第12話『パラレルコネクター』ファンタジー小説部門
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【一章‐六節 第四世界‐花の都】
「なあ、ソーナ。アウリンとの待ち合わせはいつなんだ?」
「もうちょっと先よ」
「もうちょっとって、何時だ?」
「もうちょっとよ。それより、ちゃんとシロを持っててね」
「胸ポケットに入れておく」
「大丈夫? 落ちない?」
「大丈夫だ」
ソーナは俺の返事を聞くと、一度頷いてからレッドを鞄に入れ左手を俺の肩に置いた。
景色がぐるっと回り目の前がブラックアウトする。
気が付くと、えらい高いところにいた。
「ここはどこなんだ?」
「フィレンツェの大聖堂の一番上よ。ねえ、ヤマベ。今からフィレンツェ観光をしたいの。いいかな?」
「いいかなって、だからアウリンとの待ち合わせは何時なんだ」
「うん。もうちょっと先よ」
「……わかったよ」
俺がそう言うと、ソーナは再び俺の肩に手を置く。次の瞬間には地上に着いたようだった。
「おい。そんなに力を使って、人に見つかったらどうするんだ」
「いま姿消しているから大丈夫よ。認識しないような暗示をかけている感じね。頃合いを見て徐々に認識させていくわ」
「……なんかすごいな」
「天地人の移動は、同じ世界だけではなく、たとえ並行世界を飛んでも時間のズレがないのよ。すごいでしょ?」
ソーナは自慢げにそう言う。
「あぁ、本当にすごい」
俺がそう言うと、ソーナは笑顔で俺の手を引いた。
「ふふふ。そんなことより行きましょう? 私、フィレンツェは何度も来たことがあるけど、観光は初めてなの。楽しみだわ」
「ねえねえヤマベ! 私も初めて! 楽しみだね!」
胸ポケットのシロが大きな声で言う。
ソーナに手を引かれながら、大きな石造りの建物に入った。
「フィレンツェの大聖堂、サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂。イタリアでは町の中心の大聖堂はドゥオーモと呼ばれるわ」
中に入った瞬間、外の喧騒が嘘のように消えた。石造りの壁が音を飲み込み、冷たい空気が肌を包む。
見上げると、天井は人の声が届かないほど高くにあった。
余計なものが何もない。
人が大勢いるのに、皆が沈黙を守っていた。
人の手が丁寧に積み上げた石が、長き歴史を重ね、神聖な空気をそこに生み出していた。
「……すごいな」
「すごいね」
「ヤマベ! すごい! すごい!」
確かに凄いという言葉しか出てこないぐらい、心を奪われ、言葉を失ってしまう。
俺たちは上や横を見ながら歩いた。いろんなところに絵画や調度品があり、その一つ一つが歴史を感じさせる重みを放っている。
奥に十字架にかけられた男が見えた。
俺たちはそこまで歩いて行く。
男の前で立ち止まり、周りの人と同じく天井を見上げた。
圧巻だった。
天上に書かれた巨大なフレスコ画だ。
人が、このようなものを作り上げることに感嘆した。そして敬意を払った。
「ジョルジョ・ヴァザーリとフェデリコ・ツッカリの『最後の審判』。ルネッサンス時代の大作ね」
そう言ってから、ソーナは上を向いたまま、俺を見ることもなく言った。
「ねえ、ヤマベ、私たちの最後の審判はどうなるのかしらね?」
「ソーナ、この世界の行く末か? 天地人にはすでに見えているんじゃないのか?」
俺よりも二十センチは小さいであろう、ソーナが俺の顔をのぞき込む。
「ふふふ、それはまだ秘密よ。ねえヤマベ、今日はいろんなところ見て回ろう? 少しわがまま言うけど、いいよね」
「ああ、わかった。ただ俺も一つだけ見ておきたいものがある。前に写真で見たことがあってな」
ドゥオーモを出ると、俺はソーナの前を歩いた。
ドゥオーモのすぐ近く、白い八角形の建物の前に人が集まっていた。
近づくと、大きな金色の扉が見える。
「天国の扉」とソーナがつぶやいた。
俺はそのまま近づいていった。
柵のあるギリギリまで行って、扉を眺める。
少し遅れてソーナが隣に並んだ。
左右五つずつ。計一〇個の枠にそれぞれ凹凸によって、絵が表現されている。
細かい仕事だ。よく見ると、立体感にずいぶんと差があることが分かる。
その中でも、俺は特に戦のシーンをモチーフにしたものに目を引かれた。よく作りこまれている。
ソーナがシロに聞こえないよう、俺に耳打ちする。
「ヤマベは、本来天人でしょう?」
「……ソーナには、どこまでが見えているんだ?」
「ふふふ、秘密よ。でもすべてがわかるわけじゃないわ。本気で調べようと思えば、たぶん大概のことは分かる。でも嫌なの、私はできるだけ天地人の力を使いたくないの」
「その割に、天地人の能力でポンポンと空間移動してないか?」
「あ、あれは便利だから……」
「なんだよそれ?」
気づいたら、口元が緩んでいた。
戦の彫刻に目をやる。どの時代も、人は戦い、人は死に、人は悲しみに飲み込まれていた。どれだけ時が進もうと、人の営みは変わらない。きっと俺も、何ひとつ変わっていない。
「ねえ、そろそろ中央市場に行こうよ。フィレンツェの人たちが普段何を食べているか見てみたいの。それに今日はまだ何も食べてないから、お腹ペコペコなの」
「ああ、そうだな」
ソーナは今度は力を使って飛ぶことはなく、それでも一切迷うことなく、俺の前を歩いた。
第13話に続く
