水」と「顧客至上主義」へ
我々はこれまで、キャンバスとゴム底から始まった「Keds」の系譜を辿り、レッドウィングの労働耐久、ティンバーランドの成形防水、そしてダナーのハイテク防水(ゴアテックス)と、過酷な環境から生まれたギアの歴史を追ってきた。 そして今回、当連載は時代を少し遡り、「ゴムと革の物理的な融合」と、ある一人の男の「狂気とも言える顧客至上主義」の歴史に迫る。
主役は、アメリカ・メイン州を拠点とするアウトドアブランドの巨星「L.L.Bean(エルエルビーン)」。 我々40代にとって、下半分がゴム、上半分がレザーで作られた「ビーン・ブーツ」は、アメカジやアイビールックにおける雨の日の絶対的定番である。しかし、この愛嬌のある独特なフォルムは、ファッションのためにデザインされたものではない。 それは、一人の熱狂的なハンターが自身の切実な悩みを解決するために生み出した用途特化型の実用靴であり、「初回販売分のほとんどが不良品として返品される」という絶望的な失敗から立ち上がった、執念の結晶なのだ。
2. 1912年メイン州。ハンターの足元を襲う「冷えと濡れ」のジレンマ
時計の針を1912年のアメリカ・メイン州に戻そう。 創業者であるレオン・レオンウッド・ビーン(L.L.Bean)は、大自然を駆け回る熱狂的なハンターであった。しかし、彼には大きな悩みが一つあった。当時の森歩きにおいて、「足が濡れて凍えること」である。

当時のハンターたちの靴の選択肢は二つしかなかった。一つは、完全防水だが重くて足にフィットしない「ゴム長靴」。もう一つは、足に馴染んで歩きやすいが、森の泥水や雪がすぐに染み込んでしまう「革のブーツ」だ。「ゴム靴の防水性と、革靴のフィット感。この二つを合体させれば最強のハンティングシューズになるのではないか?」 レオンはこの極めてシンプルかつ合理的なアイデアの実現に向け、地元の靴職人に依頼して、下半分をゴム、上半分をレザーで作った画期的なブーツ「メイン・ハンティング・シュー」を完成させる。

3. 初回ロットの大量返品と、伝説の「顧客満足保証」の原点
レオンはこの画期的なブーツのチラシを作り、メイン州外のハンターたちに向けて、当時としては画期的な「通信販売(カタログ通販)」で売り出した。 しかし、本当のドラマはここからだった。なんと、販売した初回ロットのほとんどが「ゴムと革の接合部が破れた」という理由で返品されてしまったのである。当時の技術では、硬い革と柔らかいゴムを頑丈に繋ぎ合わせることは至難の業だったのだ。

普通のビジネスマンならここで夜逃げするか、会社を畳むだろう。しかし、ハンターとしての強いプライドを持っていたレオンは違った。彼は親戚から借金をしてまで、返品された代金を全額返金したのである。「自分が納得できない商品は絶対に売らない。顧客が満足するまで保証する」 この出来事は、後にL.L.Beanの象徴となる「顧客満足保証」の原点となり、同社の全米でのカタログ通販ビジネスの圧倒的な信頼を決定づけることになった。
4. 欠陥の克服と、現在まで続くメイド・イン・メインの誇り
全額返金で信用を守り抜いたレオンは、すぐに改良に取り掛かった。当連載の第90弾で解説した「Keds」のルーツでもある巨大ゴムメーカー「USラバー・カンパニー」の協力を仰ぎ、ゴムと革の接合部分を単純な縫製だけでなく、接着や構造設計の根本から見直すことで、破れない強靭なブーツをついに完成させる。
こうして生まれ変わった「メイン・ハンティング・シュー(現ビーン・ブーツ)」は、アメリカ中のアウトドアマンから熱狂的な支持を集めた。 驚くべきは、1912年の誕生から基本的な設計思想を受け継ぎながら、現在でもメイン州の自社工場において、熟練の職人たちの手作業による製造工程が守られ続けていることだ。レッドウィングのブーツなどと同様に、すり減ったゴム底(ソール)を修理・交換しながら長く履き続けることができる「一生モノのギア」としての価値も備えている。
5. アイビーの定番ではなく、誠実なハンターの実用靴を履け
現在、ビーン・ブーツは雨や雪の日の頼れるファッションアイテムとして、都市部でも広く愛されている。 だが、ギア好きの男なら、この歴史を知った上で雨の日の足元にビーン・ブーツを選んでみてほしい。
40代の男がビーン・ブーツの紐を締め上げるとき。それは単に「クラシックなアメカジ」を楽しんでいるのではない。ゴムと革を強引に合体させたハンターの執念と、「大半が返品されても、借金をして全額返金する」という、創業者の圧倒的な誠実さを足元に纏っているのだ。(※かつての「無期限の返品保証」は時代の変化と共に制限が設けられたが、その誠実な精神は今もブランドの根底に流れている)。 雨の日にこのブーツに足を入れるたび、どんなハイテク素材にも負けない「人間の信用という名の防水性」を感じることができるはずである。
