第11話『パラレルコネクター』ファンタジー小説部門
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【一章‐五節 遅すぎる目覚め】
目が覚めても、俺はそのまましばらく天井を見ていた。
いつもの不快な目覚めではなかった。まるであたたかな何かに抱かれているような……。
誰かと同じ屋根の下で夜を明かすのも久しぶりだった。不思議と、それが自然な感じがした。
窓の外を見ると、空が橙色に染まっていた。
……夕方か。
随分と長く眠っていたようだ。ワインのせいだろうか。
「起きた?」
ソーナがカップを二つ持って戻ってきた。コーヒーの香りだ。
「すまない、寝すぎた」
「いいのよ。その分、ダークマターも溜まったでしょ?」
そう言って微笑んだその目はどこか眠たそうに見えた。もしかしてあまり寝てないのだろうか?
「ねえ、今日はホットコーヒーにしてみたの」
ソーナはカップを俺の前に置き、向かいに座った。
しばらく二人で黙ったまま、湯気の上がるコーヒーを飲んだ。
沈黙が苦にならなかった。むしろ心地よかった。
「ねえ、ヤマベさん」
「ヤマベでいい」
「ヤマベ。昨日、泣いてしまってごめんなさい」
「なんで謝るんだ。俺の方こそ、変な感じになってすまなかった」
「ううん。変じゃないわ」
ソーナはカップを両手で包むようにして持ち、少し考えてから口を開いた。
「私ね、天地人になった時から、ずっと一人だったの。レッドはいてくれるけど、同じ時間を生きている人間は誰もいなかった。お母様を亡くして、遠見の一族も、第一世界も、第二世界も、全部なくなって……」
「ソーナ?」
「ごめん、重い話ね」
ソーナは小さく笑った。でもその笑顔の奥に、濃密な悲しみがあるのがわかった。
「お母さんはどんな人だったんだ?」
「美しくて、思慮深くて、優しい人だったわ。でも、とても苦しんでいた。天地人として生まれたことを、最後まで憎んでいたと思う」
「そうか」
「私もずっとそうだった。この力が嫌だった。全部見えて、全部わかって、そのくせ何もできなくて」
ソーナはそこで言葉を切り、窓の外に目を向ける。
「でも、最近少し変わってきたの」
「何が?」
「うーん。うまく言えないんだけど……なんか、いいかなって思えてきた。この力があるから、あなたたちに会えたんだし」
俺は、何も言わなかった。何か言うべきだったかもしれないが、言葉が出てこなかった。
「ところで、今日はダイヤモンドのコネクターを持つ人物に会う予定なんだろう?」
「そうなの。アウリンね。でもね、待ち合わせはまだ先なの。だから……」
「だから?」
ソーナの顔がぱっと輝く。
「少し早いけど、フィレンツェに行きましょう。……ねえ、いい?」
「フィレンツェ? イタリアの?」
「ええ、アウリンはそこにいるの」
「そうか、ところでフィレンツェは今何時なんだ?」
「今ここが夕方だから、フィレンツェはまだ朝よ」
「かなりの時差だな」
俺は少し考えた。早めに行ってもしょうがない気もするが、大切な天地人様のご要望だ。
「ああ、わかった」
俺がそう答えると、ソーナがまるで花が咲いたかのように満面の笑みになった。その顔を見ていたら何だか可笑しくなってきた。
「ヤマベ、笑ってる?」
「そうか?」
「うん。昨日より顔が柔らかい」
「そうかもな」
「あ、ソーナ! ヤマベ! アンタさん! おはようございます! って、あれ、もう夕方? 私ってばずいぶん寝てた!?」
突然、シロの声が、部屋に響いた。
「ああ、よく眠れていたみたいだな」
「変だなあ、よく理由が分からないよ。でも何だか気持ちよかったような……。あ、もしかしてヤマベも寝てたの?」
「ああ、不思議なくらいぐっすり寝てたよ」
ソーナは俺たちから目をそらし、大きく声を上げた。
「シロ! 今からフィレンツェよ」
