第9話『パラレルコネクター』ファンタジー小説部門
👈第8話に戻る
【一章‐四節 第四世界の夕べ】
「ねえ、レッド。私準備で忙しいから、一緒に会話でも楽しんでいて」
その言葉が合図かのようにさっそくシロはソーナが所有している、コネクターレッドと話し始めた。
「ねえ、レッドさん。レッドさんて恋人もコネクターになってるんでしたよね? それって、今ゼン大統領のもとにいる、ブルーさんですよね。なんかロマンチック! もし問題なければ、いろいろ教えてもらってもいいでしょうか?」
「あら、いきなりね。いいわ、ご指名いただいたのでお話ししましょう。でも、そんな大した話でもないわよ?」
「はい。お願いします!」
「二〇〇〇年以上前になるのかしら……私は第一世界に生まれ、普通に生きていたわ」
しばらく間があった。
「……普通に、ですか?」
「ええ。平和で、友達や家族に囲まれて。天人として生まれたんでしょうけど、別にそんなものは必要なかった。でもそのうち、違和感を覚えるようになったの」
「違和感……」
「私は二〇を過ぎたころに成長が止まった。家族や周りの友達は、年老い、そして別れていった。ある時から、私は知り合いや友人を作らないようにしたわ」
「……一人で?」
「ええ。親友と最後の別れをした時に、誰もいないところにひとりで暮らすことを決めた。さみしかったけど、悲しくなかった。愛する詩を作りながら、余生を過ごしていたの」
「詩を……」
「ある日、誰かに見られているように感じた。気配を伝ってたどり着いたのは別の並行世界。第五世界で彼が私を見つけたところだった。彼も天人であることを憂い、世を捨てていたわ。自分の子供が自分より年老いて死んでいく姿を見て、耐えられなくなったと言っていた」
「……彼が、ブルーさんなんですね」
「ええ。それから私たちはいろんなことを話した。詩を書いてお互いに見せあった。恋人であったかどうかわからないけど、私と彼は同じ思いを共有しあったわ」
「今も……離れているんですよね」
「今でもそうよ。離れていても。それぞれ長い時間の中に生きることを義務づけられても、彼の存在が私と同等にある。『失われるときは同じタイミング』——このコネクターとしての宿命が、私たちの心を平安に保ってくれているわ」
「……ねえレッドさん、私たち失われるときは同じなんですよね?」
「ええ、五つは運命共同体。一つが消えれば、それらの魂はその時全て解放されるはずよ」
「つまり、自分が今、存在するということは、他の五つのコネクターも無事ってことでいいんですよね?」
「そうよ」
「恋人同士の話ありがとうございました。私、小さい頃にコネクターになったから、一度くらい恋したかったなーって、結構あこがれているんですよ」
「あら、今からでも恋すればいいじゃない。たくさんの人がいるんだから」
「えー、人とですか? 嫌ですよ、傷つくに決まっています」
「あら、恋なんて傷つくものよ。特に初恋なんて」
このコネクターたちは何の話をしているんだ。そんなことよりも俺はレッドに聞きたいことがあった。
「レッド、第四世界にもう一つのコネクターがあるんだが、それについて知らないか?」
「ああ、ダイヤモンドね。もう、ソーナが話付けているから、近々会えるんじゃない? 今日じゃないとは思うけど」
「え!? そうなんですか!?」
シロがびっくりしたような声を上げた。
俺はアンタのコネクターのことを聞いたつもりだったが、情報が手に入るに越したことはない。わざわざ否定する必要はない。
「盛り上がっているみたいね」
そこに、両手に大きな皿を持って、ソーナが戻ってきた。
「おいおい、俺たち二人で食べるには多すぎないか?」
「そう? これくらい食べられるでしょう? もしかして好き嫌いあった?」
「いや、問題ない」
「ふふ、頑張って作ってみたのよ。口に合うかわからないけど」
「すごい、おいしそう。ソーナさんってすごいですね」
「シロ、ありがとう。ソーナでいいわよ?」
「ソーナ、ずいぶん上手になったわね。今日のために特訓していたものね」
「ちょっと、レッド。変なこと言わないで。人が来るとなると、いいとこ見せたいのは当たり前じゃない……。あ、ちょっと待って」
そう言ってソーナがキッチンに行ったかと思うと、緑色のボトルを持ちながら嬉しそうな顔で戻ってきた。
「ワイン、好きかなと思って」
「ワインは好きだな。ちょっと見せてくれ」
「ヤマベ、ワインなんてわかるの」
「まあ、俺はいろいろ飲むからな。ん? ギリシャ産……珍しいな」
「変わっていて面白いなって、買っちゃった。ギリシャでは紀元前三〇〇〇年にはもうワインを飲んでいたのね」
「ああそうだ、ワインは戦の疲れをいやす清めの飲み物だ」
「ヤマベ、その戦の疲れをいやすって。ソーナがきれいだからって、かっこつけすぎじゃない」
シロを無視していたら、レッドの柔らかな声が聞こえてきた。
「でもいい言葉ね。戦いの疲れをいやす飲み物……
『男たちは今日も戦う
民を守るために
国の誇りを守るために
時にはその身を犠牲にしたとしても
葡萄酒
戦のあと
そのしずくが
彼らの心と体を清め
その疲れをいやす
今日も飲みほそう
友と語らいながら』」
「さすがレッド、素敵な詩ね」
友と語らいながらか……そうだな。その通りかもしれん。
ソーナがワインを開けようと、ワインボトルを手に持った。まるでボトルと格闘しているようだ。赤ワインは揺らすべきではない。ソーナは少しガサツなところがあるのかもしれない。
「ちょっと待ってもらっていいか? 俺、人に栓を抜かれるのと、注がれるのは苦手なんだ。スクリューを貸してくれないか?」
「えぇ、どうぞ」
俺はソーナからワインボトルとスクリューを受け取ると、キャップをはがしコルクを抜いた。
『ポン』と、小気味よい音がした。
