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第10話『パラレルコネクター』ファンタジー小説部門

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 ソーナが俺の前と自分の前にグラスを置き、向かい合う形でテーブルに着く。俺はグラスにゆっくりと丁寧にワインを入れた。
「じゃあ、コネクターのみなさんには申し訳ないけど、乾杯をします」
 ソーナはワイングラスを持って嬉しそうにそう言った。
 乾杯か……。
 俺もグラスを持ち上げる。
「えっと、じゃあ今日、ここで四人が会えたことに……せーの!」
「カンパイ」と四人の声が重なった。
 香りを楽しんでから、グラスに口をつける。ギリシャのワインは、武骨で濃厚で、どこか懐かしさを感じさせた。
 目の前を見ると、ソーナがにっこりとほほ笑んでいた。俺がシロを見るふりをして目をそらすと、シロがソーナに話しかけた。
「ソーナ、料理を説明してください」
 ソーナは思い出すように、指を折り曲げ数えながら、料理ついて話した。
「えっと、とりあえずは前菜の盛り合わせなんだけどね。羊の生ハム。三種類のチーズはカマンベールとチェダーとパルメジャーノレッジャーノ。あとはサツマイモのオレンジ煮とナッツの盛り合わせね」
 いいな、素朴でワインのつまみにぴったりだ。
 俺はナッツの中にあったクルミをつまんでから、ワインを一口飲んだ。
「ヤマベ、おいしい?」
「ああ、シロ。ちゃんとおいしいよ」
「いいなあ。ソーナの料理はどう? おいしい?」
 顔を上げるとソーナが俺を見ていた。
 俺はソーナが作ったのであろうサツマイモのオレンジ煮を食べる。
「ああ、うまい」
 俺がそう言うと、ソーナは無言のまま俺の目を見つめていた。まるでそこに、何かを探すかのように。
 数秒間。
 それからソーナは大きく息を吐いて、目を三日月のように細め、優しく笑った。彼女はそこに何かを見つけたのだろうか?
 俺はソーナにワインを注ぎながら「いや、本当にうまいよ。びっくりした」と伝える。
 ソーナは満面の笑みを俺に向ける。それはとても柔らかい、優しい笑顔だった。
 女三人がワイワイと騒がしい。その声が遠くに聞こえる気がした。
「ヤマベどうしたの?」と、シロの心配そうな声が聞こえた。
「ヤマベ……本当にどうしたの? どうして泣いてるの?」
 ……泣いている?
 俺が?
 何故?
 目元に手をやると、確かに涙が流れていた。
 目の前を見ると、ソーナも泣いていた。
 なんで俺が泣いているんだ?
「ここは、どこだ?」
「第四世界、日本、ソーナの部屋だよ、ヤマベ」
 そうだよな、あたりまえだよな……。
「すまない、少し混乱していたようだ」
「ごめんなさい」と泣きながらソーナが俺に謝った。
「私が悪いの……」
「いや、大丈夫だ。それにどうしてソーナが悪いことになるんだ。ちょっと疲れているんだ。それより、飲もう。人と飲むのは久しぶりだ。な、ソーナ。もうワインないのか?」
「ええ、フランスのワインなら」
「それにしよう」
「私は、ワインのことはよくわからないわ。でも一緒にチーズニョッキも準備しているの」
「赤ワインにピッタリだ」
「じゃあ、準備してくるね」
 そう言って、ソーナは袖で涙を拭きながら、キッチンへ行ってしまった。
 シロが心配そうに俺に聞く。
「ソーナ大丈夫かな。ねえ、ヤマベも本当に大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」
「……ヤマベは、いつも何かを隠してるよね」
「……何のことだ?」
「言いたくないならいいの。でもなんだか寂しいよ」
「もしそうだとしても、いつか全部わかるよ」
「本当?」
「ああ、本当だ」
「わかった。待ってるね」
「ああ……」
「ヤマベ、あなたは罪な男ね」
「なんだよレッド」
「ふふふ、何でもないわ。
『人はそれぞれ過去と未来にあわせた荷物を背負う
それを引き受け担う姿は
人を引き付ける
たとえその重荷が
彼の犯した罪だとしても
男は自らを呪う
自らを罰するその潔い精神は
人を虜にする
罪深き男よ
お前は己を憎み呪いながらも
その身に更なる罪を増やしているのだ』」
「……何の話だ?」
 俺の口からは、低く重い声が出た。
「……ただの詩よ」
 シロは何も言わなかった。
「すまない。少し精神が不安定になっているのかもしれない」
「きっとワインのせいよ」
 そう言いながら、ソーナがワインボトルとチーズニョッキを持って戻ってきた。
「それより食べてみて。初めてだけど、頑張って作ってみたの」
「いただくよ」
 熱々のチーズニョッキを食べる。ごく普通の味だった。でも一生懸命作ってくれたことは伝わってきた。
 目の前で嬉しそうに俺を見ているソーナを見ていると、なんだかポカポカしてきた。
 チーズニョッキのせいか?
 アンタが心にいるからか?
 アンタには、俺たちの今が見えているんだな。
 アンタがいると、なんだか懐かしい気がするよ。
 アンタが心の中にいるとき、胸があたたかくなる。
 そしてソーナを見て、何故か昔を思い出す。
 懐かしい日々。
 懐かしい日々。俺は、あの頃……。
 俺はワインをもう一口飲んでから、ソーナに言った。
「本当にありがとう。今日のために、こうやっていろいろ考えて、準備してくれてありがとう」
 ソーナが、唇をぎゅっと一文字にして、涙をこらえた。
「よかったわね、ソーナ」
 レッドのその声を聞いて、ソーナはぽろぽろ泣き出してしまった。
 シロは何も言わなかった。
 今は天地人にも、ジルコニアの向こうのアンタにも、俺の気持ちも記憶も読まれたくない……。
 俺はできるだけ何も考えないように、ワインを飲み料理を食べた。
 心地よい。
 今日は酔いが進む。
 瞳がだんだんと重くなる。
 今日は早く休ませてもらおう……
 アンタ、おやすみ。

第11話に続く


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